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廻りだした太陽

「どうしたのよミニモ。そんなにそわそわして……そんなにエテルノのことが気になるわけ?」

「あぁいえ、それはもちろんなんですけどなんだかさっきの仮面の人の言ってたことが気になったので……」

「あぁ、あいつはまぁ確かに少し気になったわよね……」


 ミニモが言っているのは仮面の男が言っていた、『化け物』と言う言葉だろう。

 あいつはミニモを見てはっきりと、『化け物』と、そう言い切ったのだ。


「化け物はいくら何でも失礼すぎるわよね?」

「あぁ、言ってたね。化け物って言うのは僕からしたら納得できなくはないんだけどさ」


 イギルが武器の手入れをしながらそんなことを言う。

 モフモフの毛並みは少し泥でべたついており、あまり今は触りたいとは思えない。毛づくろいとか、しないのだろうか。


「で、ミニモが化け物って言うのはどういう訳よ。そんな失礼なこと言うぐらいだったらちゃんと理由はあるんでしょうね?」

「んー、まぁね。例えばミニモの蘇生術があったら、バルドの死霊術みたいにいくらでも死なずに攻撃ができるでしょ?それこそ不死身の化け物に見えるかもしれないよね」

「それはそうだけど……」


 でもやっぱり、化け物って言うのは言いすぎだ。

 少し苛立ちをつのらせていると、ミニモがこちらを向いて微笑んだ。


「大丈夫ですよシェピアちゃん。私が気にしてるのはそこじゃないんです」

「……?じゃあ何を気にしてるのよ」

「そうですね……例えば、禁じ--」


 その瞬間、ミシリ、と音を立てて足元がたゆんだ。

 たゆんだ、と言うよりは地面ごと、何かがねじ曲がったような--


「なっ……?!」


 異常な光景に思わず反応が遅れるが、すぐに浮遊魔法で飛び上がる。

 油断した。エテルノやアニキ、フリオが敵の本拠地に行くことになっていたから私たちはあくまで待機するだけだと思っていたのだ。

 まさか人数の減ったタイミングで、敵に襲われるなんて。

 空中なら大丈夫、なはずだけど……どうしよう、私は自分以外に強化魔法を掛けるのは調節が下手なせいで危険が……!

 うろたえていると、ミニモから喝が飛んできた。


「シェピアちゃん!早く浮遊魔法を使ってください!体が弾けても痛みを感じる前に私が治します!だから大丈夫!」

「……っ、分かったわ!」


 まずはミニモに浮遊魔法を掛け、次にイギルを探す。イギルはさっきまでその辺で武器を磨いていたはずだが--


「……ミニモ、イギルを探して!どこにもいないの!」

「分かりました!」


 地面がたわみ、轟音を立てて周囲の木々がなぎ倒されていく。

 先ほどまでイギルが居た場所には、途方もない大穴が、開いていた。


「イギル……!呑み込まれたとかふざけたことぬかすんじゃないわよ……!」


 魔法を放ち、大穴にツタを張り巡らす。どれほどまで続く大穴か分からないけれど、とにかくこのツタが伸びていく速度は間違いなくイギルが落ちる速度よりも早いはずだ。

 まずは何よりも、イギルが落ち切る前にツタでクッションを作ること。それが大事だ。


「ごめんミニモ、今貴方の方に集中できそうにないわ!」


 集中できないから、これから間違いなく魔力の制御が乱れてミニモの体を浮遊魔法が引き裂くだろう。


 浮遊魔法は元々、全身に均等に魔法を掛けている状態で成り立つもの。

 もし腕の部分だけに魔力を割き過ぎれば腕だけが体よりも高く浮遊することになるので、腕の部分から体が弾ける。

 だから、集中を必要とする高度な魔法なのだ。ましてや私は緻密な操作を必要とする魔法はへたくそだ。

 ミニモには申し訳ないが、今は集中できそうにない。グリスティアなら軽々やってのけるのに。


「大丈夫です!慣れてますから!」


 ミニモは何でもないようにその場に浮いているが、間違いなく幾度となく体は裂けているはずだ。

 それを瞬時に治すことで、どうってことないようにその場に浮いている。

 

「っく、イギル!聞こえるんなら返事をしなさいよ!」


 ツタは地面まで届いた。けれど、魔法を使ってみた感触的には相当深くまでこの穴は続いているはずだ。

 この深さなら落ちていったイギルに追いついて、ツタがイギルを捕まえてくれたはず。

 地面は相変わらずとんでもない様相を呈して--


 ……あれ?


「ミニモ、ちょ、ちょっと、私がおかしくなったわけでは無いわよね?」

「……あー……これは……」

 

 どう表現したものか。

 足元に、雲がある。真っ青な大空がある。太陽が、ある。

 上を見上げれば青々と茂る木々の枝葉、茶色い地面。

 まるで天地が、逆転したかのよう。

 先ほどの地面のたわみでへし折れた木々が空に向かって真っ逆さまに落ちていくのが見えた。


「な、なんなのよこれ」

「……禁術ですかねぇ。エテルノさん達は大丈夫でしょうか……」

「ちょ、き、禁術?!しかもエテルノって今それどころじゃ……!」


 言ってみて気づく。

 ミニモの体中に大小様々の剣が突き立っている。

 血すら伝っていない鈍い銀色が体中を貫く。まるでミニモから、棘が生えてきたようだ。


「ミニモ……?!」


 なんだ、これは。

 急に襲ってくるにしたってもっと何か予備動作があるはずなのに。

 何が。


「シェピアちゃん、少し聞いてもらっても良いですか?」

「な、あんたそんな傷で何言って……!」


 ゴポリ、と音を立ててミニモの傷口から真っ赤な血が流れた。


「傷も何も、この程度じゃ私は死にませんよ。というかどうなっても私は死にませんし」


 ミニモが剣の一本を引き抜き、放り捨てる。

 剣を引き抜いた傷口は、いや、傷口は残っていない。ただ服が破けているだけ。

 治癒魔法を使ったのだろう。傷口がそこにあったとは思えないほど白い肌が破けた部分から覗いていた。


「……シェピアちゃん、ちょっとだけ助けて欲しいんですけど……」

「な、何?何でも言って。私がその剣全部を引き抜けばすぐ治癒できる?」

「あ、別に私の事じゃないんですけどね。なんかこう、ものすごい音が出る魔法って使えたりしませんかね?」

「音……?」

「はい。エテルノさん達が気づくレベルなら、どんな大きさでも良いです」


 助けを呼ぶ、と言うことか。

 出来るけどこんな状況であいつらがどうにか出来るとは思えない。

 けれど。

 何が何だか分からないこの状況で助けてもらえる可能性があるならやるべきだ。


 閃光弾と同じような使い方をする魔法があったことを思いだして詠唱を始める。

 普通に使えば二、三秒ほど光を放ち、遠くからでも聞こえる音を発するだけのものだが、私が使う時に限ってはそれ以上の威力を発揮する。

 鼓膜を魔力で守り、目を閉じる。


「ミニモ!危ないから私のそばに寄りなさい!守ってあげる!」

「大丈夫ですよ。もう自分で守ってありますから」


 そういうことなら。

 私のこの魔法を食らったところできっと、視界が奪われて爆音で意識を失う程度だ。

 ミニモなら、例えそうなったとしても治せるだろう。

 イギルだってミニモが居ればなんとかなる。

 この魔法で死ぬことは、絶対に無い。だから全力で。


「それじゃあ行くわよ!『偽陽失世』!!」

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