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お別れ会当日

「いやぁ、凄いの作りましたねぇエテルノさん」

「おう。頑張ったからな」


 色とりどりの飾り付けられた部屋、ゴミ一つない床、窓にはめ込まれたのはピカピカに磨き上げられた鉄格子。

 ……うん、完璧なパーティー会場だな。


「でもやっぱり、部屋の隅っこにある牢屋が見栄え悪いわよね」

「まぁな」

「なんで貴方達はこの状況に何も感じてないんですか」

「慣れてるからね」


 牢屋の中にいるディアンから鋭いツッコミが入る。


 そう、ここは俺が魔法によって造り上げた監獄の中。それも一番大きい部屋である。

 部屋の中にはサミエラやフリオ達が揃っている。

 ……と、アニキとグリスティアはまだ来ていないな。テミルもまだ到着していないようだ。

 飾り付けを張り切っていたのにどこに行ったんだか。


「いやぁ、しかし驚いたよ。まさか牢獄の部屋でお別れ会をすることになるとはね」

「あぁ。衛兵に交渉したらディアンを出してやるのは無理だと分かったからな。それであればここでお別れ会でもなんでもすればいい」


 先日の話だ。

 衛兵との交渉を終えた後、俺は衛兵たちを『じゃあディアンが逃げられないように監獄を新築するから離れていてくれ。危ないから遠目から見守ってるようにな』とかなんとか言って言いくるめ、ディアンを閉じ込めていた小屋の周囲に特大の魔法陣を描いた。

 その後はディアンと話してこの町には大きすぎるくらいの脱出不能の牢獄を建設、魔力を使い果たして気絶。


 ……と言った流れだな。もちろん衛兵もそんなに簡単に納得したわけでは無い。

 俺も色々と言いくるめたし、なんだかんだと手続きもあったのだがそれはここでは省略。

 彼らには最終的に、俺が町を救った英雄だということで納得してもらえた。


 ディアンを捕まえておく牢獄がぼろいのを気にしていながらも、復興に労力が割かれていてどうしようもないという状況だったからな。相手にとっても不利益の無い、良い取引だった。


 ちなみに次に起きた時俺はベッドの上で、その横にはミニモがいた。

 もう大分見慣れた展開だったためなんとも思うことは無かったが、ミニモに散々文句を言われたのは言うまでもない。


「……ほんと、どうかしてますよ」

「Sランク冒険者って大体そんなんだろうがよ」


 ディアンの言葉にそんなことを返したのはアニキ。なにやらカートを押しており、その上にはいくつも料理が載っている。

 そうか、居ないと思ったら料理を用意していたのか。料理はどれもが湯気を漂わせており、香辛料の良い匂いが鼻をくすぐった。


 と、アニキの後ろに居たシェピアが怪訝な目をする。


「何よ、私もSランクなんだけど?」

「いやお前を近くで見てるからこそ、こういう感想が……あ、ちょっと待って痛い痛い」


 アニキの首の背中に杖を突きつけつつシェピアがこちらに向かって微笑んだ。

 ……なんだろう、怖い。


「というかアニキ、お前『収納』のスキルあるんだから料理はわざわざそんな出し方しなくても良かったんじゃないか?」

「いや、こういうのは雰囲気が大事なんだよ。エテルノには分からない感性だろうけどな。こういうとこが気遣いのできる男としての違いだな」

「……よし、シェピア、やっちまえ」

「はいはーい」

「ちょ、ちょっと待てってごめんって!」


 流石の俺でも場の趣を重視する考え方は理解できる。

 いや、まぁ理解しているだけで俺自身は効率を重視してしまうのが悪いところではあるのだが、人の感情が分からない人間みたいに思われるのは癪だな。


「フリオさん、僕たちまで案内していただけて良かったんですか?」

「あぁ、構わないよ。リリスちゃんと一緒に、今日は楽しんで!」


 心配そうにフリオに聞いているのはフィリミルだ。リリスとドーラを引き連れての参加となる。

 リリスは部屋の隅に……む、いつもはリリスと一緒にいるであろうドーラの姿が見当たらないな。

 ……忘れがちだが、あいつも元はダンジョンマスターだ。目を離していては良くないかもしれない。


 そんなわけで俺は近くに居たフリオに声を掛ける。


「おいフリオ、ドーラは--」

「え、誰か私の名前を呼んだっすか?」


 思ったより近いところから声がして、俺はあたりを見渡す。

 ……やはりいないが……?


