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誰も知らない君の行く先

「えっと、それじゃあ行ってきます!」

「ん、頑張ってくるんだよテミルー」

「テミル大丈夫かの?荷物とかちゃんと持ったかの?」

「も……持ったはずです!多分!」

 

 とある日、町の外へと続く街道に俺たちは集合していた。

 劇団の荷物を目いっぱい積み込んだ荷台にテミルが荷物を放り込む。


 そんなテミルを先ほどから心配し続けているのはフリオとサミエラ。そして次点でシェピアとグリスティア。かれこれ十分ぐらいこの問答を続けているが……


「おいフリオ、そろそろ出発の時間だろう。もう解放してやれよ」


 先ほどから劇団の人間がちらちらとこちらを見ているのが見える。言わずもがなテミルが引き留められているからだろう。申し訳ない。


「ほらフリオ。迷惑をかけてるだろうが。別れを惜しむのは良いが少しは急げ」

「でも忘れ物があったらどうするのさ!」

「足りないものがあったら次の町で買い足すだろうよ」


 であるならば、必要なのは物では無く。


「ほらテミル、餞別だ。受け取れ」

「え、あ、うわぁ?!ちょ、ちょっと急に投げないでくださいよ!」


 フリオに当たらないように気を付けて小袋を投げ込んでやる。

 焦ってそれを受け取ったテミルは軽いものと考えて受け取ったのか、予想外の重さに少し怪訝な顔をした。


「こ、これ何が入って……って、お、お金ですか?!」

「あぁそうだ。旅をするんだったら色々と入り用だろう。……あぁ、俺からの分だけでは無いから勘違いするなよ」


 中身はちょっとした枚数の金貨だ。これぐらいあればまぁ、旅をするのに不自由は無いだろうと俺が考えた程度の量を入れてある。

 俺以外にもアニキが『料理作りを手伝ってくれた礼に俺もなんかしないとな!』と言っていたので、アニキにも金を出してもらった。


 俺のと合わせてもちょっとした量。テミルのことだから浪費はしないだろうが、これだけあれば贅沢をしても一カ月は持つ。 


「あ、え、えっと、ありがとうございます!」

「気にするな。アニキからも、見送りに行ってやれなくてすまん、だとよ」


 今日、アニキはどうしても外せない用事があったらしく欠席となっている。

 せめてもと言うことでシェピアだけは見送りに来ているが、何やら店が忙しいらしいな。

 テミルの協力もあってゴブリンの調理方法が見つかったということで多忙になったと聞いているが……その辺は頑張ってほしいものだ。


 と、そうこうしている間にフリオとサミエラがようやくテミルを解放しテミルが馬車へと乗り込んだ。

 それを見て御者が馬車を走らせ始め、馬車の窓から半分ほども身を乗り出してテミルはこちらへと手を振る。


「それじゃあ一年後、またこの町に戻ってきます!私はいつも移動してるので返事を受け取るのは難しいですけど、ちょくちょくお土産も添えて手紙を出すので安心してください!」

「そんなことは良いから体には気を付けるんじゃぞ!」

「ディアンも待ってるから、無事に帰ってくるんだよ!」

「はい!分かりました!」


 馬車が離れていく。ガタガタと荷台の荷物を揺らしながら。

 離れて、離れて--


「……見えなくなっちゃいましたね」

「だな」


 今となってはただ、少し砂埃の巻き上げられた空気が残るだけだ。

 ミニモも少し、寂しそうな表情を浮かべている。


「大丈夫でしょうか、テミルちゃん……」

「まぁあいつなら大丈夫だろ。劇団を追い出されても一人でサバイバルして生きていきそうだしな」

「そういうことじゃないんですよねぇ……」

「なんだよ。他に何が心配なんだ?」


 テミルについて一番心配なことがあるとしたら、それは彼女の無茶苦茶さに劇団のメンバーがついていけなくなり彼女を追放するかもしれない、ということでは無いだろうか。

 それについてはテミル側の落ち度が大きいとは思うのだが、追放されるというのはそこそこ精神にも来るものだ。

 出来れば彼女が追放されるような事態にはなってほしくない。


 ……追放されたらこの町に戻ってこられるようにと言う意味も含めて金を多めに渡したというのもあったりする。

 

 だがそれ以外に気になるようなことがあっただろうか?

