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市中引き回し仲間と引き回され仲間

「うぉおぉお!離せミニモ……!」

「駄目ですよー。テミルちゃんがせっかく誘ってくれたのに無視だなんて、良くありませんからー」

「くっそ、ミニモのくせにやけに常識的な答え方……!」

「エテルノさんやっぱり私への認識おかしいですよね?」


 ミニモに砂利道を引きずられつつ俺は叫ぶ。

 恐ろしいことに俺はミニモに腕力で敵わない。

 一度捕まってしまえばこんな風に、もう手遅れなのである。


 ちなみにミニモへの認識についてだが、俺は何も間違っていないと断言できる。

 とりあえず日常生活を送る中で一番警戒しなくてはならないのがミニモだし一番何か重大なことがあった時に助けてくれそうなのがミニモである。

 相反するというか、信頼と不信感の両端を猛ダッシュで往復しているのがミニモだというのが俺の中での印象である。


「お、〈おんぶにだっこ〉が今日は引きずられてるぞ」

「ほんとだ。痛そうだな……」


 ミニモに引きずられていく俺の姿を目にした町の人間がそんなことを言っているのが聞こえてきた。だからその呼び方やめろと。


 しかし、そうだな。確かにはたから見ると俺が市中引き回しの刑にでもされているかのように映るかもしれない。

 襟首の後ろをミニモに掴まれ、体全体を地面に引きずられながら俺たちは移動しているからだ。

 さすがに汚れるのは嫌だということもあり結界を張っているおかげで、実際は痛みなんて無いのだが……確かに周りから見れば酷いものだ。


「しっかしイギルめ。異名が改善できてないじゃないか……」

「ですねぇ。あ、でも冒険者の皆さんの間だと若干改善されてますよね」

「あぁ、さっきのは町の人間だったからほぼほぼ改善されてなかったのか」


 となると、町の住民にも異名を改めるように伝えないといけないか?


「じゃあじゃあ、新しい呼び名とかも名札にして首にかけてこのまま町を巡るのはどうですか?」

「それホントにただの処刑にしか見えなくなるからやめろ」


 罪人の首に名札を掛けて町を引き回すのはほんとに処刑方法のそれだ。やめろ。

 と、ミニモが名札を取り出しているのが見えた。


「どっから出したそれ」

「え、バッグからですよ」


 いや、そう言うことじゃなくてだな。


「……もう分かった。もうちゃんと自分で歩くからやめてくれ」

「そうですか?残念ですね……こういう時もあろうかとちゃんと用意してたのに……」


 何を想定してたんだこいつは。

 そんなわけで、渋々俺は復興の進む町の中心へ向けて歩き出した。


 横を見ると、俺とは真逆のような陽気さで鼻歌を歌いながら歩くミニモ。

 今日これから行くのはテミルの所属する劇団の演劇鑑賞。町の中心での特別講演である。


***


「あら、ミニモも来たわね」

「シェピアさん!お久しぶりです!」


 今回の舞台に使うために急遽建てられたであろう木製の舞台の前、階段状に組み立てられた観客席までたどり着くとシェピアも丁度やってくるところだった。

 シェピアとミニモが話している隙に俺は周囲を見渡す。


 席は最前列、劇が一番良く見える位置だ。


「おぉ、良い席だな」

「テミルちゃんが取っておいてくれたらしいんですよね。やっぱり、最前列なら応援も頑張らなきゃいけないです……!」

「鑑賞中に応援なんてしたら迷惑だろうよ」

「え、じゃあ途中で花束とか投げたりしたら駄目なんです?」

「お前演劇を闘技場か何かと勘違いしてない?」


 闘技場に観戦しに来たのなら勝者に花束を投げたりとか、そういうことなら分かるんだけどな。

 俺が細かに説明してやるとミニモは残念そうにぼそっと呟いた。


「せっかくムカデの素揚げも用意したんですけどね……」

「何投げ込もうとしてんだお前は」


 テミルなら喜ぶだろうが、間違いなく騒ぎになるな。出禁にされたくないのならやめておくことだ。


「え、エテルノ……助けてくれ……」

「……ところでミニモ、」

「無視しないで?!」

「あぁ、いや、触れちゃいけないのかと思って」


 俺は「それ」から目を逸らしつつ答える。

 しかしミニモはそんなことはしなかった。


「あれ、アニキさんそんなとこで何してるんです?」

「今まで気づかなかったの?!嘘だろ?!」

「いや、ミニモはそういう奴だろ」

「確かに……いや、こんなことで納得したくねぇけど?!」


 騒がしい奴だ。

 俺も見下ろす形でアニキと視線を合わせた。


 アニキだが、襟首の後ろをシェピアに掴まれる形で体全体を地面に引きずられていた。

 首には名札がかけられており、アニキの経営する店の名がでかでかと刻まれている。


「で、アニキはまた何かやらかしたのか?」

「前に何かやった前提で話さないでくれる?!」

「あぁ、なんか二枚もチケットを持って来たくせに友達と行けとか、ふざけたことを言うから引きずってきたのよ」

「シェピアも普通に説明しないでくれる?!」

「エテルノさん、ムカデ美味しいですよ」

「そっちは一人で何やってんの?!」


 引きずられつつもアニキがツッコミを入れまくっているが、この場に居る皆はそんなことを気にする様子は無い。慣れているからな。


 シェピアに話を聞いたところによると、アニキがシェピアと一緒にこの劇を見に来るのを嫌がったのだという。

 なので、無理やり引きずって来たと。なるほど。


 なるほど?

 ……納得したら負けな気もするが。


 あとムカデは食わない。こっちに差し出すなミニモ。


「じゃあその名札はなんだ?」

「あぁ、これね。せっかく市中引き回しにするんだったらお店の宣伝もしようかと思って」

「商魂たくましいな」

「いや、ツッコむところそこじゃ無くね?」


 そんなこと言われてもな。ツッコむところが多すぎて全てに対応するのは難しいのだ。

 

 という訳で、話題をすり替えよう。

 俺はアニキに言った。


「おいアニキ。お前、そんなんで恥ずかしくないのか?」

「エテルノさんがそれ言いますか」

「引きずってた張本人がなんか言ってる」


 そんなこんなで俺達の言い合いは、すぐ近くの席までフリオとグリスティアがやってくるまで続いたのだった。


 ちなみにフリオはグリスティアに引きずられたりはしていなかったようだ。

うーむ、残念。

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