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この先の暗がりを見据えて

「エテルノ、そっちの塩取ってくれる?」

「あぁ、良いぞ」


 宿で夕食を食べていたある日のことだ。

 テーブルの反対、フリオの隣で食べていたグリスティアに塩を要求されたので渡してやる。


 そんな俺達の姿を見てフリオが言った。


「あのさ二人とも……それ凄い気になるんだけど……」

「気にしないでくれ」

「そうよフリオ」

「大分無茶を言うね?」


 フリオが注視しているのはグリスティアの手元。

 そこからはポコポコ、ポコポコと言う擬音が正しいのかどうかは分からないがとにかく、大量のブレスレットに魔法陣が刻まれていっていた。


 対して俺は、ブレスレットの原材料をグリスティアに渡す係。

 俺がグリスティアに鉄片を渡し、グリスティアが魔法陣を刻んだブレスレットにして箱に詰める。

 この作業に慣れてきたおかげもあってか相当早いペースで作れるようになっていた。


「とはいえ量は必要だからな。さくさく量産していくぞ」

「ご、ご飯中もかい?」

「そのぐらいのペースでやらないと間に合わないからな」


 ギルドの駆け出し冒険者達に配るにはまだ圧倒的に数が足りないのだ。

 時間を惜しんでどんどん生産しなくては。


「寝てる最中も生産できればいいんだけどねぇ」

「グリスティアまでなんだか怖いこと言いだしたね?」

「このままのペースだと足りないからな。量産できる方法を探す必要があるかもしれない」

「かといって下手な魔術師を使ってもクオリティが下がっちゃうものね……」


 それはそうなのだが、このままだと俺達にかかる負担が大きすぎる。

 どうするか……。


「あ、じゃあ僕もやってみて良いかな?」


 フリオが提案をする。とはいえ、出来るのだろうか?


「やるだけやってみようかなって思ったんだよ。一応僕の知り合いにもあたってみるから、どんな感じの難易度なのかなって」

「じゃあミニモ、少し俺と代わってくれ」

「いいですよー」


 グリスティアに鉄片を渡す役割を交代し、フリオにブレスレットを渡してみる。

 そういえばフリオが魔法を使ったところはほとんど見たことが無いが……


「一応僕も普通の冒険者に並べる程度には魔法を使えるんだよ。基本グリスティアにやってもらえるからあれだったんだけどね」

「ほう」


 であればお手並み拝見と行こうじゃないか。


 と、フリオがスキルを使って人影を呼び出した。


「じゃ、お願いするね」

「ちょっと待てお前それ反則」

「スキルを使えば何とかなるからね」


 それはフリオの実力では無いのでは?


「いや、というかお前スキル使うのに抵抗があるとか言ってなかったか?」


 なんでもフリオはスキルを使う度に体調を崩すらしく、それもあってかスキルの使用に抵抗があったらしいのだが……


「あ、それ普通に心因性のものだから。こないだトラウマ克服したしもう大丈夫だよ」

「なんだそれ聞いてないぞ」


 スキル関係で昔なにやらあったらしいのは察していたが、スキルを使うと体調を崩すレベルでトラウマになっていたのか?


「あ、ちなみにこの人イゲスさん。村で魔法が一番うまかった人だよ」

「イゲスさん……?」

「うん。多分イゲスさんだと思うよ」

「いや、そんなこと言われても知らないが」


 フリオが人影を指さしているが、そんなこと言われても分からない。


 とはいえもうスキルを使っても体調を崩さなくなったのは良いことだな。


「じゃあ今後はそのスキルも積極的に使っていくのか?」

「いや、それは止めておこうかと思ってるよ。皆の力を借りるのはあくまで本当に困った時だけ。それ以外は僕の力で頑張るさ」

「そうか。……まぁそれも良いだろうしな。お前に任せるさ」


 そんなことを言っているフリオは良い顔をしていた。

 普段よりも、さらに柔らかい笑顔。まるで子供のような--


「あ、そういえばなんでそんなに心変わりしたんだ?何も差し支えなければ聞きたいところではあるんだが……」

「あぁ、そうだね。せっかくだから話す?僕の過去も含めて皆には共有しておかないとね。グリスティアは大丈夫かい?」

「ブレスレットを作りながら聞くから大丈夫よ。私も割と知りたいしね」

「ん、じゃあ話そうか。こないだ僕とディアンと一緒になった時のことも含めてね」


***


「……テミル、こんなところまでどうしたんです?風邪ひきますよ」

「あ、だ、大丈夫だよディアン君。私の体は結構丈夫だから」


 うっすらとしか光の入らない石造りの牢。

 今後どうしていくべきか、なんてものを一人で考えているとふとノックがして、鉄格子の向こうにある木製の扉が軋む音を立てて開かれた。


 光に目がなれていなかったせいだろう。眼球を焼かれるような感覚は目をつむってやり過ごす。


 目を慣らしたうえで瞼を開いたとき、牢の向こう側に居たのはテミルだった。


「……この前も来たばっかりでしょう。貴方はせっかくこの町に戻って来てるんですから、もっとみんなで遊んだらどうなんです?」

「だ、大丈夫だよ。私もたくさん遊んでるから!この前もマンドラゴラのケーキを食べてたらブレスレットが爆発したりしてね!野草を食べに行こうって言ったら断られちゃったんだ!」

「絶望的に何言ってるのか分からないんですけどこれはこちらの理解力が足りないんですかねぇ」


 まぁ喋っているテミルは楽しそうだし、良いのだろう。


「こんな犯罪者のところに来るよりも友達と遊んでた方が良いんじゃないです?愛想をつかされますよ」

「そんな子いないよ。大丈夫。それに、わ、私も家族を見捨てるのは嫌なんだ」

「家族、ですか」


 テミルに家族はいない。彼女は元々孤児だったのを村で引き取ったのだ。

 いるとしても、せいぜいがサミエラやらフリオぐらいの物だろう。


 気まずい沈黙が流れた後に、テミルから口を開いた。


「あ、あのね、すぐじゃなくても良いからフリオと仲直りしてほしいんだ」

「……そうですね、考えておきます」


 そんなことだろうと思っていたが、やはりそうだったか。とため息がこぼれる。

 フリオ。Sランク冒険者。父の仇。……でも実は、誰よりも弱い一人の青年。


「彼については謝罪は、もう済ませました。大丈夫ですよ」

「ほ、ほんと?!」

「……はい。あぁ、そうだテミル」

「な、何でございましょう?!」


 声を掛けると、先ほどまで嬉しそうにしていたテミルは飛び跳ねてこちらを向き直った。

 そんな彼女に、こう声を掛けるのだ。 


「もし、既に死んだはずの人に会ったと言ったら信じますか?」

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