 不思議に思いつつ見てみると、ミニモにしては珍しく口にするのをためらうような様子を見せていた。


「えっと……まぁエテルノさんに言うほどの事でもないですかね。気にしないでください」

「そういうことなら無理に聞こうとも思わないが……」


 テミルが他に直面しそうなピンチと言ったら……

 ゲテモノ系を食べすぎて食あたり、か?腹痛用の薬も餞別で渡しておくべきだったか。失敗したな。


「……さ、町に戻ろうか。最近は何もしていなかったけどそろそろ増えてきてる魔獣を減らしておかないとね」

「ん、分かった」


 テミルも無事に旅立ったことだ。これからはまた、元の冒険者稼業に戻って町の防備を固めていかなければな。


「……よし、頑張るか。行くぞミニモ」

「はい、わかりました!」

「グリス、これからもよろしくね」

「何よ、今更じゃない。虫以外は何とかしてあげるわよ」


 そうだ。元のように、けれど少しだけ前よりも成長している状態で再び冒険者稼業を続けていけると思っていた。



 

 --この時までは。


***


「っと!これで何匹目だミニモ!」

「八十六です!次エテルノさんから見て右の方に三匹、フリオさんから見て左後ろに二匹来てます!」

「分かった!グリスはどんな感じだい?」

「遠くの奴を狙い撃つって言っても数が多くて大変ねこれ……!」


 テミルの旅立ちから二日、本日から俺たちは冒険者稼業に復帰である。

 昨日は装備点検に思いのほか時間がかかって一日潰したが、おかげで今日は準備万端。苦戦を強いられることも無いだろうと思っていたのだが……


「くっそ、数が増えてるのは想定してたがここまで増えるものなのか……!」

「ここまで増えてるんだったら苗床がいないとおかしいと思うんだけどさ、町から攫われたって言う報告は無かったはずだよね……?!」

「あぁ、俺も聞いた限り無かったはずだ!」


 そう、それが妙なのだ。

 ゴブリンの繁殖力は強いとはいえメスの数には限りがある訳で、子供が成長するまでの時間を考えてもこの急増はおかしい。

 ……となると人間が数百人単位で攫われており苗床にされていると考えるのが妥当なわけだが、町で人が消えたという噂は聞いていないのだ。

 ましてや数百人、そんな数が消えていたら軽く騒ぎになるはずだ。


 歯嚙みしながらも一匹ずつゴブリンを始末していく、そんなタイミングだった。


「フリオさん!フリオさんは居ませんか?!」

「ん……?」


 唐突に誰かが森の茂みをかき分けて戦いに乱入してくる。

 近くに居たゴブリンを牽制しつつ、乱入者の顔を見ると--


「--なんだ、フィリミルじゃないか。急に戦いに入ってくると危ないだろう。間違えて攻撃したらどうするんだ」


 その場合ミニモがすぐに治すだろうが、それを分かっていても味方を斬ってしまうというのは気持ち良くは無いものだろう。

 

 と、フィリミルの顔を見て気づく。

 今にも死にそうなほど息を切らし、顔は血の気が引いて真っ青、なによりも、目が必死であることを物語っている。


「え、えっとフィリミル、どうしたんだい?君がそんなになるってどういう--」


 フリオの質問を遮って、フィリミルが俺達全員に聞こえるように叫ぶ。


「--っ、テミルさんの乗っていた馬車が、行方不明になってるそうです!馬車の残骸だけが見つかってて、死体すら--」

「なっ……?!ほ、本当かい?!」

「分かりません!た、ただ、少しでも早くフリオさんに伝えないとと思って……」


 相当急いだのだろう、フィリミルがバランスを崩してふらついたところを支えてやる。

 水を渡してやりつつ俺はフリオに声を掛けた。


「町に戻る、ってことで良いんだよな?」

「……うん、そうしよう。まずは情報確認をしっかりしないと。僕とグリスで先に行くから、エテルノはミニモとフィリミルを連れて安全に戻って来てくれるかい?」

「あぁ、分かった。荷物も俺達が持っていこう。置いてってくれ」

「ありがとう!それじゃあ町で落ち合おう!」


 フリオがグリスと共に走っていくのを見送り、今度は剣を持ち替えて杖を構える。

 先ほど蹴散らしたゴブリンがまたわらわらと集まってきたところに魔法をぶち込めるよう、いつでも準備は万端だ。


「おいミニモ、行けるか?」

「行けますよー。久しぶりに私も戦いに参加できるってことで良いんですよね?」

「あぁ。グリスティアもフリオもいないからな。助けてくれると嬉しい」

「もう任せちゃってくださいよ!大船と言わず私に乗ったつもりでいてください!」

「大船よりもお前の方が沈まないっていうその謎認識はなんなの?」


 とりあえずさっさとゴブリンを蹴散らして町に戻らなければな。

 と、ゴブリンが奇声を上げて飛び掛かってくる。


「ミニモ、避けろ!」

「分かりましたっ!!」


 戦いの狼煙代わりだ。

 少しも過たずゴブリンに狙い定めた俺の杖から閃光が迸るのだった。

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