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家族だからこそ

「はい、二人とも。そんなにしょぼくれてないでご飯を食べなよ!」

「……フリオ。料理は散々食べたからいらないですよ」

「あ、食べたんだ」


 ディアンの牢の奥を見ると確かに何枚か皿が積まれている。

 テミルの横には……お皿と言うか、うん。ゲテモノ系がたくさん載ったお皿があるけど。


「でもディアン、さっきのお肉って確かゴブリンの……」

「なっ……?!」


 反応を見るに、知らなかったらしい。

 まぁそうだよね。料理を渡すときにわざわざゴブリンの肉だよー、なんて言って渡さないだろうしね。


「ちょ、フ、フリオ、もしかして今日のお別れ会ってゲテモノ系の料理しか出さない感じの物だったり……?!」

「あぁいや、それは無いから大丈夫だよ」

「ゲテモノですか?」


 きょとんとした顔をしているテミル。

 うん、君がゲテモノ食をしてる筆頭なんだから気づこうね。特にその右手に持ってるものは見るからにゲテモノだからね。


 黒々としたバッタの焼き串を振りながらテミルが言う。


「あ、聞いてくださいよフリオ君。私もこのゴブリンの料理作り頑張ったんですけどね、血抜きからもう大変で--」

「お願いですから食欲を削ぎに来ないでください……」

「うん……流石にディアンも料理食べたいだろうからね……」


 僕が持って来た料理の中でゴブリン肉を的確に避けて食べ進めているディアン。

 流石にゴブリン肉だけが出されているわけでもないしね。えぇと、今食べていたのは鶏肉と魚のお肉と……


「……ふむ、この緑のケーキは色こそ毒々しいですけど美味しいですね」

「あ、それドーラの座ってたケーキだ」


 直後、ディアンが盛大に食べかけのケーキを吹き出した。


 ……あれ、僕また何かやっちゃったかな?


***


「……」

「え、えっと、ディアン君、そんなにふてくされてないで……」

「そうだよディアン。そんな隅っこの方に居ないでもっと食べようよ」

「……いや……完全に食欲無くしたからいいですよもう……」


 見るからにディアンはへこんでいる。

 うーん、流石にドーラも洗ってあっただろうし不潔では無いと思うんだけどねぇ。


「これはとっておきなんですけど……蜂蜜漬けの蛇……いりますか?」

「今一番欲しくない物を提示してきますね。あ、ちょっと、無理やり牢に押し込まないでテミr……あぁ!牢が蜂蜜でべたべたになるでしょうよ?!」


 蜂蜜漬けの蛇だったら今までの物の中では一番まともそうではあるけどね。

 半透明の黄色い液体の中に蛇が浮かんだり沈んだりしている瓶。

 ……まともではあるけど、禁術っぽい匂いが消えないな……。


「ま、そんなことは良いんだけどさ」

「フリオ、僕は良くないと思うけど?」

「……まぁそれは置いといて」

「置いとかないでくれる?!」


 んー、そういう話をするために来たわけでは無いんだけどなぁ。


「あ、テミル、そういうのを食べるのは良いんだけど劇団の人たちに迷惑かけないようにね?」

「え、あ、はい、だ、大丈夫ですよ。別に独り占めしたりなんてしませんし」

「逆におすそ分けしたほうが困らせることになると思うんだけど……」

「そうですよテミル……。ほんとほどほどに……」


 テミルが色んな事で迷惑をかけているようで、幼馴染としては申し訳ない限りです。はい。

 後でエテルノとかグリスティアに手伝ってもらって、お詫びの品とか用意しておこうかな。


「テミル、貴方は誰かと一緒に旅に出る訳ですからもう少し節度を持って……」

「そうですよ!私旅に出ちゃうのにそんなんで良いんですかディアン君!」

「えぇ……」


 急に思い出したようにそんなことを言うテミル。

 いや、僕ももちろん前々から思っていたことではあるのだけど、そんな感じの聞き方で良いのかな……。


「今思い出しましたけど、私しばらくディアン君と話せませんよ!」

「あ、やっぱり今思い出したんだ」

「……僕的には、テミルならどうとでも生きていけると思うから、心配はしてませんよ。演技も十分に出来てたみたいですしね」

「あ、ありがとうございます……」


 ……ん?


「あれ、ディアンってテミルの劇見たことあるっけ?」

「え、あ、い、いや、エテルノ・バルヘントから聞いたんですよ。彼が言うのなら大丈夫だと思ったので」

「あー、確かにエテルノなら言ってそうだね」

「エテルノさん……ミニモさんに聞いた限りだと、もっと色々やってくださってても違和感は無いかと!」

「君らの中でエテルノの信用が高いのって結構複雑なんだけど」


 エテルノはあれで面倒見も良いしね。ディアンの気にしてそうなことは先んじて何とかしてくれていても何も違和感はない。


「ミニモさんに聞いた感じだと、エテルノさんは将来英雄として町で祀られてもおかしくないと思いますね」

「ミニモは何を言ったんだろう……」

「……あー、それは女子会での秘密と言うか……フリオ君もグリスちゃんに相当褒められてましたけどね」

「本当かい?それは嬉しいね」


 グリスも褒めていてくれたとなると……なんだろう。剣のことかな。

 分からないけれど、グリスが僕を認めてくれているというのは嬉しいことだ。


 元は僕がディアンやテミルと離れ、冒険者パーティーを組むにあたって声を掛けたのが他の町から流れてきていたグリスティアなのだから。もちろん彼女に思い入れはあるし、彼女の強さも間近で見てきている。

