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人を隠すのなら人の中

「おい、どうするんだフリオ!さすがにこのままはマズいぞ!」

「そ、そうだよね!エテルノは透明化魔法とかできなかったっけ?!」

「そうだな、一応使っておくか!」


 万一に備えてフリオと俺の体を透明化しておく。維持がそこそこきつい魔法ではあるのだが、こんな状況では出し惜しみもしていられない。

 ついでにここまで俺たちが逃げてきた道に土魔法で障害物を造っておき、少しでも追手の足を遅らせようと画策する。

 奥へ、奥へと俺たちは進む。


 透明化までしたのに大声を出して話していては意味がない。ギリギリでフリオに聞こえる程度まで声量を抑えて俺達は言葉を交わした。


「魔法で逃げるのは無理……となるとどこかに隠れるかい?」

「その方が良さげな気はするが……見つかった場合が怖いな」


 現在俺達を追ってきている奴らだが恐らく何かしら身を隠す手段を持っていると思われる。

 そうでもなければあの距離まで近寄ってきているのに俺達が気づかないことなんてありえない。

 そしてそういう奴らにありがちなことではあるが……


「おそらく下手な隠れ方をするとバレる……んだよな……」


 身を隠す方法を知っている人間は総じて身を隠している人間を発見するのが上手い傾向にある。

 考えてみれば当たり前の話だ。身を隠す技術を身に着けていれば自然と、誰かが身を隠していそうな場所にも意識が向けられるようになるだろう。

 

 そして、残念ながら俺はそこまで隠れるのが得意なわけではない。

 さすがにこんな状況で隠れるという選択ができるほど俺は豪胆では無いのだ。


「隠れるのも駄目、穴を掘って脱出するのも駄目となるとやっぱり追手の横をすり抜けて逃げるしかないかな……」

「流石にきついんじゃないか……?戦闘になったとして、この洞窟内だと下手な魔法も使えないから剣だけで相手をすると考えると……」


 まぁおそらく無理だな。バルドと戦う時は地下道がそこそこ丈夫だったので魔法を乱発できたが、ここは何度も言ったように崩落の危険がある。

 いや、むしろ崩落させるのも手か……?


 そんな風に考えていた時だった。


「エテルノ、もしかしてこのまま行ったらこっそり敵の横を通り抜けられないかな?」

「ん?だからそれだとバレる可能性が高いと--」

「んー、でもさ、明らかに隠れてない敵が居る時ってもしかしたら他にも隠れてる敵が居るかも!とかあんまり考えないよね?」

「……ん?なんだ?何が言いたい?」


 フリオにが珍しく、悪戯っ子のような微笑を浮かべると作戦を俺に耳打ちしてくる。


「……脱出できる可能性は高いな。やってみるか」

「でしょ?よぉし、僕も久しぶりに本気出しちゃおっかな……!」


 フリオの宣言とほぼ同時、長く伸びたフリオの影が蠢きだすのだった。


***


「ぃよーしお前らぁ!逃げ場がない様にきっちり探せよ?もし逃がしちまったら今日は飯抜きだ!」


 集団の先頭に立って指揮を執る男がいた。顔の下半分を仮面で隠し、冒険者のような軽装をした男だ。

 集団の中でも特に筋骨隆々の大男、といった印象だが仮面越しでも分かる人懐っこい笑みを浮かばせているからかあまり恐怖は感じない。喋り方がやけにおちゃらけているからと言うのもあるだろう。

 男の後ろを付いてくるのはこれまた仮面をした人間たち。男もいれば女もいるが、共通しているのは全員が全員同じ模様の仮面をつけているということだ。

 なんだろう、気持ち悪いなこいつら。


 と、やけに集団がざわつき始める。

 洞窟の奥から押し寄せる影の群れが流石に目に入ったのだろう。


「ま、また来やがったこの化け物ども!」

「くっそ、しかも今度はさっきより数が多いな……!」

「おら落ち着けてめぇら!さっきと同じようにやるぞ!」


 集団のリーダーと思しき男が指揮を執り、陣形を組みなおす。

 直後、フリオの人影達がなだれ込んできた。


「っぐ……?!」

「やっば……数が多すぎますってコレ……!」

「くっそ、一旦避難すんぞ!壁に穴開けっからそこに入れ!」


 男が壁を撫でると、すぐに溶けるように壁が崩れ落ちる。

 魔法、なのだろうか。俺が一切知らない魔法だ。


 地面魔法の一種か……?

 と、フリオに手を引かれた。


「あぁくそっ!また禁術の類だ!話聞いちゃぁいたが流石にこれは無理があるだろうが!」


 腹立たし気にマスクの男が言う。

 禁術。バルドの扱う死霊術が禁術に相当していた気がするが……っと、そんなことを考えている場合では無いのだ。


 男達が壁に開けた穴に隠れ、影達の群れが通過していく。

 

 男たちは影が通過していくのを黙って見守るのだった。


***


「いやぁ……うまく行ったな……」

「だね、案外うまく行って良かったよ」


 急いで森を走りながら会話する。


 フリオの立てた作戦は簡単に言うと、呼び出した影達の群れに紛れて逃げ出すというものだった。

 ただ隠れるだけではバレてしまう。が、戦闘中に誰かが隠れているかなんて気にする奴の方が少ない。

 しかも今回特によかったのは奴らが対応できないほどの人影を用意できたことだ。


 人影に紛れて透明化し、そのまま流れで脱出、と言ったところだが……


「とりあえずあいつら、ただの盗賊では無さそうだったな」

「だね……テミル達とも関係があるかもしれないし、この洞窟の場所は覚えておこうか」

「そうだな。イギルにも報告するとしよう」


 鬱蒼と茂った木々の間を駆ける。空を飛べたら楽なのだが、そんなことをしてしまっては敵に自分たちの位置を知らせるようなものだからな。今は我慢だ。


「よし、もうひと踏ん張り行くぞ!」

「おー!」

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