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腹、宴会八分目

 お別れ会とはなんだったのか。

 そんな感想を抱くほど、テミルがやって来てからの会場は混沌を極めていた。


「エテルノさん!こっちのお肉が美味しいですよ!食べてみてください!」

「何の肉だ?」

「ゴブリンです!」

「あー……ミニモ、口開けろ」

「あ、はい……んぎゅむ?!」


 ミニモが差し出してきた肉だったが、ゴブリンの肉だと聞いてミニモの口に押し込んでおく。

 確かに美味しそうではあるのだが、正直まだゴブリン肉を食べるのは不安である。


 そんなミニモの手にはバッタを刺した焼き串と二つに割かれたゴブリン肉。

 あと大ジョッキに並々注がれた酒。

 こいつ、既に相当飲んでるな。

 そっとミニモを迂回してこの場を逃げ出そうと試みるが--


「エテルノさん!今度はあっちのお肉を食べましょう!」

「ぐっ……!」


 いつものように手首を掴まれて身動きを封じられる。

 なんなんだこいつの馬鹿力は。治癒魔法の応用などと言ったってさすがに限度があるぞ。


「エテルノさんエテルノさん」

「あぁうるせぇ!行けばいいんだろうが行けば!」


 ミニモに手を引かれて次の料理へと向かう。次の料理は--


「あぁああああ乱暴に千切らないでくださいっす!綺麗に切ってくれれば次の葉っぱが生えるのも早くなるんすから!」

「あ、そうなんだ。それはごめんねドーラ」

「私氷の剣出せるわよ?」

「お、使わせてもらうよ。ありがとうグリス

「剣で斬らないでもらえるっすか?!」


 自身の頭の上に生えた葉を守るように頭を抱え込んでいるのはドーラ。

 そしてそんなドーラの葉を切り落とそうと氷の剣を構えているフリオ、応援するグリスティア。

 うーむ、酷い絵面になっているな。


「おいフリオ。ドーラを怖がらせるなんてお前らしくも無い……どうしたんだ?」

「あぁエテルノか。いや、マンドラゴラケーキはドーラの葉っぱを添えて食べるように言われたから葉っぱを一枚貰おうと思ったんだけど……」

「そんな剣で斬られたら葉っぱどころか命まで持ってかれるっすよ?!」

「お前さては少し酔ってるだろ」


 フリオは酔っているとき、若干だが行動的になる傾向がある。

 慣れてきた今だからこそ分かる些細な点だが、おそらくフリオも酒が回って--


 ふと見ると、ミニモが素手でドーラの葉をむしっていた。


「ぐはあぁああああ?!何やってるんすかミニモさん?!」

「あぁ、いえ、エテルノさんにも食べてもらおうかと思ったので……」

「だからって素手で行くっすかね普通?!」

「大丈夫ですよー。ほら、治癒魔法掛ければまた生え変わりますしー」


 ミニモが魔法を使うと、葉の断面からわさわさと葉が伸び始める。

 うーん、はた目から見ると凄い光景だな。


 葉が伸び、蕾ができ、そして--


「花が出来たな」

「……出来たね」

 

 赤い花を咲かせた。

 ……なるほど?どういうことだ?


「……どうやらミニモの治癒魔法には植物の成長を促進する効果もあるみたいね」

「グリスティア、お前そんな口調だったか?」


 グリスティアも酔いが回っているようだな。


「エテルノさん、ちょっといいですかね……」

「ん、なんだ?」


 グリスティアやらフリオやらがドーラと戯れているのを遠巻きに眺めているとリリスから声を掛けられる。

 なにやら複雑な顔をしているが……どうしたんだ?


「あの、私達お酒が飲めないのであれなんですけど、お酒ってあんな風になっちゃうものなんですか……?」

 

 あぁ、そういえばリリスとフィリミルは未成年だったか。

 おい大人組。子供に悪影響が出るだろ。過度な飲酒は控えろ。


「……と、まぁあいつらもあれで気を付けてる方だぞ。ミニモに至っては本気で酒を飲まれるとあれの比じゃない」

「んー……まぁミニモさんは今の状態もそんなに普段と変わってませんもんね」

「あぁ、俺もそう思うわ」


 ミニモは普段からあんなんだからな。リリスの言っていることには完全に同意する。


「あ、あと出来ればで良いんですけど……」

「ん、なんだ?」


 いくつか料理を乗せたトレーを持ってくる。

 リリスの視線の先は--


「あぁ、そういうことか。これをディアンに渡してくればいいんだな?」

「あ、そうです。さっきからテミルさんとお話してるみたいだったので割り込みにくくて……」

「ふむ、そういうことなら僕が行ってくるよ。僕たち三人で話せるのもこれで最後だしさ」

 

 俺達の会話を聞いていたのか、割り込むようにしてトレーを受け取るフリオ。

 グリスティアも察したのか、今は少しだけフリオから離れている。


「……そうしてくれると助かるな」

「え、あ、ちょっとエテルノさん、良いんですか?ディアンさんってフリオさんのことを恨んでたんじゃ……」

 

 大分ぼかした言い方をしているが、フリオを殺そうとすらしてたわけだからな。

 不安な気持ちも分かるが--


「大丈夫だ。俺が作った牢を信じろ」

「ディアンさんを信じろ、とかでは無いんですね……」


 ディアンも信じろ。

 まぁそれは置いといて、フリオ、テミル、ディアンの三人が揃うわけだが……


「サミエラはどこ行ったんだ?」

「さぁ……」


 サミエラもせっかくなのだから行けばいいだろうに。

 仕方ない、探しておいてやるか。


「じゃ、行ってくるよ」

「おう。……頑張れよ。三人で揃うのはもうしばらく無いんだからな」

「もちろんだとも。エテルノも、ミニモが待ってたから早く行ってあげなよ?」

「馬鹿言え。あいつは少し待たせとかないと調子に乗るんだよ」


 フリオが軽く手を振ってディアンの方へと向かっていくのを見送る。リリスは複雑そうな表情だが……ま、大丈夫だろう。フリオならきっと何とかするさ。

 そうして俺はミニモの方を振り返る。


「おいミニモ、他に美味そうな料理あったら教えてくれ。俺も酒を飲みたいからな」

「はい!もうぜひぜひ私に任せてください!まずはこのゴブリンのお肉に焼いたバッタとムカデを--」

「ちゃんとした料理で頼む」

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