仮面食事会
「痛ぇ……くっそ痛いんだが……ミニモも連れてきとけばこんな怪我すぐに治るのによ」
「逆にあなたなんでその程度の怪我で済んでるんですか」
「いや普通に収納の応用で……」
「収納……?」
「安心しろ。俺達でもアニキの言ってることはよく分からん」
一足先に落下したアニキだが、どうやら足首をくじいたようだ。
収納の応用と言われてもどうやったらあの高さから落ちて足首をくじくだけで済むのかは分からないが、何か言うとしたらアニキは完璧に自分のスキルを使いこなしているということだけだろう。
正直どうやったのかいまいち推測は出来ないが、アニキは色々な方法でシェピアの襲撃もかいくぐって来ているからな。意外とそれも関係しているかもしれない。
「で、ここからどう進むんだ?」
落下した先は地下通路。洞窟を思わせるような壁面だ。
なんか俺達は地下とか洞窟とかそんなとこにばっかり行っている気がするな。
ってこれ前にもどこかで考えた覚えがあるが。
そろそろ洞窟以外に拠点を構える悪党が居たりしても良いんじゃないのか?例えばそう、巨大な木の上のツリーハウスとか。
「ここからだと……右にまっすぐですね。左に行くと別の入り口に出ます」
「じゃあ穴開けないでも普通にそっちの入り口から入れば良かったんじゃないのかい?」
「まぁ入り口に監視が居るのにそれでも良いんだったら、そっちで良かったかもしれないですね」
「あぁ、そりゃあ監視も付けてるよね。ごめん、今のは忘れてくれると嬉しいよ」
仮面の男は壁面に手を伝わせながら進む。手に縛り付けられた縄が垂れ下がって、泥まみれになっている。
「さて、それでテミルはどこにいるんだ?」
「あぁ、それはですね。僕には、分からないんです」
「……はぁ?」
何を言っているんだこいつは。
「テミルさんがいるのはあくまでこの地下のどこか。通路のつながる場所には居ないでしょうね。だって、マスクさんが隠してるんですから」
「マスク……」
土魔法を使う敵。
この環境なら確かに土魔法は何かを隠すのにうってつけだ。何かを隠す部屋を作って、そのまま入り口を塞いでしまえばいいのだから。
本来であれば探知魔法を使って土壁の向こうだろうと見つけ出すのだが……
「探知魔法は、使えない。考えたなお前ら」
こうなったら地道に掘り返すか、その『マスク』とか言うよく分からない奴を捕まえて居場所を吐かせるか……
と、仮面の男が言う。
「探知魔法……?使えなくなってるんですか?」
「え?」
「え、な、どういうことだい?探知魔法を使えなくしてるのは君たちじゃ--」
その時、仮面の男の背後の壁がどろりと溶けて二本の腕が飛び出してきた。
腕にははち切れそうな筋肉が備わっており、ところどころに浮き上がる白い傷跡が歴戦の猛者であることを察させる。
「なっ……?!」
咄嗟のことに反応できず、仮面の男が一瞬にして洞窟の壁に呑み込まれる。
溶けるように、霞が消えるように、その場から一瞬にしていなくなる。
そしてその代わりに出てきたのが--
「ようお前ら、また会ったな!お前らも食事会に参加しに来たか?」
以前会った、顔の下半分を仮面で覆った大男。
マスクが人懐っこい笑みを浮かべてそこに現れた。
***
「……」
「……」
「あれ?もしかして俺とあんまり喋る気は無い感じ?」
「……普通喋らないだろ。敵だぞ?」
マスク。見た目からして戦闘能力は高そうだし、土魔法はトップレベルだと捕らえた仮面の男は言っていた。
警戒は解けない。解くわけがない。
奴のスキルからすると他にもこの近くの土壁から仲間が飛び出してこないとも限らないため、俺たちは壁から少し離れたところで集まっていた。
「僕たちはテミルを探しに来たんだ。もしテミルのことを知っているのであれば、教えて欲しい」
「んん?テミル?……あぁ、偏食の嬢ちゃんのことな。いるぞー」
「あ、普通に教えてくれるし偏食なのは伝わってるんだね」
偏食と言うかあれは悪食だけどな。
いやそんなこと考えてる場合では無いのだが。マスクと言う男には見た目はこんなんなのになかなかどうして愛嬌を感じさせるオーラが感じられるのだ。
気が抜ける、というか。
「じゃあテミルを返してもらいたいんだけど、良いかな?」
「んー……いや、それはちょっとあれだな。悪いんだけど、留まってもらわなきゃなんねぇんだよ」
そうか、それならば。
そんなことを考えてフリオに目くばせをするが、俺達が行動に移す前にマスクは言った。
「会うだけだったら良いぞ。なんなら飯でも食っていけば良いんじゃね?」
「んん……?」
何か色々と要領を得ないが。
……だがまぁ、テミルと会うことができるのであれば多少なりとも可能性は上がるな。
マスクにバレないようにこっそりとフリオに一応確認してみると、一応ついて行こうとのことだったのでついて行くことにする。
一応今すぐには無理でも、テミルを含めた劇団のメンバーがどんな場所に閉じこまれられているかだけでも今すぐに確認しておきたい。
もし命に危険が及ぶようなら、なんとしても助け出さなければいけない。
「分かった。じゃあ今回は様子を見るだけにしよう。ただし無事じゃ無かったら……ただでは済まないからな」
「はいはい、っと。大丈夫だぜー。嬢ちゃんはむしろ元気すぎて手を焼いてるぐらいだ。あ、そういやこん中にアニキって奴、居る?」
「ん?俺の事か?」
「あー、あんたがアニキね。嬢ちゃんから話は聞いてたぜー」
テミルがアニキの話を?
どんなことを言ったんだ?
「なんか、凄腕のテロリストみたいな彼女に命を狙われてて常に爆発が起こってるような店を経営してる移動式倉庫って話だったけど、ほんとにアンタか?そうは見えねぇけど……」
「どう聞いても俺じゃねぇけど?!」
「アニキだな」
「アニキだね」
「なんでお前らまでそんな認識なの?!」
そんなこんなでいまいち締まらない空気のまま俺たちはマスクの道案内に従って先へ進み--
「あら、エテルノ……とフリオ?!ど、どうしてここに?!」
「こっちのセリフだよね」
「あ、アニキさん!お、あ、その、お久しぶりです!」
「なんでお前そんなに元気そうなの?」
なんかよく分からない男と食事会を開いているグリスティア、テミルと遭遇することになるのだった。
どうするんだよこの空気。全然締まらないがこれで良いのか?