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キャンプ地事件(二回目)

「そんで、森ってのがここか?」

「そうだ。この先に進むといつの間にかキャンプ地に引き返してきてしまう」

「よし、それじゃあ確認なんだが、この森の資源はまだ誰のものでもないんだからどれでも好きなように持ってって良いんだな?」

「そうだね、それで構わないと思うよ」


 俺たちは今、ダンジョンに潜って森へとやって来ている。

 今回はあくまでも下見なのでメンバーは俺とフリオも含めた三人だけだが、この元ギルド長の男の作戦が……ん、そういえば名前を聞いていなかったな?


「なぁ、その前に一ついいか?」

「なんだエテルノ。もうさっさとやっちまいたいんだが……」

「いや、名前を聞いていなかったことを思い出してな」

「……あー、名前は元々無ぇからな。やっぱ裏社会の住人にもいろいろあるのよ」


 む、そうなのか。

 フリオも不思議そうな顔をした。


「あれ、ギルドマスターをやってたと聞いたけれど?」

「それ偽名使ってたんだよ。だから悪いけど名前は教えられねぇな」


 そういうこともあるか。こいつは気さくではあるし悪事もやめたらしいが、それでも悪人だったわけだからな。


「だから気軽に、兄貴って呼んでくれや」

「誰が呼ぶか」

「それでアニキ、作戦はどうするんだい?」

「早速使ってんじゃねえよ」

「俺のスキルを使おうと思う。相当モンスターは湧くと思うが、そこら辺は対処できるな?」


 モンスターについては問題ないな。フリオと俺がいればなんとかなるだろう。最悪逃げることも可能だ。


「よーし、行くぞ。地上1mより上を目安に……収納!」

 

 周囲の木が根元を残して一瞬で消滅する。

 スキルによって異空間に飛ばしたらしいが……数十本もの木がまだ残っているな。


 見渡す限り切り株だらけになった森で普通に立ちつくしている木はどこか、不気味さすら感じる。


「おい、結構木が残ってるぞ」

「いや、木は全部収納して……あぁ、あれは魔獣だな」

「なっ……?!」


 フリオがすぐに剣を構えたが、木に似た姿の魔獣は一向に襲ってくる気配がない。

 男は何でもないように言った。


「大丈夫大丈夫。あれはトレントって言う魔獣だと思う。向こうからとびかかって襲ってくることは無い」

「トレントと言ったら、近くを通りがかった生物を襲う魔獣じゃなかったか?それにしては隊になんの被害も出ていないのはおかしいな……」

「いやいや、それはダンジョン外のトレントの話だ。ダンジョン内のトレントはこうやって――」

 

 と、男がどこからか檻を取り出し、その中に入っていた魔獣が放たれる。

 魔獣はそのまま俺たちから逃げようとトレントに向けて走っていった。


「おい、これに何の意味が――」

「ほら、来たぞ」


 魔獣がトレントの真下を通りかかった瞬間、トレントが魔獣に向けて何かを飛ばす。魔獣には命中したようだが……魔獣は何も感じていないようだな。

 と、魔獣が急にUターンをしてこちらへ戻ってきた。

 行く手を俺たちに阻まれているのを確認し、全力で攻撃を仕掛けてくる。

 魔獣の体当たりが俺たちに届く寸前、


「はい、収納っと」

 

 残念、異空間に戻されてしまった。

 ……ふむ?結局何が言いたいんだ?

 疑問の尽きない俺はとにかく聞いてみることにした。


「それで、今のは何なんだ?」

「トレントの種だな。ダンジョン内のトレントは自分で力を振るうより他者に寄生して生育範囲を広げようとする。そのうえで寄生した動物を住処に戻らせることでより獲物が多い場所を目指す、というわけだ」

