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高く跳んで

「あぁああああ?!おかしいだろこいつめっちゃ揺れるんだけどォォォ?!!」

「アニキ、少しうるさいかな」

「なんでお前そんな冷静なんだよ?!」


 イギルが俺の横を馬に似た動物に乗って並走していた。

 とんでもない速さで景色が移り変わり、頭がグラグラと揺れる。

 首が痛い。


「ちょっとうるさいわよ」

「うるっせぇ!めっちゃ揺れるんだよこいつ!俺も飛ばせてくれよ!」

「別に良いけど私以外の人にこの魔法を使うんだったら四肢が爆散する可能性あるわよ」

「なんでお前が使う魔法ってことごとくそんな物騒なんだよ?!」


 上空を見るとシェピアがあぐらをかいた姿勢のままで物凄いスピードで移動していた。

 なんだろう、風情もくそも無いな。


「でもあなたの乗ってる『それ』も良いじゃない。こう……良いと思うわよ」

「せめて具体的に褒めてくれ……」


 自分のしがみついている『それ』を見る。

 鈍く光る金属に、なぜか生えている二本足。

 そう、ご察しの通り俺が乗っているのはエテルノの飼っているスライム(?)である。


「こ、こいつ揺れるんだって……マジで首が痛くなるレベルで揺れるんだって……!」

「くじ引きで負けたからね、しょうがないよ」

「いやあのくじ引きなんかおかしくなかったか?何回引いても俺がスライムに乗ることになってたし」

「まぁ幻覚魔法使ってたからね」

「てめぇやりやがったなこの野郎?!」


 俺たちは今テミル達が攫われたと思われる馬車へと向かっていた。

 エテルノから手紙がやって来てからの流れはとてつもなく速く、イギルの指示ですぐにギルド職員が動き、なんか気づいたらシェピアが来ていて、知らない間に手配されていた色々に乗せられて現在に至る。


「お前ギルド長なのにこんなところに来てていいのか?」

「大丈夫大丈夫。皆慣れてるからさ、僕が居なくてもギルドは回るって言うか」

「説得力が凄いな」

 

 そういえばイギルはギルドに居ないことが多いのだった。

 それでギルド職員がギルド長不在に慣れてると……。なんか空しくないかそれ。


「とりあえず周りの封鎖は頼んどいたから大丈夫だよ。ギルドの人員も少し動かしたし、衛兵もそのうち動いてくれると思う。馬車を大破させるレベルの人攫いがいるってだけで大事件だから動かないなんてことは無いと思うよー」

「おう、それならまぁ良いんだが……俺これ来る意味あったか?」

「来ようとしなかったら私が空を飛ばせてでも連れてきてたわよ」

「さっき四肢が爆散しかねないとか言ってたやつ?!」


 そりゃあ俺だってテミルのことが心配ではあるのだが、行くにしても今日の夜ぐらいからにしてもらえれば少しだけ店の用事を子分たちに任せられるレベルまで片付けられたのに……

 などと悔やんでいてもしょうがない。このスライムに乗ってしまったからには途中下車は出来なさそうだ。


「サミエラに頼んで大丈夫だったか……?」

「多分君たちが経営するより良い感じにしてくれるだろうね」

「あぁ、確かにそうかもしれないわね」


 いや、気持ちは分かるが認めるんじゃねぇよシェピア。

 俺が心配してるのはそう言うことじゃなくて、子分たちが大人しくサミエラに従うかと言うことなんだが……


「っと、なんか向こうにあるね」

「あぁ、あれのことじゃない?壊れた馬車って」


 シェピアとイギルが話しているが、俺の方は正直スライムにしがみついていないと振り落とされそうなためまっすぐ前を見続けるのは厳しいので何も分からない。 


「……今気づいたんだけどさ、これアニキちゃんと止まれるの?」

「……え?」


 ぼそっとイギルがそんなことを言うのが耳に入って、試しにスライムを叩きながら、止まるように言ってみる。


 当然のごとく、無反応。


「……あれ……?お、おい、止まれって」

「あー……スライムに乗せるのはアニキにしといてよかったね」

「ちょっと待てそれお前どういう意味だ」

「骨は拾うわよ」

「どうせだったら助けてくれる?!」


 ちょ、ちょっとこれホントにまずいって。超速スライムから叩き落とされたらさすがの俺でも死ぬのだが?

 いや待て、エテルノ達が先に到着していたのならミニモもいるだろう。とすれば怪我しても何とかなるのでは?

 怪我するのも嫌だけどな?


「そうね、じゃあスライムから放り出された瞬間を狙って浮遊魔法掛けてあげるわ」

「どのみち四肢爆散するから無事では済まねぇじゃねぇか?!」

「四肢爆散と地面に放り出されるの、どっちがいい?」

「どっちも嫌に決まってるけどな?!」

「幻覚を見ておけば精神的ショックは和らげられるよね」

「お前ら的にはもう俺は無事では済まないんだな?!」


 もうだめだ、こいつらは頼れない。そうだ、こうなったらスライムを収納--


「出来ねぇなぁ……」


 あぁ、このスライムはエテルノのペットな訳で、エテルノの所有物ってことになるんだな。

 俺のスキル他人の所有物は、収納できないんだったわ。


「もう俺でもどうしようも無いじゃねぇか……」


 走馬燈がよぎり、顔を上げると馬車が目前に迫る。

 あー……これ終わったわ……

 ミニモ、後は頼んだ……。


 直後、スライムが急停止し俺の体は宙に放り投げられた。


***


「よし、もう少しで森を抜けるぞ。一応最後に探知魔法で確認しとくから警戒頼む」

「うん、分かった。任せといてよ」

 

 探知魔法によると俺達を追って来ている人間は……居ないな。良かった。

 これなら安心してミニモ達のところに戻ることができる。


 ……と、


「おいフリオ、ミニモとグリスティア以外にも三人、馬車に物凄い速さで向かってくる人間がいる」

「え、嘘?!」

「急いだほうが良さそうだな……!」


 フリオと共に全速力で馬車まで走る。

 やってくる三人組の方を見ると--


「……ん?」

「エテルノ、なんかあの三人見覚えある気がするんだけど……」

「だな」


 アニキ、シェピア、あれは……イギルか?

 しかもアニキが乗ってるのは俺のスライム……あいつら何やって--


 と、唐突にアニキが叫び声をあげた。


「あぁああああぁ?!!」

「おぅわ」


 少し驚かされたが、どうしたんだあいつ。


「え、エテルノ、アニキあれ止まれなさそうな感じだけど」

「……ん?」


 もう一度アニキを注視してみる。スライムを何度も叩き、どうにか止めようとしているが……


「あっ」


 スライムが馬車目前で急停止、アニキの体が宙を舞った。

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