反響しあった声で語って
洞窟。基本的に洞窟と言うものは狭いと相場が決まっている。
そんな中を担がれて進めばどうなるか、分かり切ったことでは無いだろうか。
「ミニモ、下ろしてくれ……天井が近くて怖い……」
「良いですよー」
ミニモに頼んでどうにか地面に下ろしてもらう。
先ほど頭を天井にこすった時についた泥を払い落としながらふと見ると、グリスティアとシェピアが羨ましそうな目でこちらを見ていた。
「……フリオ、ちょっと持ち上げてみて良いかしら?」
「えっ」
「アニキ、あんたもよ」
「はぁ?」
なんでこいつらはこんなにミニモに対抗心を燃やしてるんだ。どう考えてもアプローチの仕方が間違ってる奴に対抗心を燃やしてどうする。
「あ、そういえばエテルノさん、手がかりとかってどんな感じですか?」
「いや……見つからないな。この地面の柔らかさなら足跡が残っていても良さそうな物なんだが……」
洞窟内は近くに地下水でも流れているのか、天井も地面も少し湿っている。
そのせいで歩いたところに足跡も出来ているのだが……残念ながら敵と思しき奴らの足跡は残されていない。
急いで逃げたにしては周到に消されているようだ。もしかしたらこの道以外にも出口があったのかもしれない。
「ま、何はともあれ洞窟の一番奥まで進んでからだな。ここらへんじゃどうしようもない。イギル、そっちはどうだ?」
「皆がいちゃついている間に僕だけ一人寂しくしっかり探索をしてたともさ」
「いちゃついてねぇよ」
「今のところ手がかりは無いかな。そんなわけでいちゃつきに戻って良いよ」
「だからいちゃついてないと」
イギルはイギルでどうやら色々と調べてくれていたようだ。グリスティアもなんだかんだ言いつつ魔法で敵を警戒してくれているし、アニキは荷物持ち……
「役に立って無いのシェピアだけだな」
「なんっ?!も、もっかい言ってみなさいよ!」
「シェだろうピアは役に立ちそうにないな」
「より酷くしたわね?!」
酷くしたというか何と言うか、シェピアは確かに強力な味方ではあるのだが洞窟内で一緒に行動したくない相手ランキング一位でもあるんだよな。
魔法を制御できない代わりに普段から超火力、というのは洞窟探索向けの能力では無いだろう。適材適所と言うやつだ。
「だからテントに戻っても良いんだぞ」
「ついて行くわ。テントに残ったって暇じゃない」
「だろうな……」
シェピアにいかに理を説いたところで無駄なのは目に見えている。
こうなったらアニキに頑張ってもらおう。
「ん?おいエテルノ、なんだその意味ありげな視線」
「いや……可哀そうな奴だなぁと思って」
「何が?!」
何がと言われても、色々だな。
そうこうしているうちに洞窟の中の景色が変わってくる。今までよりも更に水の量が増え、地面にちらほらと水溜りが現れ始めた。
前回俺とフリオが逃げ帰ってきたのもこのあたりだな。
と、フリオが懐かしむよう声色で呟く。
「こうしてるとなんだかダンジョン攻略の時のことを思いだすね。あの時は大変だったなぁ」
「そう考えてみると私達洞窟だったりダンジョンだったり地下通路だったり暗くて狭いところばっかり通ってない?」
「……確かに」
もちろん森の中でも討伐依頼を受けたりはしていたのだが、基本問題が起こっていたのが地下だったからな。
地下と言うのはやはり悪人なりなんなりには人気な場所なのだろうか。もしそうなら俺達がやたら地下に出向く羽目になっているのにも説明がつく。
「アニキ、その辺どうなんだ」
「なんで俺に聞く……」
この中で悪人と言ったらまぁ俺かアニキの二択だからな。
不服そうな顔をしながらもアニキは答える。
「あー……確かに地下は見つかりにくいって言うのもあるから楽だとは思うんだが……でも魔獣が住み着いてるかもしれないのは危ないよな。それを避けようと思ったら今度は自分で穴を掘らなきゃいけなくなるわけだし」
「確かにね。僕もあんまり魔獣と一緒に住むのは嫌かなぁ」
まぁ洞窟にはすぐ魔獣が入り込んでくるからな。
……ん?
「なぁ、そういえばこの洞窟魔獣が一切いなくないか?」
「あー、そういえばそうだね」
「逃げたんじゃないんですか?」
「その線も否定はできないが……」
だとしても蝙蝠くらいはいても良さそうなものだが、一切動物の類が存在する様子が無い。
ただただ水滴の落ちる音が暗闇の中に響いている音しか聞こえないな。
「前にここに居たやつらが何か結界みたいなものを張っていたのかもしれないな。それで魔獣やらと遭遇しないわけだ」
「そう考えれば考えるほど頭痛くなってくるわね……そいつらほんとに何が目的なのよ……」
シェピアがぼやくが、その質問に答えられる人間はここには居ない。
ふざけながらも洞窟の先を目指す俺達に、暗雲が迫って来ていた。