男子勢、談笑断章
「んんー、良い朝だねエテルノ!冷えた体にスープが染み渡るよ!」
「……おう、そうだな」
朝方。日が昇ると同時に起床した俺たちは朝食を取っていた。
早起きするのは別に冒険者としては普通の事なので構わないのだが、今日に限っては少しだけ事情が違う。
「ん、エテルノ、眠いのかい?」
「まぁな……少し寝不足気味ではあるんだが気にしないでくれ」
あくびをしていた俺にフリオが不思議そうな顔で問いかける。
そう、寝不足なのだ。具体的に言うと昨日ミニモへのお説教が長引いたせいで寝不足なのだ。
そして更に理不尽なことがある。
「グリスちゃん、お代わりください!」
「はいはい、ミニモは今日も元気ねー」
「はい!」
俺が寝不足なのにも関わらず、ミニモは元気なのである。
これを理不尽と言わずして何と言おうか。おかしいだろ。結構遅くまで説教してやったはずだぞ?
「あー……フリオ、今日はどうするんだ?引き続き馬車の調査か?」
「いや、今日は分担するつもりだよ。馬車だけを調べててもしょうがないだろうし、ゴブリンに攫われた可能性も無いわけじゃないからね。近くのゴブリンの巣窟とか盗賊の住処とかを潰しに行こうかなって思ってたんだけど……どうだい?」
「いや、それは良いんだが潰すってお前、珍しく物騒な--」
そこまで言って俺は口を閉じた。
まぁ言うのも野暮だろう。フリオにとってテミルは幼馴染なわけだ、そりゃあテミルが攫われたともなれば気も立つか。
そうだな、今日はフリオの提案通りに行動するほうが良さそうだ。
稀にだが魔法を扱うゴブリンもいることだし、もしそんなゴブリン達の中でもとんでもない魔法を扱うゴブリンがいたとしたら--
みたいな可能性も、切捨てることはできない。今の状況でやれることは少ないのだから、どんなに小さい可能性でも潰しておくに越したことは無いだろう。
「とするとなんだ?洞窟を中心に巡る班と、馬車を調べる班で分けるんだな?」
「そのつもりだよ。で、班なんだけど、僕とエテルノが洞窟探索でどうかな?」
「まぁ構わないが……珍しい分け方だな」
普段ならフリオとグリスティア、俺とミニモ、と言った感じで分けていたはずだが……
そんな疑問を口にすると、フリオは何でもないように言った。
「まぁ洞窟だったらやっぱり魔法は使いにくくなるし、ミニモが来るほど怪我をすることも無いだろうからね。大丈夫かなって」
「あー……じゃあ俺も剣メインで戦う方が良いんだな?」
「うん。万が一敵がテミル達を連れてた場合、魔法を使うと巻き込んじゃうかもしれないでしょ?」
確かに。そこまでは頭が回らなかったな。
普段の俺なら察せていたはずのことだ。もう少し冷静にならなければいけないな。
「分かった。じゃあ今日は俺はフリオについて行こう」
「ん、じゃあグリスティアはミニモと、ここで留守番を頼んだよ。馬車も割とまだ手がかりあるかもしれないからね」
「分かったわ。でも気を付けてね?」
「もちろんだとも」
いつもの会話なんだが、やはりグリスティアとフリオの会話は絶妙に甘い感じになってるんだよな。
なおフリオ曰く恋愛感情は無いというのだから驚きである。
と、ふとミニモの方を見るとなにやらこちらをじっと見ていた。
「……なんだ、何が言いたい」
「いやぁ、やっぱり私も褒められるとやる気出ちゃうかなぁって思ったんですけどー」
「お前がやる気出すと大惨事を引き起こしかねないからな。そのぐらいがちょうどいいんじゃないか?」
「酷い?!エテルノさんは私を何だと思ってるんですか?!」
俺にやたら懐いている大自然の脅威だと思っているが。
それはいったん置いておいて、要するにミニモは、フリオ達のやり取りを見て羨ましくなったのだろう。
「しょうがないな……それだったら、帰ってくるまでに何か役立ちそうな手がかり見つけられてたら手料理振る舞う、ぐらいでどうだ?」
「百個見つけたら百品ですか?」
「上限は五品にするわ」
見つけられるとは思わないが、なんか怖いから上限はつけておく。
そんな俺達のやり取りを見てフリオが言った。
「いつも通り仲が良いね二人とも」
「どこがだよ……そもそも普段から仲は良くないだろうが……」
そこで会話を切り上げて水を飲む。喋っていたせいで喉が渇いたからだ。
だが、フリオは言う。
「だってほら、昨日の夜二人でどっか行ってたよね?」
直後、俺は盛大に水を吹き出した。
***
「エテルノ、ほんとごめんって……機嫌治してよ……誤解なのは分かったからさ……」
「お前ほんとな……言い方から何から駄目に決まってんだろうが……」
森林を歩きながら俺とフリオは会話する。
内容はもちろん先程の会話についてだ。
「というかお前なんであんな時間に起きてたんだよ……」
「あぁ、なんかエテルノのツッコミが聞こえてきて……」
「俺のせいじゃねぇか」
そこまで大きい声を出した覚えは無かったのだが、やりすぎたか。起こしてしまったのなら申し訳ないな。
「でもエテルノはミニモに懐かれてるもんねぇ」
「懐かれてるなんてレベル通り越してもう怖ぇよ……」
フリオには言わないが、実際はストーカーじみてるわけだからな。
俺が何をしたと言うんだ。何をしたらそんなに懐かれた。初対面の時こそ距離感が近い程度にとどまっていたが、エスカレートしすぎだろう。
というかもう少し恋愛感情があるとしても隠せ。
「グリスティアは常識的でいいよなまだ……」
「グリスかい?でも彼女もたまに無茶苦茶なことを魔法でするよ?」
「あー……」
そんなくだらない会話をしながら思う。
フリオと一対一で会話するのは久々かもしれない。フリオもかなり常識的だから、会話していて疲れないんだよな。
たまに脳筋ではあるが、それさえ出なければ大丈夫だ。
「あ、エテルノ、洞窟あったよ」
「ん、分かった」
洞窟が見つかり、くだらない話はここらで切り上げる。
さて、ここにテミルがいるとも思えないが俺は俺の仕事をしっかり果たすとしようじゃないか。
テスト期間なので今後一週間、投稿遅れる可能性あります。すいません。
その場合は後日複数話投稿します。