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ギルド長イギル(人間?)

「えぇー、本日は駆け出し冒険者講習会にお集まりいただきましてありがとうござい--」


 ギルド跡地、一階部分だけは建造が終わった広場に即席の演説台が立っていた。

 その中心には小太りの男。

 ギルド長ことイギル。彼はディアンが捕まってからと言うもの一人で仕事をこなしていた。


「しかし鮮やかなもんだな。体格から見た目まで一切別人に見えるぞ」

「イギルさんはそこが凄いんだよね。もしドラゴンが来た時にイギルさんがいたなら、このギルドの場所をドラゴンが見つけるようなことも無かったはずだよ」


 猫人族、ギルド長のイギル。フリオに聞いたところによると彼が専門にしているのは魔法の中でも極めて難しいとされる幻術の類だ。

 有り体に言えば幻を見せるための魔法だな。


「亜人だって分かると舐めてかかる冒険者もいるみたいでね。それであくまで人間を装ってるらしいよ」

「あぁ、やっぱりいるんだなそう言う奴」


 過去俺を追放したパーティーの中でも人族至上主義というか、亜人全体を馬鹿にしている奴はいた。

 人族は他の種族と比べて数が多いからな。どうにも種族に関する偏見はぬぐい切れていないところがある。


「でも実際、猫人族って言うのも本人が言ってるだけなのよね。本当はどんな人なのか、誰も知らないって言う噂よ」

「そこまで徹底してるのか。……そう言えばなんだが、どうせ偽るならもっと強そうなギルマスを装ったほうが良かったんじゃないか?」


 イギルの今の姿は小太りのおじさん、と言った感じだ。とてもじゃないがあのモフモフの猫人族だとは思えない。


 そして、そんな姿なのであれば当然、彼に絡みに行く冒険者も出るはずなのだ。

 ギルドのトップが冴えない中年だなんて、と。


「それについては大丈夫だよ。……っと、ちょうどいいね、見ててごらんよエテルノ」

「……?」


 イギルに目を向ける。と、ちょうど壇上に見知らぬ冒険者が昇って行くところだった。


 唇にピアスを開け、「いかにも」と言った風貌の見知らぬ冒険者の男は言う。


「おいおい、冗談だろ?!急に集められたからなんだと思ったら、こんなおっさんがギルマスだと?!影武者かなんかじゃねぇのか?!」


 ざわめきが若い冒険者達の間に広がっていく。だが、その話し声の内容はほとんどが、イギルに喧嘩を売った冒険者の男に同意する声だった。

 確かに影武者なのかもしれない。それならあの風貌にも納得できる、などなど。どうやら皆考えていたことは同じだったようだな。


 だが、そんなざわめきを否定するように真っ向からイギルは言い切った。


「本物に決まってるじゃないか。影武者なんて使わなくても僕は僕の身を守れるとも」

「あぁ?」


 イギルの言葉で更にざわめきが広がる。

 ギルド長と見知らぬ男。この二人を比べれば見るからにイギルが劣勢なのは目に見えている。

 男は恵まれた体格に軽装、腰に掛けているのは……珍しい武器だな。剣の一種のようではあるが、大きく弧を描いた刃が特徴的だ。

 対してイギルは、冒険者達に説明をするための書類一枚とパツパツのギルドの制服。

 俺はイギルが本当は猫人族だと知っているから良いが、それを知らない冒険者からすれば頼りない相手にしか見えないだろう。


 それを分かっているであろうイギルが、更に挑発するように言う。


「あぁ、せっかくだから僕と模擬戦をしてみるかい?そう長い時間もかからないだろうし、君一人の相手だけなら構わないよ」


 瞬間、ギルドが静まり返ったのちに大爆笑が巻き起こる。

 そんな中、男は言った。


「模擬戦?!てめぇがか?!そもそも戦えすらしねぇだろうに良く言うぜ!」

「んー、そこまで言うんなら戦わなくても構わないけど、せっかくだしやってみないかい?僕はA級冒険者だから……もし君が勝てたら、君はS級冒険者に昇格ってことで良いよ?」