「さすがアニキ……」

「フリオ、その呼び方はやめろと」


 しかしトレントの種が寄生するというのなら……


「おい、それもしかしなくても俺たちも寄生されてないか?」

「されてると思うぞ」


 なるほど、こいつは一度分からせておいた方が良さそうだな。そう判断した俺は剣を抜き刀身に火炎魔法をまとわせ――


「ちょ、ちょっと待って待って!大丈夫だから!対処は済んでるから!」

「あ、アニキには手を出さないでくれエテルノ!」

「フリオ、もうそれわざとやってるだろ」


「と、とにかくこの寄生させた種なんだが、太陽の光を浴びた時に急速に成長する仕組みなんだ。ここに来る前に子分たちにダンジョンの出入り口を封鎖しておくように言っておいたから大丈夫だと思う」

「封鎖させる程度には何が原因か予測出来ていたなら、そもそも先に言っておけ」

「まぁ確かにそういう気持ちはあるよね」

「あー……それについてはすまん。ただ種が見当たらなかったから確証がな……」


 うーむ、そういうことならまぁ……


「じゃ、キャンプ地に戻りろうか!」

「そうだな。ミニモなら勝手にダンジョンの外に出たりしかねない」

「あの子はそんな子なのか……?」


 そんな子じゃなければいいんだけどな。頼むから何もしないでいてくれよ……。

 祈るような気持ちで俺達はキャンプ地へと戻っていくのだった。


***


「うーん、これはどういう状況かな?」

「キャンプ地が木に覆われてるな」

「……もしかしなくてもこれ全部トレントか?」


 どういう状況だこれ。

 とりあえず、今の俺に言えるのは祈りは天に届かなかったらしい、と言うことぐらいだろうか。

 キャンプ地のテント群の間を縫うように木々が乱立し、そこそこ高さのあるダンジョンの天井へ木の葉を這わせている。

 あたかも森、と言ったところだろうか。空が無い分奇妙な光景だ。


 フリオが辺りを見渡して言った。

 

「んー、誰もいないね」

「死体も見つかってないから誰かが死んだってわけでもなさそうだけどな」

「というか僕、前もこんな目にあった気がするんだけど……」

「そうなのか?」

「前帰って来た時はミニモが暴れまわってたんだっけね」


 あぁ、あのときか。ミニモがキャンプ地の全員を筋肉痛にさせたんだったな。字面だけ見ると酷いなこれ。

 そんな俺達の話を聞いていた元ギルマスも、困惑した顔だ。

 この状況と似たような事が過去にもあった、というのはこいつでも流石に予想外だったか。


「マジであんたら何やってんだよ……」

「兄貴さんもすぐ慣れますよ」

「慣れたくないけどな?!」


 しかし困ったな。どうすればミニモ達と合流できるだろうか?

 ミニモ……だったら呼べば出てくる気もするな。


「おーい、ミニモー?出てこーい。土産があるぞー」

「出てこないね」

「出てこないな」


 一通り呼んでみてもミニモからの返事はない。


「逆になんでお前らはそれで出てくると思ってるんだよ」

「ミニモだしね」

「ミニモだしなぁ」


 ミニモはこんなのでも出てきそうなものだ。

 後はそうだな……あいつの好きそうなものでおびき出す、とかか。

 今持ってるものであいつの好物は……っと、干し肉がポケットに入っていた。


 俺は干し肉をかざしながら言う。


「ミニモー、干し肉いるかー?」

「……ガ?」

「ゴブリンが出てきちゃったね」

「だな」


 残念。現れたのは魔獣の一種、ゴブリンだった。

 干し肉の匂いにつられてやってきた、というところだろうか?

 しかしこいつは普通のゴブリンよりも利口そうな顔をしているな。

 ミニモよりも知性を感じる顔立ちだ。


「エテルノさーん!お帰りなさーい!」

「ミニモの声だな」

「ミニモの声だね」


 ゴブリンの後ろから、ひょっこりとミニモが顔を出す。俺やフリオは既に諦めの境地に達しているためなんとも思わないが、元ギルマスの男ことアニキの困惑顔が物凄い。

 まぁそれは無視だ無視。そんなことより大事なことがいくつかある。


「……ミニモ、何個か聞きたいんだがまず、お前は何をやってるんだ?」

「え、親分やってます」

「ギギ、オレ、オヤブン、マモル!」

「ゴブリンが喋ってるな」

「喋ってるね」


 もう訳が分からないが、とりあえず話を聞くとしようじゃないか。

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