禁術
「それで本題なんだが……」
「エテルノさん、こっちのお酒も美味しいです」
「もうその流れ良いから。流石にそろそろ会議したいから」
未だに食事を続けようとするミニモから酒を取り上げ、会議に戻る。
酒を取り上げられたミニモはこの世の終わりみたいな顔をしているが知ったことか。
「さて、で明日の予定なんだが洞窟に向かうってことで良いんだよな?あいつらの正体について何か分かるかもしれないからってことで」
「そうだね。それが妥当だと思うよ」
「流石にもうそいつら……盗賊団か?も逃げちまった後だとは思うが手がかりは残ってるかもしれねぇよな。俺も賛成だぜ」
「アニキとフリオが賛成ってことはグリスティアとシェピアも賛成だな」
「ちょっとそれどういう意味よ」
どういう意味も何もそのままの意味だが。
未だに少し不貞腐れた顔をしながらアニキの後ろに立っているシェピアをグリスティアがたしなめていた。
「じゃあ明日はとりあえず洞窟と言うことで。で次はテミル達の行方について何だが誰か、何となくでも分かったことがあるような奴はいるか?」
一応皆にそう聞いてみるものの、やはり誰も手を挙げない。
俺とフリオの得たほんの少しの手がかり以外には、誰も何も得ていないか。
そう判断した俺は方向を変えて質問してみることにする。
「じゃあこの中に、『禁術』という単語に覚えのあるものは?」
と、ここでミニモを除いて全員の手が挙がった。
辺りをきょろきょろと見渡してミニモが言う。
「あの、エテルノさん、禁術って使っちゃいけないよって言われてる魔法の事でしたっけ?」
「まぁ大まかに言えばそうだな。実際は魔法だけでは無くスキルも禁術と言われることはあるんだが、道徳的に使うべきではない魔法だったり術者への反動が大きかったりする物が一般的に禁術に分類される」
バルドが使っていた『死霊術』はそんな禁術の最たる例だ。
死体を操る魔法なのだが、どう考えても道徳的に間違っている。そのため使ってはならないと禁術に指定されたのだ。
「あ、じゃあ私知ってましたね」
「だろうな。逆に知らない方が驚きだ」
ミニモの手も上がったことを確認したうえでフリオが話し始める。
「えっと、その盗賊の人たち?が『禁術だ』とか『禁術があることは知ってたが--』みたいな会話をしててね。禁術についても何か関係あるんじゃないかと思うんだけど」
「禁術ねぇ……」
「少なくともアニキのスキルは禁術に相当するだろうね」
「え、まじ?」
やけに落ち着いた口調でそんなことを言っているのはイギルだ。
「なんだ?詳しいのか?」
「詳しいも何も、僕が使ってる幻覚魔法も禁術の一つだよ。普通に使う分には問題ないんだけど使い方によっては相手の精神から何からボロボロに出来ちゃうからね。使い方も難しいしさ」
「あー、言われてみればそうだな」
ちなみに、俺の『追放されるほど強くなる』知識については俺も俺以外にこんなスキルを持っている人間の噂を聞いたことが無いので禁術になるかどうかは不明である。
一応俺のスキルも禁術にカウントするとしても、この場には三人も禁術使いがいる訳だな。
しかもイギル以外全員Sランク冒険者だし、イギルに至ってはギルドマスターだし。改めて考えてみると物凄い状況だ。
「でもあれじゃねぇか?ミニモ達の馬車に禁術みたいな魔法を使える奴なんていなかったと思うけどな」
「僕もそう思ってはいるんだけど、スキルは隠す人が多いから何とも言えないんだよねぇ」
「確かに、内緒にされてたら誰が禁術使いかなんて分からないわよね」
一般的に禁術を使う人間は『非道徳的』だとして蔑まれる傾向にある。
ただでさえ自身の弱みを見せないためにスキルは内緒にされやすいというのに、禁術なんて代物を扱う人間が言う訳も無いよな。
「禁術ねぇ……。死霊術とか幻覚魔法以外に、なんか禁術っぽい魔法ってあるか?」
「……洗脳魔法とか?」
「蘇生魔法、なんていうのもあるね」
あぁ、そういえばフリオは昔蘇生魔法関連でいざこざに巻き込まれたことがあったんだっけか。
「蘇生魔法は何が禁なんだよ?死んだ奴らが蘇れば万歳じゃねぇの?」
「いやいや、そんなことあったら今の世界が根本から変わることになるだろうが。そういう社会に混乱をもたらしかねないのも禁術のうちなんだよ」
蘇生魔法は死霊術が死体を操り人形にして操る魔法であるのに対して、人をその意識ごと生前と同じ状態にまで回復させる魔法だ。
もしそんな魔法があるのなら皆がこぞって自身の親類やら何やらを蘇らせようとするのに決まっている。
俺だったとしても、蘇らせる相手はたくさんいるだろう。
「しっかしまぁあいつらはなんだって禁術なんかに興味を持ってたんだ?」
「そこだよねー。それに禁術に固執してるからってテミル達を攫う理由にはならないし……」
そうなんだよな。これはどう考えるべきものなのか……
「っとミニモ、どうした?酔ったか?」
「あぁー、はい、ちょっとやばいかもです」
「ん、珍しくミニモが静かだなぁと思ったらそう言うことか」
なにやら途中から口をつぐんでしまったミニモに聞いてみると、悪酔いしたのだという。
一気にあれだけの量の酒を飲んだらそりゃあそうなるわ。
「すまん、ミニモをテントに寝かせてくるから会議続けててくれ」
「分かったわー」
ミニモを持ち上げ、テントまで運ぶ。
その途中でミニモが申し訳なさそうな顔をした。
「エテルノさん、あの、ごめんなさい」
「……何がだよ。まぁお前にはちょくちょく助けられてるんだからゆっくり休んどけ。明日からは大変だぞ」
「はい。またいつか、話せるときになったら話しましょう」
「お前と無駄な話はしたくないもんだけどな。どうせだったら暇なときにしてくれ。それじゃお休み」
「はい、おやすみなさい、エテルノさん」
ミニモをテントに放り込むと、俺はまた会議へと戻るのだった。