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夜風の行方

「……」


 寝付けない。時間を見ると既に十二時を回っており、テントの外からは時折虫の鳴き声が聞こえてくる。

 考えていたのはテミルのことだ。盗賊団に攫われたとしたらどんな目に合っているのか定かではない。

 そういう裏社会の人間と言うのは総じてろくな人間がいないからな。普段ならどんな状況でも自力で切り抜けるであろうテミルだが、拘束されていたとしたら何をされているか……。


 そんなことを考えていたのだ。フリオ達に早く寝るように言った手前、俺が寝ていないというのはどうにも良くない。

 早く寝なければいけないのだが……


「駄目だな。夜風にでも当たってくるか……」

 

 テントの入り口を開けて外に出る。 

 テントは個人用だが、俺のテントの隣にはフリオのテントがあったはずだ。フリオを起こしてしまわないようにそっとテントを開け--


「あっ」

「えっ」


 丁度俺のテントに手を掛けているところだったミニモと鉢合わせた。

 ……なるほど?


「あー……ミニモ、ちょっと離れたところで話さないか?」

「えっ、エテルノさんと夜デートですか?!こんなところで急に誘うなんて……!」

「違ぇよ馬鹿お説教だ」

「えっ」

「驚いてんじゃねぇ」


***


「ひぃん……」

「ひぃんじゃねぇよ……嘆きたいのはこっちだ……」


 夜、月明かりの下で俺はミニモを正座させていた。

 満点の星空が輝き、草原には虫の声が響き、そんな中でうなだれるミニモ。

 何だこの状況。


「あのな……聞きたいことは色々あるんだが、まずなんで俺のテントに来たんだ?」

「え、えぇと……エテルノさんは寝ちゃったかなぁと……」

「それを知ってどうするんだ?」

「え?そりゃあエテルノさんが寝てたら『あぁ、今この世界ではエテルノさんが寝てるんだなぁ』と思いますし起きてたら『この夜空の続く先ではエテルノさんが空を見上げてるかもしれない』とか思いますけど」

「テントの中に居るんだから間違いなく夜空は見上げてないし起きててよかったと今心から思ったわ」


 ミニモ、やはりどこか恐ろしさを感じるような奴である。

 とりあえずミニモは正座させたままで俺は聞く。 


「まぁ俺のテントに来たのは百歩譲って良いとしよう」

「じゃあこれからも来て良いですか?」

「駄目だ。……で、なんでこんな時間まで起きてたんだ?」

「……」


 返事は、無い。

 しばしの沈黙の後、ミニモから帰って来たのは俺への質問だった。


「エテルノさんはテミルちゃんが攫われた今回の事、どう思います?」

「……どう、か」


 なんとなく予想していたが、ミニモもテミルのことが気になって寝付けなかったらしい。

 まぁそうだろう。この状況で普通に就寝しているフリオやグリスティアは冷たいわけでは無いのだろうが、慣れているというか……どこかSランクらしい振る舞いをしていた。

 現実味が無いと言えばいいのだろうか、だからこんな風に行動にまで現れてしまうミニモも普通なのだと思うことができた。


「そうだな、ただの盗賊ではない気がしてはいるが……」

「エテルノさんもですか?」

「……まぁな。可能性としては盗賊の可能性の方が高いが……」


 魔法を使う盗賊、程度なら分からなくも無いがあそこまでの熟練した魔法を使うとなると話は別だ。

 盗賊と言うよりはもっと別の……何か軍隊のようなものではないのか、とすら思える。

 魔法があそこまで熟達した人間が盗賊をやるとは考えにくい。あそこまでの魔法が使えるなら普通に働いた方が金を稼げるからだ。

 そんな人間が偶然盗賊に居て、偶然馬車を襲って、偶然何の痕跡も残さないようにして全員を攫って行く?

 あり得ないだろうそんなこと。


「実際どうなんですかね、あれって」

「……分からないんだよな。ただの盗賊だとはどうしても思えない」

「魔法もそうですけど……なんでしょうかね、ほんとに。誰も死んでないんですよ」

「……ん、なんで分かった?」


 実際のところ、俺たちは劇団のメンバーが何人か死んでしまっている可能性も含めて捜査していた。

 もし誰かが死んでいたのなら死体をそこらに埋めて盗賊たちが逃げ出せば、証拠隠滅も容易になる。

 

 言葉にはもちろん出さないが、近くに何か埋められているような跡を探していたりとか。

 俺も、フリオも、グリスティアも。言いはしないものの死んでいる可能性を考えて扱っていた。


 それを、ミニモは言い切ったのだ。テミル達は死んでいないと。

 一体なぜそんなことが言える?ミニモのいつものあれかと思ったが、ミニモはそこまで頭が悪いわけでは無い。

 テミル達が死んでいる可能性にも気づくだろう。


 ……だから、分からない。何故ミニモは言い切った?なんで言い切れたんだ?


 ミニモの顔を注視するが、ミニモの表情は崩れない。

 いつものようにミニモは笑いながら言った。


「だってそれは、血もついてなかったじゃないですか。治癒魔法の応用みたいな感じで、血が流れてないかって言うのは拭き取られてても分かっちゃうんですよ」

「……そういうものなのか?」

「はい、そうです。エテルノさんがちょっとだけ怪我をしてるのも分かってますよ」

「……」


 ミニモが俺の手を取った。

 指に乱雑に巻かれた包帯。そうだ、そういえば馬車の破片を調べていた時に指を切っていたな。小さい傷なので気にも留めていなかったが……


「治しますから、出してください」

「……おう、ありがとう」

「いえいえ、これが私の仕事ですから」


 少しだけ、俺はミニモを不審に思ったのを恥じるのだった。


 ……いや、でも後でお説教はしとこう。夜にテントに来るのは他の人間に見られたら誤解を生みかねないからな。

そういえばミニモのテントから出てくるのをリリスに目撃された男がいた気もしますね。

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