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積もる落ち葉の下には

 地面に激突すると思った瞬間、弾力のある半透明の物体が俺の体を受け止める。

 俺だけでは無く、ミニモまで同時に--


「邪魔です退いてください」


 ミニモが手でスライムの触手を振り払い、普通に着地を決める。

 ……人間じゃねぇなこいつ。エテルノが散々言ってることの意味が分かったわ。あの高さから普通に着地するのはどうかしてるだろ。


「あーっと、スライム、ありがとな」


 感謝を伝えようとスライムを撫でるとスライムはプルプルと揺れた。

 体から生えている角も、そんなに今は刺々しくない。多少なりとも懐いてくれているのだろうか。


「しっかし妙な奴だなお前……。なんで俺は助けるのにミニモにはあんなに嫌われてるんだ」

「そのスライムは私の邪魔ばっかりするからですね」

「お前の実力じゃ対して気にもしないだろうに……」

「だとしても蠅がまとわりついてきたらうざったいじゃないですか」


 おおぅ……何も言えねぇ……。

 エテルノと引き離されてる時のミニモってこんな感じになるのな。知らなかったぞ。

 こんな奴に気に入られるなんて、マジでエテルノは何をしたんだ。


「じゃ、私エテルノさんに合流してきたいので行ってきます!」

「お、おう」


 ミニモはそう言うが早いか森の中に駆け込んで行ってしまった。

 ……まぁ、そうだな。ミニモは別に自由行動でも怪我したりはしないだろう。

 むしろ傷を治せる人間は森に放っておいて、治癒魔法が必要な人を探し回ってもらう方が効率が良いかもしれない。


「一緒にいるのが怖いのももちろん本音だけどな……」


 俺はミニモの後ろ姿を見送ってそう呟くのだった。

 スライムがミニモを怖がるように日陰へ逃げ込もうとしていたのがやけに印象的だった。


***


「ん……中々薄暗いな……」


 獣の声や木の葉の音を聞きながら俺は薄暗い森の中を進んでいた。

 浮遊魔法はおそらく全員に掛けられたと思うが、皆は無事だろうか。


「……考えても仕方ないな。合図でも残しておくか」


 木に矢印と、俺の名前を刻んでおく。

 これでここを後でフリオ達が通ったとしても俺の行く先が分かるはずだ。合流もしやすくなるだろう。

 ひたすら無言で前へと進む。

 前へ。前へ。

 進む先はもちろん俺達が放り出された洞窟の出口の崖下なのだが……


「実際誰が俺達を突き落としたんだ……?」


 誰が、ではないかもしれない。グリスティアの探知魔法で反応しなかったということは生物では無いということだ。

 ただ石がぶつかって来たとか風で吹き飛ばされたとかそんな感じでは無かったのが不気味なところだが。


 探知魔法が反応しない相手はそうだな、一番すぐに思い浮かぶのはバルドの使っていた死霊術か。死霊術で動かされている死体に探知魔法は反応しない。それと同じ類の魔法だというのなら納得できなくは無いが……

 死霊魔法の仕業だとしたらもう少し色々方法はあるんじゃないのか?わざわざ崖から突き落とすようなことをしなくても挟み撃ちで良かったのでは?


「考えてもしかたないことではあるが……」


 少しだけ気になるな。後で着いたら調べてみるか。


 と、その時だった。


「エテルノさんっ!」

「うぉわ?!……ってミニモか……驚かすなよ……」


 俺の真上の木からミニモが落下してきて、俺の目の前に着地する。

 ミニモの髪に枝葉が刺さっているのが見えた。


「ったく……何をどう考えたら木の上を移動するって言う考えになるんだ……」


 とりあえず髪に絡まった枝を外してやると、ミニモは嬉しそうに目を細めた。

 ……喋らなければ美人なのにな、こいつ。


「エテルノさんはこの後どうするつもりなんです?やること多いですよね?」

「あー、その辺は一つ一つ片付けていくつもりだからそうだな……まずは俺がここを通ったっていう痕跡を残しつつ合流を目指そうかと思ってるぞ」

「この落書のことです?」

「いや落書じゃなくて……ってお前何持って来てるんだそんなもん?!」


 ミニモが取り出したのは木の表皮。俺がフリオ達の追ってくるときの印になるだろうとあちこちの木に残してきた矢印と俺の名前が両方彫りつけられた木の一部分だ。

 流石に二、三枚しか持って来ていないが、だからと言ってそれ持ってこられたら印として意味をなさなくなるだろうが。何してくれてんだこいつ。


「多分三百年後ぐらいには価値が上がってると思うんですよね。英雄の直筆サインなんて見過ごすわけにはいきませんよ」

「何言ってるか分からないな」


 いや、ほんとに何を言ってるのか分からないな。


「まぁ私にとっては既にとんでもなく価値のある代物ですからね!」

「あぁそう」

「反応薄いですね……」

「慣れたからな」


 とりあえず、もう俺が刻んだ印を持ってこないように言い聞かせて再び歩き始める。

 じめっとした落ち葉に足が取られ、歩くのがいちいち大変だ。

 顔の前にあった蜘蛛の巣を枝で払いながら俺は悪態をついた。


「あぁ、くそ。敵が分からない限り迂闊なことはできないとはいえ、こうなったら浮遊魔法使ったほうが早いんじゃないのか……?」

「敵ですか……。エテルノさんはどんなふうに倒すつもりなんです?」

「普通に広範囲魔法で巻き込んで倒せばいいと思ってるがミニモが真面目に戦術を聞こうとするなんて珍しいな。どうした?」

「いえ、何でもないですよ。ちょっと気になっただけです」


 気になっただけ、ともう一度言うミニモの顔からは、何を考えているのか察することは出来なかった。


「ともかく急ぐか。どうせなら先に着いて調査とかしておきたいからな」

「ですね!怪我とかしたら任せてください!」

「するようなことにはなりたくないけどな」

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