 今まで馬鹿にしていた周囲がこの言葉に、凍り付いた。

 先ほどまで威勢よく喧嘩を売っていた男も、これには思わず動きを止めてしまっているようだ。


「……あ?マジで言ってんのか?S級スタートだと?」

「うん、まぁ僕に勝つにはそのぐらいの実力が必要だからね。ここまで言っても、やらないかい?」

「……」


 駆け出し冒険者達の間にも、先ほどのざわめきとは打って変わってひそひそ声がこだまする。

 あのギルド長は本気で言っているのか?と。

 そんな雰囲気だ。


「……良いぜ、受けてやるよ。お前の武器は?」


 冒険者の男が言い、イギルが笑って手を振った。


「いやいや、何も持たなくて十分。どうにでもなるとも。あ、じゃあこれ持っといて」

「あぁ……?」


 イギルが男に手渡したのは--俺とグリスティア特製のブレスレットだ。


「それを付けてれば一度だけ攻撃が無効になる。いつでもかかっておいで」

「……そうかよッ!!」


 男が剣を構え、立合い特有の緊張が広がる。

 そんな中で俺は頭を抱えていた。


「あの野郎、貴重なブレスレットを無駄にしやがって……」

「いやいやエテルノ、これであのブレスレットの効果を実演しようって言う魂胆じゃないかな?」

「……あぁ、ありえるなそれ」


 イギル、やはり狡いな。あの男を焚きつけたのはそのためか。

 汚い大人……いや、猫か?


 さて、正直に言うと、男の筋は悪くないと思った。

 曲がった刀身も相まって間合いが掴みにくい。そして踏み込み方も駆け出し冒険者とは思えないほどの筋の良さだ。いっぱしの冒険者なら彼の刃で倒されていたかもしれない。


 だが、相手が悪かった。 


「はい、おしまい」

「なんっ……?!」


 先ほどまで男の剣が首元に迫っていたイギルが、気づけば男の首元に刃を突きつけている。

 真っ二つに割れたブレスレットが音を立てて床に落ちた。


「あいつ本気で攻撃してやがったな……?」

「やっぱりイギルさん容赦ないわね……」


 ブレスレットは装着主に生命の危機があった場合どんなものより優先して守るようになっている。

 ただしそれには全魔力を注ぐため、一度生命の危機を肩代わりすると壊れてしまうのだ。


 そんなブレスレットが壊れたと言うことはイギルは、普段であればあの男を殺しかねない一撃を振るったということになる。


「剣なんて無くても魔法で作れるし、体つきなんて冒険者には関係ない。ぬかっちゃだめだよ、新人君。このブレスレットが無ければ君、死んでたんだから」

「は、はひ……」


 男が膝から崩れ落ち、駆け出し冒険者達の間で歓声が巻き起こった。


「じゃ、みんな、皆には今日このブレスレットを配ろうと思うから存分に役立てておくれ!」


 大歓声。

 なるほど。イギルは中々冒険者の扱いが上手いな。

 ブレスレットの効果を実演しつつ、自分が舐められないようにしたわけだ。


「と、その前に、少し良いかな?」


 イギルの言葉に、皆が静まり返る。 

 先ほどまでとは打って変わって、この静まりは皆がイギルのことを認めた証だ。


「僕はさっき、Sランクでもなきゃ僕は倒せない~なんて言ったんだけど、Sランクと本当に戦ったらどうなるか気にならない?」


 嫌な予感がして帰ろうとしたところを、ミニモに抑えられた。


「--エテルノ・バルヘント!町を救った英雄と旅から帰ったギルドマスターの模擬戦だ!出てきておくれ!」


 ……そんなことある?埃っぽいギルドの床をミニモに引きずられながら俺はぼやくのだった。

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