穴の先の楽園
「おいお前、本当にこっちで良いんだろうな?」
「それはもちろん。何か僕が怪しい動きでもしたのなら、この首、即刻刎ね飛ばせばよろしい」
「そんなことやるつもりは無いんだけどね」
今この場にいるのは俺とフリオ、アニキと、先刻捕らえた男。こいつは案内役だな。
ミニモやシェピア、イギルは置いてきている。
「……なぁお前、なんであんなにミニモを避けようとしてたんだ?」
アニキがそんなことを口にした。当然の疑問だろう。
俺達も気になっていた。
「すいません、僕の口からは、言えないんです。そもそも貴方たちが知って良いものかどうか僕には到底判断がつかない」
「それは、ここで死ぬことになってもか?」
「……えぇ。ですがその場合皆さんはテミルさんの居る場所にたどり着けなくなりますね」
「……」
「エテルノ、もう良いよ。大丈夫。とにかく最優先はテミルの回収だ」
まぁ、フリオの言い分が正しいな。ここは引き下がっておくが。
「ミニモがあんなに嫌われるなんてね。彼女を嫌う人なんてそんなに……そ……結構いるね」
「いるな」
俺達の周囲は基本ミニモを嫌ってはいないが、冒険者達の間では相当に嫌われているのがミニモだ。
フリオやグリスティアと同じように悪い噂が立っているからな。
今は町の復興に際して救助で活躍したこともあり、ミニモにまつわる悪評も減ってはいるがそれでも嫌われていることは確かだ。
そうでなくとも常識から外れたところのあるミニモを嫌う奴は多いだろう。
と、仮面の男が辺りを見渡しつつ立ち止まる。
後ろ手を縄に縛られたままだが、器用なことにしゃがんだりもした後に俺達の方を向かずに言う。
「そろそろつきますよ。もう行って大丈夫ですね?」
「えっ、どこがだよ?」
そんなことを真っ先に口にしたのはアニキだ。
確かにどう見ても周囲は一面の緑。草木が生い茂り闇の濃い森の中だ。
こんなところにテミル達を隠しておけるわけも無い。
「あぁいえ、ここでは無く」
仮面の男は縛られた両手で真下を指さした。
「下、なんです」
「下……?」
残念ながら今は探知魔法が使えない。確認したくても確認しようがないというのが問題だな。
しかも地下にテミル達を閉じ込めておけるような広大な空間があるとでも言うのか?
そんなことを思いながら男の方を見ると、俺達の疑問に答えてくれた。
「マスクさんのスキルですよ。あの人は他の魔法を一切使えない代わりに土魔法に関してだけはどんな人にも引けを取らないんです」
「……マスク」
土魔法と言えば俺達が洞窟で交戦した、あのリーダー格の男だな。
思えばあいつは今まで見たことの無いような土魔法を使っていた。マスク、というのはそいつで間違いないだろう。
フリオそんな風に言っているとアニキがこちらを見て言う。
「とりあえずこの下まで掘りぬけばいいんだよな?」
「まぁそうだが……テミルを傷つけないように、となると少し難しいだろう。土魔法でどかすにしても崩れた破片が落ちるかもしれなくてな。土魔法以外だとさらに危ない」
それが今すぐに動かないでいる理由だ。
どの程度まで掘ればいいかも分からない上に仮面の男はそこまで協力的ではないと来ている。困ったものだ。
「じゃあ俺がちょっとずつ収納していけば良いんじゃねぇか?なんかこう、崖の表面を少しずつ剥がすみたいにしてさ、ここに穴開けるのは出来るぞ?」
「……アニキお前、移動式宿屋ってだけじゃなかったのか」
「宿屋じゃねぇけど?!」
「そうだよ。宿屋どころかキャンプ地も兼ねるさ」
「ほらエテルノがふざけるから唯一の良心だったフリオまでこんなこと言い出したぞ?!」
いや、フリオはこれで案外ノリが良いからな。
アニキいじりも俺のせいと言うか元々のフリオの性格だろう。
「あのー……何してるんです……?」
「あ、悪い」
この状況で普通に仮面の男を放置していた。良くないな、そういうのは。
アニキは首をコキリと鳴らし、地面の上に立つ。
「じゃあ俺を中心に、人が四人は入れるぐらいの大きさで穴開けるぜ。それで良いんだよな?」
「ん、お願いするよアニキ」
「おっけ。俺もテミルちゃんには恩があるからな、なんとしても助けんぞ!」
アニキの足元からどんどん土が削れていく。
予告通り一辺が人四人並べた肩幅くらいの大きさで、正方形の形に抉られていくのは見ていて壮観だった。
なお、アニキはしばらくの後に地下にあった空洞へ落下することになる。
……まぁ自分の足元から掘りぬいてたらそうなるわな。
アニキが「えぇぇぇ……」と困惑の声を上げながら落下していった先を確認し、俺は安堵した。
「フリオ、この下は深くは無さそうだから浮遊魔法で降りられるぞ」
「落ちた人の話はしないんですか?!」
「いやだってアニキなら生きてるだろ」
「なんなら無傷だろうね間違いなく」
「だとしてもこの対応は明らかにおかしいですよね……」
そんなこと言われてもな。とりあえず皆に浮遊魔法を掛け、俺たちは地下へ向かうのだった。