三者三様の恋模様
「さて、それじゃあ今後の対応について話したいわけだが……」
だだっ広いアニキの収納空間の中心、俺たちは料理の並んだテーブルを囲んで話し合いをしていた。
とりあえずゴブリンの死体は収納空間から出して焼き払って土に埋めた。あれはまぁ廃棄で問題無いだろう。
臭いについてもしっかりグリスティアが魔法で浄化してくれたので解決である。
「エテルノさん!このお肉美味しいですよ!」
「でしょ!それ私のお気に入りでね、お店でもたくさん入荷したいと思ってるのよ!」
「仕入れって言えば聞こえはいいけど要するにたくさんその魔獣を狩ってくるって事なのよね……」
「良いじゃないそんなこと!」
楽しそうにはしゃぐ声。
真面目に会議している俺とアニキ、そしてフリオを置いて皆が騒ぎ散らかしていた。
「……おいイギル、お前ギルド長だろうが」
「何が?え、あぁ、うん、それはそうだけど作戦とかは君たちに任せようかなって」
「それでいいのかお前……」
ミニモとシェピアが暴走し、グリスティアがそれに巻き込まれておろおろしながら止めようにも止められていないのはいつものことだ。それは良い。
だがイギル。お前は何か俺達の助けになるために来たんじゃなかったのか。何を遊んでるんだお前。
「エテルノさんエテルノさん、食べてみてくださいよこれ。ほんとに美味しいですから!」
「ああぁ分かった分かった!ったくうるせぇな……」
手帳から手を離すわけにもいかないので、ミニモが差し出してきた肉にそのままかじりつく。
うん、肉汁が溢れ出してきて、口に広がる香味と程よく調和している。美味い。
と、そんな俺達を羨ましそうに見つめてなにやら呟いている二人が居た。
「……ミニモはやっぱり凄いわね。何の緊張感も無くあんなことできるなんて……」
「わ、私達もやって見ましょ。負けてられないわよ……!」
「そ、そうだね。私だって出来……が、頑張れば出来るわ……!」
うーむ、あの二人はまたなにやらくだらないことを考えているな?
フリオ達に視線を戻すと二人ともが俺の作った森の地図に集中しており、グリスティアとシェピアの様子に気づいた様子は無い。
……どうすればいいのだろうか、これ。
「……ん?」
グリスティアとシェピアの後ろからイギルがこちらに視線を送っているのに気づく。
イギルは唇に人差し指を当て、『反応せずに黙っておけ』と合図を送っていた。
……まぁそういうことなら良いが、どうなるのやら。
***
「洞窟の中に敵が居たんならやっぱり王道は出口を塞いだうえでだな……」
「ただ問題は数が多いんだよねぇ。リーダー格っぽい人は見たことない魔法を--」
作戦会議が進むことおよそ十分。ようやくここであの二人に動きがあった。
グリスティアが肉を取ってくると、小さめに切り分けて更に盛り付ける。
そしてそのままこちらに向かってきた。
「フ、フリオ、お腹減ってない?」
「え?あぁ、うん、そうだね。作戦だけ先に立てちゃおうかなと思ったんだけど……」
フリオにどうにか話しかけるグリスティア。フリオは……やっぱりこいつ何も気づいてないな。何でこんな状態で気づかないんだこいつは。
「グリスどうしたんだい?顔が赤いけど、お酒飲みすぎた?」
「なんっ?!飲んでないわよ!違う、飲んだわよ!」
何が言いたいんだお前は。というかこれを見せられる側の心情にもなって欲しいものだ。
邪魔する気は無いとはいえ少し複雑な気持ちになる。
「え、えっと、持って来たから食べて。はい、ほ、ほら!口開けて」
「え?あぁ、うん……」
グリスティアにせかされるままにフリオが口を開け、グリスティアがフリオの口の中に肉を押し込む。
少しだけかみしめた後に、フリオが言う。
「ありがとねグリスティア。美味しかったよ」
「ど、どういたし……っふひゃい?!」
奇声を上げるグリスティア。それもそのはず、フリオがグリスティアの頭を撫でたのだ。
流石フリオ、とんでもないことをやるなこいつは。
ふと見るとイギルも、この光景にガッツポーズを決めていた。暇なのだろうか。暇なんだろうな。
「何だったんだろうね?やっぱりグリスも酔ってたのかな?」
「俺はそんなことを本気で言えるお前の正気を疑うよ」
グリスティアが席に戻っていき、シェピアに迎えられるのを見届けて俺はフリオに返事をする。
何も考えずにやってるのがまた、たちが悪いんだよな。何とかならないだろうかこいつ。
と、グリスティアに励まされて今度はシェピアが立ち上がる。どうやら次はシェピアの番らしい。
早足でアニキの前までやってくると、シェピアは言った。
「アンタもお腹空いたでしょ。も、持って来てあげたから食べなさいよ」
「ん?あぁ、おう」
アニキが、『食わせてくれ』と言わんばかりに資料から手を離さずに口を開ける。
まじかこいつ。シェピアも予想外の反応に動揺しまくってるぞ。
だがそんな状況でもシェピアは一度深呼吸をして心を落ち着かせ、湯気を立ち上らせるスープ皿を手に取って--
「はいどうぞっっ!!」
「っぐあぁ熱ゥ?!」
アニキの口に思い切り流し込んだ。やっぱり落ち着き切れてないなこいつ。
普通はこういうのはスプーンなりなんなりで相手の口に運んでやるものだろうに。
あと俺的にはアニキの態度が気に食わないな。食わせてもらうのがさも当然、みたいな態度はよろしくないぞ。
想定外の攻撃によりむせまくっていたアニキが、どうにか落ち着くと言う。
「こ、このスープあんまり好きじゃないな……で、できれば他ので頼む……」
まじかお前。いや、タフだなって意味もそうだが、今の状態のシェピアにそんなことを言えるのが驚きだ。
当然のごとく、アニキへの親切心を思い切り踏みにじられたシェピアは肩を震わせアニキに殴りかか--
「……らないな?なんでだ?」
シェピアはまたもや早足で別のスープのところまで歩いて行ったかと思うと、煮えたぎる鍋を掴んだ。
そしてそのまま戻ってくる。どうみてもとんでもないレベルの怒りを押さえつけているような、狂暴な笑顔で。
そしてようやく状況を察したらしいアニキが目に見えて焦りだす。
「え、あ、ちょ、ちょっとシェピアさん?」
「そんなに別のスープが良いならね……」
にこ、とシェピアにしては珍しいほどの笑顔が一瞬彼女の顔に浮かび、鍋を振りかぶる。
「--これでも飲んでなさぁああい!!!」
「うわぁぁああぁ?!」
結局いつものようになったアニキとシェピア。
逃げるアニキと追うシェピアを見て俺はため息をつくのだった。
こうして作戦会議の続行は不可能となり、しょうがないので皆で夕食を取ることになった。
ほんとどうしようもないな、こいつらは。
「あ、ミニモ、そっちのお肉も食ってみたいんだが」
「良いですよー。はい、どうぞ!」
「ん、ありがとな」
ミニモに取ってもらった肉を頬張りながら俺はそんなことを思うのだった。
たまにはこんな回もあり、です。
先日投稿できなかった日があったので、今日は二話投稿でした。