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アニキ(移動型倉庫)

「……お前らほんとに何やってんだよ……」


 地面に叩きつけられる目前でアニキの体が宙に固定される。

 走って行っても間に合わないと間に合わないと判断した俺が浮遊魔法でアニキの体を浮かばせたのだ。

 目をつむっていたアニキがゆっくりと瞼を開き、こちらを見た。


「エテルノ……!」


 半泣きの笑顔でこちらを見ているアニキ。

 そんな目で見られても困るのだが。


「もう下ろしていいか?」

「お、おう!」


 魔法を解除してアニキを地面に降ろす。

 とりあえず未だに空を飛んでいるシェピアが見えたので文句を言っておく。


「なんでお前がいるのに止められなかったんだよ」

「いや浮遊魔法を撃ちはしたんだけど魔法外しちゃったのよ」

「外しちゃったのよってお前……」

「で、その辺の石にあたったわ」


 シェピアの指さす方向を見ようと後ろを振り返ると、確かに人間大の岩が宙に浮かんでいる。

 直後、ミシミシと音を立てて岩が爆散した。


「う、うわぁ……」

「ほらね?」

「何がほらねなんだお前」


 少し引いたような顔をしているフリオと、なぜかドヤ顔をするシェピア。そして真っ青な顔になっているアニキ。

 やっぱりシェピアには攻撃魔法以外は使わせるべきではないな。コントロールももちろん覚えて欲しいとは思うのだが。


「さて……でなんでお前らまでここに来たんだ?報告はしたはずだが」

「いやぁ、ギルド長として確認しないといけないなと思ってね」

「シェピアたちは?」

「お供Aとお供Bだよ」

「誰がお供だお前……」


 大分顔色が悪い状態でふらふらと立ち上がりながらもアニキがツッコミを入れる。

 ……まぁスライムに乗ったらそうなるわな。そもそもこいつは乗るようにできていないのだから。


「で、テミルちゃんの行方は分かったの?」

「テミルについてはまだ分からないんだけど怪しげな場所は見つけたよ。なんか悪い人が根城にしてるみたいだった」

「……ふむ、どうしようか、ギルドの人員を連れてきて対処する?」

「いやそれには及ばないだろう。洞窟の中で戦うのに大人数連れてくると邪魔になる可能性がある」


 とりあえずこの場に居るのは俺、フリオ、テミルとグリスティアに加えてシェピアとアニキ。イギルはそこまで役に立たないとしてもSランク冒険者がこれだけの人数いるのだから不都合はないはずだ。


 問題は今すぐ洞窟に戻るかどうかということになってくるが……


「今から行くのは難しい、か……」


 見ると既に日が落ち掛けている。

 先ほど俺達が見つけた洞窟だが、実はあれが初めて見つけた洞窟という訳でもなかった。

 あの洞窟を見つける以前にも森の中を歩き回ったり、怪しげな場所を探索したり。

 この時間になってしまったのが惜しまれる。

 今から森に入るのは危険だ。あいつらが身を隠す手段を持っているとしたら待ち伏せされる危険もあるからだ。


「そういえばミニモ、何かこっちで手がかりとかは見つかったのか?」

「そうですね、残念ですけどそんなに役立ちそうな物は……」

「……そうか」


 馬車に関してはあまり大きく期待できるものは無いと思ってはいたが、それでも残念だ。


「ただ、散らばってた荷物を確認したら一部持って行かれてましたね。お金は残ってましたけど、着替えとか日用品はたくさん無くなってました」

「服も持って行って売り払う……とすると金も持って行くよな。シェピア、どう思うよ」

「え?そうね……じゃあやっぱり着替えが必要だったんじゃないの?」


 着替えが必要だったから持って行くが、金は必要ない、と。


「テミル達が監禁されてるって仮定すればやっぱり筋は通るよね。死んではないみたいだしさ」

「だとしても金目当ての監禁じゃないってなんなんだよ」

「さぁ……?」


 考えてもやはり埒が明かないな。洞窟にもう一度向かえば話は早いのだが……


「とりあえずアニキ達もここに残るならテントを増やさないとな……」


 今のところ立てられているテントは先に来ていた俺達の分四つだけだ。

 一つ一つのテントは小さいものなのでここに更にアニキとシェピア、イギルが入るのは難しいだろう。


「あ、それについては大丈夫だぞ。俺のスキルで寝泊まりできるから」


 そんなことを言っているのはアニキだ。


「君は未だに宿屋人間みたいなことをやってるんだねぇ」

「誰が宿屋だよ?!」


 そんなアニキを茶化すような口調でイギルが言う。

 ……ん?


「未だに、ってことはスキルについても話したことがあるレベルの知り合いなのか?」

「まぁ昔ちょっとな。……っつか宿屋じゃねぇから!人間も収納できるってだけだから!」

「じゃあ歩く倉庫じゃないですか?」

「そだな」

「俺に対してのその評価は何なの?!」


 やたらと不憫な扱いを受ける人間として定着してしまったアニキだが、スキルについては本当に一目置いている。

 毎度形式的にはアニキの部下、という立場になる必要があるが安全な場所で寝泊まり出来たり、多くの物資を一人で持ち運べるというのが本当に大きい。

 そういう意味ではアニキが来てくれて本当に助かったな。


「じゃあ今日はアニキのスキルに頼って、テントを収納空間に移動させて寝泊まりってことでいいのか?」

「良いんじゃね?魔獣の肉で良ければ多少なりともうまい飯も……あっ」

「え、どうした?」


 ふと気まずい顔をしてそっぽを向くアニキ。

 何かあったのだろうか?


「……まだ何の処理もしてないゴブリンの死体入れっぱなしだったわ……」

「嘘だろ……?馬鹿じゃないのか……?」

「あ、後で処理しようと思ってたんだよ……!」

「なんでゴブリンの死体なんてそんなにたくさん保管してたんだい?」

「ミニモがたくさん仕留めてきて……あれ、これ悪いのミニモじゃね?」

「……私は善意でやっただけですよ?」


 ……なるほど。

 ゴブリンの死体を処理していなかったということは収納空間が今物凄い悪臭に包まれているということだから……


「……ミニモ、アニキ、俺も手伝うから頑張って片付けような」

「毎回思うんだけど俺何も悪くなくね……?」


 それはまぁ全く持ってその通りなのだがこの場では我慢してもらおう。

 面倒だしいっそのこと魔法で全部押し流そうかな。そんなことを考えつつ俺たちはキャンプ地の撤収作業に入るのだった。

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