突発的スカイダイビング
「マスクさん、これどこまで行くんです?」
「あぁ、すまねぇな。もうちょっとだから辛抱してくれや」
すぐ先も見えないような洞窟を私たちは走る。ランプから漏れた明かりが洞窟の壁を流れ落ちる水滴に当たって反射し、幻想的に足元が照らしだされていた。
「嬢ちゃんがきついようなら俺が担いでいっても良いがどうする?」
「い、いえ、だ、大丈夫です!」
「そか。じゃあもう少し急ぐぞ!お前ら遅れねぇように気ぃ付けろよ!」
ここで逃げ出せるようなら良かったのだけれど、私の後ろをマスクさんの部下の人たちが走っているので逃げ出そうにも逃げ出せそうにない。
そんなわけで私もマスクさんを追うしかないのだ。
フリオ君やミニモちゃんが私を探しに来てくれているはずだとは思うのだけれど……
「団長さん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫よ。動こうにもしっかり掴まれてるせいで動けないけどね」
団長さんに声をかけると不服気な声色でそう返って来た。
良かった、この調子なら団長さんは大丈夫そうだ。
他の劇団の皆もマスクさんの部下の人達に抱えられたり頑張って走ったりと、皆不安げな顔はしているけれど大丈夫そうではある。
「これ逃げたとして、どこに行くんです?隠れ場所が無いんじゃ……」
「あぁ、大丈夫だそんなの。嬢ちゃんに心配されるまでも無く、俺のスキルで一瞬よ」
「スキル、ですか?」
「そそ。見せたっしょ?土魔法見たいなスキルなんだけどちゃちゃっと--」
「すいません、無駄話をしている暇があれば走ってください」
「おっと、やべぇやべぇ」
マスクさんの部下が注意するとわたわたと手を振ってマスクさんが頭を掻くが、この部下の人たち喋れたんだ。なんていう風に私はくだらないことを考えていた。
今まで一切何も喋っていなかったのに急に喋りだすから驚いたのだ。
「で、嬢ちゃん。もし良かったら俺達を追っかけてきてる奴らの情報とか教えてくれねぇか?」
「嫌ですよ。だってそんなことしたらフリオ君が不利になっちゃうじゃないですか」
「嬢ちゃん案外しっかりしてるよな……まぁしょうがねぇか、そうなったらそうなったで頑張んなきゃいけねぇし……」
そんなことを言っているけれど、私は別にマスクさんに協力しようと思ってなんていませんからね。
マスクさんが私たちを傷つける気が無いのはここまでの言い方とか行動とかで分かっているので、それならそれでふてぶてしく居直ればいい。これはディアン君の直伝だ。
ふてぶてしく居直ったうえで、いくらでも自分の好きなようにしていればいい。団長を助けたり皆の話を聞いてみたりとか。
「ま、最悪そのフリオって奴も殺さないといけないからな。すなったらそうなったで恨まないでくれよ嬢ちゃん」
「ですか……ま、わ、私も邪魔するかもしれませんけどね」
「おうおう、そうなったら嬢ちゃんでも容赦はしねぇからな?」
あはは、と笑いあって私は再び真剣に走り始める。
マスクさんも再び部下の人ににらまれ、全力で走る。
フリオ君たちが早く追いついてくれれば、と思えば思うほど私たちは前へ進む。
気持ちに反して皆と離れていくような気がしてならないのだった。
***
「フリオ、そっちはどうだ?」
「んー、やっぱり何もないかなぁ」
洞窟内をひたすら走り、ようやく出口へとたどり着いた俺たちは洞窟の出口の壁面に触れる。
何か仕掛けがあるのかもと思ったが、無いか。
再び洞窟の出口に向き直るとそこには一面の青空が広がっていた。
「これは無茶よね……道でも間違えたのかしら……?」
「もしくはほんとに飛び降りたか、だな」
結論から言うと、俺達がやっとの思いで痕跡を追って来てたどり着いたのは、がけっぷちの出口だった。
下を見下ろすと既に上空数十メートルはあるのではないかとも思える。
ここからあいつらは飛び降りたのか?嘘だろ?
いや、さすがに浮遊魔法を使ったと考えられるのだが、だとしてもその場合ここから先一切痕跡が残らなくなったぞ……?
困り果ててフリオを見てみると、やはりフリオも同じように
「困ったね……どうしようか……」
「そうだな……」
困惑したまま俺たちは立ち尽くしていたのが悪かったのだろう。
後々から考えてみれば敵がこんな状況を見過ごすわけがない。直後、何が起こったかも分からないまま俺達は中空に放り出されていた。