 そんな彼女が僕を認めてくれている。ありがたくもあるし、もっと努力しなければいけないという気持ちでいっぱいだ。


「……まぁフリオの仲間の話はまた今度聞くとして、テミル。少しいいかな?」

「え、あ、な、なんですかそんなに改まって……」


 急にディアンがテミルの方に向き直って言う。

 テミルも少しだけ、緊張した様子だ。


「運が良ければ、ギルドに僕の使ってた金庫が残ってるはずだ。だからそれの中身を君の旅に持って行っていい。鍵はダイヤル式だから、今からその番号を言おうと思う。メモはできるかい?」

「え、あ、は、はい!」

「あ、ペン使うかい?」

「フリオさん……!」

「そんな尊敬の目で見られるようなことでもないんだけどね」


 ペンを常に持ち歩いているわけでは無く、単純に少し前に使ったから持っていただけなのだ。

 テミルはペンを受け取ると、近くにあったナプキンにディアンから聞いた文字を書き留める。


 と、ディアンが言った。


「僕は元から、フリオを倒せたとしたら町を出て行く気でいたんだよ。だからテミルにお別れとしてプレゼントを残してたんだ。あの金庫なら無事だろうから中身も多分、無事なはずだ」

「……」

「フリオも、良かったらいくつか持っていって良いよ。迷惑をかけたお詫びだと思ってくれればいい。……それだけで謝り切れるものでは無いけどね」

「大丈夫だとも!問題があるのは僕のスキルだしね!」

「いや、まぁ……うん、そうだね。これからも仲良くしてくれると嬉しいよ」


 もちろんだとも。ディアンに言われなくても僕はここに通い詰めるつもりでいたし、ディアンからお許しが出たとなれば……


「何時くらいに来ればいいかな?」

「もしかして毎日来ようとしてる?」

「そうだよ?」

「あー……衛兵の人にも迷惑が掛かるからさ、週一ぐらいで……」

 

 なるほど、後でそこは交渉しておこう。

 家族なのだから、できればもっと顔を合わせたいところではあるしね。


***


「それじゃあ皆さん、今日はほんとうに、ありがとうございました!」


 お別れ会も終わろうかというところでテミルが前に出て挨拶をする。

 僕はディアンの牢にもたれかかりながら言葉を交わす。


「ディアン、他にテミルに伝えなきゃいけないことは無いかい?テミル、行っちゃうよ?」

「……ま、大丈夫だと思う。金庫の中には手紙も入れてたからさ。それにテミルはあんなんだけど生き抜くことにかけては強い子だから安心していられるよ」

「……そうだね」


 ディアンが敬語を使っていないのは、久しぶりに本心で喋っているということだろう。

 そう解釈して僕はディアンに笑いかけた。


「本当に、僕はディアンと家族で良かったと思うよ。僕はこの町に居るからいつでも会いに来るしさ、何か困ってることがあったら言って欲しいんだ」

「……そうだね。強いて言うなら自分の家族に危機感が無さすぎて困ってるかな」

「あぁ、サミエラの事?」

「いや、そっちじゃ……そっちもあるけどさ……」


 そういえばサミエラは僕らと話してなかった気もするけど……


「サミエラ、途中でお別れ会を抜け出してたみたいだね。どうしたんだろう?」

「……さぁね。まぁあの人も忙しいだろうからしょうがないさ」


 それはそうなのだけれど……


 と、テミルがこちらに手を振っているのが見えた。

 僕がそれに振り返すと、ディアンも渋々僕に倣った。


 少し前まで、こんな風にディアンと話せるとは思っていなかった。

 それがこんな風に、テミルも、僕も、ディアンも。再び三人で話せている。


 ……まぁ一人は牢屋の中、一人はもう旅に出てしまうという状況ではあるけれど、前よりもずっと良い状況なのは確かだ。


「ねぇフリオ」


 ふと、ディアンが僕だけに聞こえるように言った。


「……どうしたんだい?」

「変わったよね。僕も、君も。テミルだって、昔とは全く変わったよ」

「……そうだね」


 変わった。そうだ、変わったんだ。

 

「でもきっと、悪い変化じゃないよ」


 僕がそう答えると、ディアンはため息をついて僕を追い払うように手を振った。


「こんなとこに居ないでテミルを見送ってやってくれるかな?もちろん僕の分までね」

「あぁ、任せておいてよ!ついでに帰り際にはケーキも取ってこようか?」

「いや、それは遠慮しとくよ」


 ディアンが少しだけ微笑んだところに笑顔で返してその場を離れ、僕はテミルの方へ駆け寄るのだった。

久々なせいで距離感が分からず敬語とタメ語がぐちゃぐちゃなディアン、それを察して見守るフリオ、何も考えていないテミルの三人の話です。

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