暗がりを進んで
「エテルノ、せっかくだし怖い話でもしないかい?」
「ん?なんでだ?」
「いや、ここ雰囲気あったから……」
時々水滴が落ちる音がする暗い道をだらだらと俺たちは進む。
手に持った照明で足元を照らしてはいるが、急いで進むのも危険だ。そのせいでゆっくりと進んでいるのだが……
「まぁ魔獣もいなさそうだから良いが……お前怖い話とか好きな感じだったか?」
「そこそこにはね。本を読むのが趣味だったりするしさ」
「あぁ、そういや俺へのお見舞いとか言って本持って来たことあったな」
とはいえお見舞いされるような怪我をしすぎていていつのタイミングで貰った本だったかは覚えていないのだが、なにやらよく分からない感じの雑学本を貰った覚えがある。
その流れで言うと怖い話、と言うのもまぁフリオが好きでもおかしくは無いのか。
「まぁそういうことなら良いぞ、暇つぶしに付き合ってやろう」
「ん、じゃあ僕から話すってことで良いのかな?」
「良いぞ」
フリオも言っていたが洞窟の中と言うのも中々雰囲気があって良いな。俺は流石にフリオの怖い話程度では怖がらないが、グリスティアやらシェピアやらを連れてきていれば面白かったかもしれない。
「これは最近町であった話なんだけどね、この前僕たちがバルドと戦った地下通路あったでしょ?」
「あったな」
少し前の話だが、死霊術師であるバルドとその協力者だったディアンが根城にしていた地下通路のことだな。
今は誰も立ち入らないように鉄格子がはめられていたはずだが?
「エテルノはそもそもなんであんなところに地下通路なんてあったと思う?町の地下にあんなものを作ったりしてたら危なくないかい?」
「まぁそれは確かにそうだな……」
「あれ実は、町がここにできる前に存在してた巨大王国の名残だって言う話があるんだよね」
「一気に話がきな臭くなったな」
確かにそう思いたくなるのも納得できるレベルで古い地下通路ではあったが、実際はそうではない。
確か雨が降った時に水が溢れないよう、一時的な貯水池として使うとかなんとかそんな話があった気が……
「で、話はここからなんだけどさ、鉄格子の傍で耳を澄ましてると時々微かに男の叫び声が聞こえてくることがあるんだってさ」
「なんだそりゃ馬鹿らしい……」
「え、怖くないかい?もしかしたら王家の呪いかもしれないよ?」
「そんなこと言ったらあの地下通路を荒らしまくった俺たちは呪われまくってるだろ?」
「……確かに……!」
少し期待したのだが、やはりこの程度か。
じゃあ次は俺の番だな。
「じゃあそうだな、フリオ、お前部屋にいるときに誰かに見られているような錯覚をしたことは無いか?」
「え、いや、僕は無いけど……」
「あれは俺がお前たちと魔獣討伐に行く前の事だったか。気づいたら、いつも使っている俺のハンカチが消えている。どれだけ探しても見つからないんだ」
「んー、無くしたりしたとかじゃないのかい?どこかに置き忘れたとか……」
そんなわけ無いだろう。怖い話なんだから物忘れの話なんてするか。
「でだ。気になった俺はある日、探知魔法を使ってみた。と、部屋の床下に何かがいる」
「えっ」
「急いで俺はその部屋を出て魔獣討伐へ向かった。下手に刺激しても良くないと思ったからだ。で、帰ってきて魔法を使ってみると、もうそこには誰も居なかった。で安心して床板を外してみると、そこにはハンカチがあったんだ……」
「えぇぇぇ……」
「もちろんその後に誰かが侵入してるのかもしれないと思って対策はしてみたんだが、人間なら絶対に侵入できないほどのセキュリティーを用意した今でも時々ハンカチが消えててな……人間じゃ無い何かの仕業かと疑ってるんだ」
「と、とんでもない話だね……」
言うまでも無くミニモの話なのだが、フリオは相当に楽しんでくれたようだ。
良かった。いや、良くないが。
「意外に身近に『そいつ』は居るのかもしれないな。……あぁ、今も少しだけ視線を感じているんだが……」
「そういうのは早く言ってね?!」
嘘なんだが、フリオ相当ビビってるな。
逆にミニモがこんなところまで着いてきてたら俺もビビりまくる自信があるな。
……いや、着いてきてないよな?グリスティアが一緒にいるはずだもんな。いやいやいや、そんなまさか……
とりあえず、こっそりと探知魔法を使ってみる。
と--
「……フリオ、少し端に避けてもらえるか?」
「え、あ、うん、どうしたんだいさっきから--」
直後、今まで俺達が通って来た通路に特大の魔法を放ち、俺はフリオの手を取った。
「なっ……?!ど、どうしたんだい?!」
「分からん!だが大勢に後をつけられてる!逃げるぞ!」
「え、あ、ちょ、ちょっと!」
探知魔法に反応したのがミニモだった方がまだよかった。
反応したのは洞窟の入り口、つまり俺達が通って来た道を、ゆっくりと進んでくる多くの人間。
盗賊では無いだろう。何しろ、今俺が放った魔法に誰も怪我を負った様子すらなく対応している。
ただの盗賊なら今の魔法で全滅していてもおかしくないというのに。
つまるところ、やばい奴らが大勢で俺達を追って来ている。
「っぐ……!フリオ、どうする?!この洞窟の出口がここ以外にあるとは思えないぞ……!」
「魔法で穴は掘れないかい?!」
「流石に今ここでやるのはまずい!この洞窟は地盤が緩い可能性がある!」
水滴の音が聞こえ、足元には水溜りが散見される。
ここで下手に穴を開けてしまうと、水で緩んだ洞窟では崩落の危険がある。
「分かった!じゃあ一旦僕のスキルで足止めをするから、その隙に奥に行こう!」
俺より一足先に洞窟の奥へと走り出したフリオの影からずるりと人影が這い出す。
フリオのスキルだが、いつ見ても少しだけ不気味だ。洞窟という雰囲気のある場所で使うと悪霊の類のようにすら見える。
俺たちはそんな影達の群れを抜け、更に洞窟の奥へと入り込んでいくのだった。