 と、そんな風にきょろきょろしている俺の様子を見て気づいたのかアニキが料理の蓋を取った。


「あぁ、ドーラならここだぞ?」

「……は?」


 綺麗に飾り付けられたサラダの上に、ドーラが鎮座していた。

 いや、サラダの上と言うと語弊があるな。サラダの上に小さめの玉座のような形の椅子があり、そこに足を組みながらドーラが座っていたのだ。


「エテルノさん、私がこのパーティーの主菜っすよ」

「主催はエテルノの野郎だけどな!」

「おぉ、分かってるっすねアニキさん!」


 がはは、と笑う二人。

 そういえばマンドラゴラは食用でもあるんだったな。

 ……まぁ、それは置いといて、だ。


「サラダは絶対食わないからな……」


 俺は固く決意したのだった。


***


 普通に考えてみると、異常な光景だった。

 マンドラゴラが料理の上で飛び跳ね、なぜか鉄格子は色とりどりに飾り付けられ、牢の格子を隔てた部屋では楽しそうに皆が談笑している。


 ……ここは牢獄なのに、何をやっているんだこいつらは。そんな風に僕が思うのもおかしくないことだと思う。


 というかフリオが普通に馴染んでいるのが怖い。

 彼、普通に常識的な人間だったと思うんだけど。

 僕がフリオと話していなかった数年でこんなにも変わってしまうのか。


 ……と、一人だけ困惑している僕の元に少年がやってくる。

 彼の名はフィリミル、だったかな。


「……ディアンさん、料理持ってきました。どうぞ」

「……お気遣い、ありがとうフィリミル君」


 何か言うことがあるわけでもない。それっきり黙っているとフィリミル君の方から口を開いた。


「あ、あの、ディアンさんには感謝してるんです。ほら、僕たちがほんとに駆け出しの時、一番気を掛けてくれたのはディアンさんじゃないですか」

「……」


 気にかけていたわけでは無いのだと思う。ただ、駆け出しの冒険者が死んでしまうのはギルドにとっても損失になる。

 だから最低限の範囲で自己管理の術だとか冒険者の心得だとかを教えたにすぎない。

 それをなんだかんだと感謝されるのはお門違いと言うものだ。


「まぁフリオさんと知り合ってからはあんまりお世話にならなくなりましたけど……」


 それも事実だ。フィリミル君がフリオと知り合ったと聞いてつい避けたくなってしまった。

 今にして思うとフリオになんであそこまで深い嫌悪感を抱けていたのか分からないけれど、実際町を滅ぼしてでも殺したいと思っていたのだから人間の憎悪と言うものは恐ろしい。


 ……バルドも、何かに気づいていれば変わったのだろうか。

 彼も行動こそ間違っていたものの『恋人』のために復讐をすると言っていた。彼は助からなかったと聞いたけれど、もし生きていたのならどうなっていたのか。


 ……ま、死刑になっていたかな。僕も死刑にはならないとはいえいつ牢を出られるか分からない身だし。

 そこまで考えて僕はため息をついた。

 ため息ついでにフィリミル君にも言っておく。


「フィリミル君、残念だけど君は間違ってるよ。僕は感謝されるようなことは何もしてない、ただの大犯罪者なんだ。罰を受けるべきなんだよ」

「罰なら現在進行形で受けてるじゃないですか」

「……いや、でも今テミルのお別れ会に参加してて」

「でも牢屋には入ってますよね?」


 ……まぁ確かに。


「牢屋に入ってる時点で罰は受けてるんですから、しっかり楽しんで、テミルさんともしっかり話すべきですよ!」

「……いや、テミルに僕のせいで迷惑をかける訳には……」


 そうだ。こんな犯罪者と関わっていては彼女の今後にも支障が出るかもしれない。だから--


「大丈夫ですって!僕の『先見』のスキルでも大丈夫だって分かります!」

「……いや、先見って自分の未来しか見通せないよね?」

「……バレましたか」


 頭を掻きながら言うフィリミル。

 そう、他人の未来を見通せるのはサミエラの持っているスキルの方だ。


 フィリミルは誤魔化すように言った。


「とにかく!ディアンさんも今日だけはしっかりテミルさんを送り出して--」


「お待たせました!皆さん!」


 騒々しい音を立てて、再び部屋の扉が開かれる。

 やってきたのは--


「--テミル」

「……噂をすればってやつなんですかね。じゃ、ディアンさん、頑張ってください」

「……」


 テミル。彼女がここまで遅れたのはいったいどういう訳で--


 ……?


 目を凝らすと、テミルが手になにやら大き目の袋を持って来ているのが見えた。


「皆さん!今日は私のためにわざわざこんなお別れ会を開いてくれてありがとうございます!お礼と言っては何ですが、私もたくさんご飯用意したので!」


 ここに居るのはテミルのことをそこそこ知っている面々だ。だから、テミルなら次に何をやらかすのか、皆に予想がついていた。

 ざわつきが、広がる。

 そんな皆の心境を知ってか知らずかテミルは袋からなにやら掴みだして皿の上に乗せる。


「バッタの甘漬けです!私のとっておきですけど、良かったらどうぞ!!」

「……あぁ、ぶち壊しだよほんとにもう……」


 鮮やかに盛り付けられた料理の中でテミルの皿だけがやけに黒く、異彩を放っている。

 彼女のことだからまだ生きているのを持ってこなかっただけマシだけども。


「……ふふ」


 そんなことを思ってしまい、つい笑みがこぼれる。


 しょうがない。今日だけは彼らの口車に乗ってあげようじゃないか。

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