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牙を剝きだして

「っくしゅ!」

「おう、ミニモがくしゃみだなんて珍しいな」


 アニキの収納空間の中、俺たちはのんびりとコーヒーを飲んでいた。

 くしゃみをしたミニモが鼻をすする。


「噂でもされてたんですかね……」

「ミニモの噂をするとしたらよっぽどの物好きだろうな」

「あっつ!このコーヒーあっつ!!」

「コーヒーを一気飲みするからそんな目に合うんだ」


 火傷した、などと騒ぐアニキを一蹴。俺はコーヒーを渡すときに『熱いから気をつけろ』と言ったからな。責任を負う気は無い。


「み、ミニモ、悪いんだけどアニキの火傷治してあげてくれない?」

「えぇー……。まぁでもシェピアちゃんの頼みならしょうがないですね……」

「悪いわね。馬鹿には私から言い聞かせておくから」

「シェピアに馬鹿って言われるのは流石に心外だなぁ?!」


 まぁそんなことを言いつつアニキのことを心配しているのがシェピアらしいと言えばシェピアらしいのだが。


「しかしよく考えてみるとミニモの治癒魔法は凄まじいよな。ミニモがいるだけで格段に使える戦術が増える」

「そうだねぇ。人間だれしも怪我をすると動きが鈍るし、万全の状態で多少危険なことを出来るようになるってだけでミニモには助けられてばっかりだよ」

「え、褒めてくれてます?じゃあご褒美としてエテルノさんから頭を撫でていただくことは……」

「……まぁその程度なら良いぞ」

「うっそ?!ど、どうしたんですかエテルノさん?!怪我でもしましたか?治しますよ?!」

「何だその反応。ほら、さっさと頭出せ」


 ミニモに頭を出させて撫でてやる。ミニモの身長は俺よりもそこそこ小さいから撫でやすいな。

 ミニモのさらさらした髪の毛の感触はまぁ、心地良くないと言えば嘘になる。


「あーあー。すぐお前らは人前でいちゃつきやがって……」

「いちゃついては無いが……」

「いちゃついてるのよどう見ても!」

「え、頭撫でるとかは普通にやらないかい?」

「フリオは自分の感覚がおかしいのを自覚して」


 先ほどまで喧嘩していたアニキとシェピアが声を揃えて俺に文句を言いたそうにしている。

 と、そんな二人を見てミニモが勝ち誇った顔をした。


「ふふん、羨ましいのならシェピアちゃんもアニキさんに撫でてもらえばいいんですよ!」

「……」

「っぴゃぁ?!」

「ほら、撫でるのは終わりだ。しっかり次も働けよ?」


 ミニモが調子に乗っていたようなのでミニモを撫でていた手から水を生成。ミニモは頭から水を被せられる形になった。

 ま、こんなことで褒美になるんならいくらでもやってやって良いのだが調子に乗るのは良くないからな。

 ミニモはへこんでいるのに対し、シェピアは顔を真っ赤にしていた。


「……シェピア、お前……」

「なっ、なによ!」


 アニキに頭を撫でられたいのか?

 ……と言おうかとも思ったのだが、言うのも野暮だな。やめておこう。


「え、頭を撫でるのになんでそんなに緊張するんだい?」

「フリオはフリオでもう少しなんとかならないのか」

「いや……頭を撫でるだけで騒いでる方が少しみっともないんじゃないかなって……」


 おぉ、フリオも中々言うな。


「っは、はぁ?別にそんなの俺も出来るし?ほらシェピア頭貸せ!」

「えっ、あ、ちょっと?!」


 フリオの煽り……いや、フリオ的には煽りでは無かったんだろうがそれに乗ったのか、アニキが乱暴にシェピアの頭を撫でる。

 ……俺は何を見せられてるんだ?


「あ、あんたね……!」

「えっ」


 アニキの目前で火花が爆ぜる。シェピアが魔法を放ったのだ。

 なお、照れ隠しである。


「あの……僕と彼もこの空間を無言で見てるのきついんだけど……」


 イギルの猫耳がぴょこぴょこ跳ねる。

 見ると、イギルと椅子に縛り付けられた仮面の男がこちらを見ていた。


***


 遡ること数分前、俺たちは無事に敵の確保に成功していた。

 シェピアの大魔法につられてまんまと寄ってきたこの仮面の男を俺の魔法で拘束し、すぐにアニキの収納空間へ引きずり込んだのだ。

 

 なお、思ったより多く集まって来てしまったため確保するのは少しだけ大変だったとだけ付け加えておこう。

 他の奴にはバレていないと思うが、イギルの幻覚魔法や俺の透明魔法を使ったうえで多少苦労したのだ。

 そう言う意味でもこいつから、なんとしても情報を引き出さねば。


「で、お前。名前は何て言うんだ?」

「……クアドです。こうなったからにはいかようにでもお好きにしてください」

「殺しはしないから安心しろよ。俺たちは『テミル』って奴を探しててな、お前らがテミルの居場所を知らないか聞きたいだけなんだ」

「テミル。あぁ、そうですね。劇団の方々の一人がそんな名前をしていましたか」

 

 フリオが眉をピクリと動かした。ビンゴだ。こいつはテミルのことを知っている。


「テミルや劇団を攫ったのはお前らだな?」

「……そう、ですね。そうです。必要だったので、攫いました。」

「テミル達をどうした?」

「傷つけてはいません。ただ、保護しているだけ。無事ですよ」


 無事ですよ、とそう言った男の声は少しだけ、震えていた。

 怒りや何かの感情と言うよりは恐れと言うか、恐怖しているようなところを感じさせる。


「……なんでそんなにスラスラと自供するんだい?聞いておいてなんだけどこういう時は『死んでも教えない!』とか言うものじゃないのかな?」


 フリオの質問に、男は小さな声で答える。


「もし捕まったら全て言ってしまうようにマスクさんに言われているんです。だ、だって、拷問されるかもしれない。いや拷問ならまだいい。でも、い、いくら死んでも終わりが無くて、殺されて、蘇って、殺されて……そんなの、た、耐えきれないですから」


 声が、震えている。

 男は顔を上げた。


「皆さんにテミルさんの居場所を教えるのは構わない。皆さんは禁術に手を出していない潔白な人間だ。でも、そ、そっちの『化け物』だけは、連れてこないでください」


 男は恐怖と嫌悪感の入り混じった瞳でミニモを見据え、震える声で言い切ったのだった。

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