ドーラ(野菜ジュース予定)
「エテルノ、分かってもらえたかしら……?」
「あぁ、まぁ……」
グリスティアを見つけてから数分、俺はドーラに必死で呼び止められた末に店内へと戻らされていた。
その説得の甲斐もあって、誤解は解けたのだが--
「だとしてもお前ら、紛らわしすぎないか?」
「それはすいません……」
「ドーラも自分をそんなに簡単に食わせるんじゃない」
「分かったっすよ……」
店内に入ってきてすぐのところで知り合いが知り合いを食ってたらそりゃビビるだろう。誤解で良かったわ。
いや、食べてたのは誤解でも何でもないんだが、合意の上だったからということで。
……ん?俺の認識何も間違ってないな?
「あ、そ、そんなことよりエテルノは何しに来たの?!」
「お、おう。落ち着け」
話題を変えようと焦っているのか知らないが、グリスティアがいつもよりワタワタしている。
とりあえずそんなグリスティアを押しとどめて俺はブレスレットを取り出した。
「これなんだが、完成したからグリスティアに見てもらおうと思ってな」
「え、もう完成したの?!」
「まぁ……」
休日を全部潰したからな。やはり大変と言えば大変だったが、材料は事前に集めていたのが良かった。
失敗作を相当出したために最後の方は材料がギリギリだったのだ。
グリスティアがすぐにブレスレットを調べ始めて、感嘆の声を漏らした。
そこまでの反応をしてくれるとは。製作者冥利に尽きるというものだ。
「ちなみに魔法は何を組み込んで……って、うわ、凄いわねコレ」
「一応最低限にしたつもりではあるんだが魔法の種類をこれ以上減らすとなると抵抗があってな……」
組み込んだのは簡単な防御魔法、ミニモに協力してもらって魔法陣にした治癒魔法、火炎耐性、一回限りの攻撃の肩代わりなどなど防御に特化したものばかり。
今回は俺の魔力を使って作ってあるためそれほど強固な作りにはなっていないのだが、グリスティアがこれを複製するのであればそこそこの強度には出来るだろうというのが俺の考えであった。
「で、どうだ?複製できそうか?」
「出来なくは無いけど……これを量産かぁ……大変そうね……」
「まぁな……。ただしっかりやらないと備えにならないという……」
残念ながらこういうことが出来るのはグリスティアぐらいなのだ。俺では魔力の質が悪すぎる。
シェピアも良いのではないかと考えたのだが、あいつは魔力の扱いががさつだからな。まぁ無理だろう。
「すまん頼めるか?」
「ま、分かったわ。これで誰かが怪我するのを防げるなら安い物よね」
「あぁ。ギルドからの依頼でもあるからな。高値で売り付ければいいさ」
そう。このブレスレット作成を依頼したのはギルドでもある。
増えている魔獣の危険をフリオが提言、ギルドが解決策の模索を指示したことで俺が作ったのがこのブレスレットだったという訳だ。
「エテルノさん、私も使ってみたいっすそれ」
「ん?まぁ別に構わないが……」
ドーラが、そのブレスレットをこっちに寄こせ、とでも言いたげに手を出したので渡してやる。
と--
「んー、魔法陣は良いんすけど多次元魔法展開がまだまだっすねぇ。……っと、こっちの方が良いんじゃないっすか?」
ドーラが手をかざしたところから魔法陣が少しだけ書き換わっていき、ブレスレットがより輝きを放つようになる。
ドーラが魔法陣を書き換え、効率化したのだ。はたから見ていても感心するほど鮮やかな手並みだった。
そう言えばドーラは元ダンジョンマスターなのだった。それならこの手並みも納得できるというものなのだが--
「え、あ、え?!ドーラちゃん魔法なんて出来たの?!凄い良い感じになってるじゃない?!」
「ふっふっふ、私はただのマンドラゴラじゃないと言ったっすよ……!」
やはり他の皆は驚くよな。
……と思ったのだが割と驚いているのはグリスティアだけかもしれない。
リリスが冷静に言う。
「まぁ喋れてる時点で普通のマンドラゴラではないですよね」
「あと美味しさも並み以上かと!」
「皆私に対して冷たくないっすか?」
まぁドーラに対しての対応はこれが普通、みたいなところもあるのでしょうがないのではないだろうか。
と、ドーラに言い忘れていたことをふと思い出した。
「ドーラ、ブレスレットの魔法陣を効率化してくれたのはありがたいんだが一つ言わなきゃいけないことがあってな」
「ん、なんっすか?お礼なら受け付けるっすよ?年中無休24時間営業で受付まくりっす」
「そのブレスレットだが、俺の魔力だけで作ったせいで少しばかり脆いんだ。例えば--」
--そう、俺の物以外の魔力が流し込まれると魔法が暴発するレベルには。
「ううぇあァっス?!」
「おぉ、すげえ声立てて吹っ飛んでったな」
予想通りブレスレットは暴発し、ドーラの顔面に魔法を当てて吹き飛ばしたのだった。
たーまやー。
***
「うう……酷い目にあったっすよ……。焼きマンドラゴラになったらどう責任を取ってくれるんすか……」
「焼いてみるとさらにおいしそうになるかもしれないよな」
「全然反省してないっすねぇ?!」
そりゃそうだ。勝手にブレスレットを弄ってたのはドーラだからな。
既に先ほどの魔法で若干焦げ目のついたドーラからは美味しそうな匂いが漂って来ていた。
ドーラは泣きまねをしながら言う。
「ほんとに皆、酷すぎるんすよ……。私だって前は強大そのものと言っていいほどの実力者っすのに……」
「今マンドラゴラだもんな」
「植物が何か言ってますね」
「すりおろしてゼリーにしたいです」
「ちょ、さ、最後の言ったの誰っすかねぇ?!」
うん、おそらくテミルだな。教えてやらないけど。
「私たちは仲間なんじゃないっすか?!決して裏切らないと誓い合った仲じゃないんすか?!」
「お前とは別に仲間じゃないし誓っても無いな」
しいて言うなら、ドーラが元ダンジョンマスターであることを隠していることぐらいまでは仲間と言うか共犯と言えなくもないぐらいだ。
「私は決してエテルノさんを裏切らないんすけどねぇ!その程度の絆だったって事っすかねぇ?!」
「はいはい、悪かった悪かった」
「反省してくださいっすよ!」
「おーう」
なんとかドーラをなだめて一息つこうとした時だった。
俺の探知魔法に急速に近づいてくる反応が入る。
「っ?!やば、見つかった……!」
「ん?どうしたんすかエテルノさん?」
「悪い。何とか誤魔化してくれ……!」
ここからではもう逃げられない。ので、透明化魔法を使って姿だけ消しておく。
直後、店にミニモが入って来た。
「あれ、ミニモちゃんじゃない?どうしたの?」
グリスティアの質問に、ミニモは首を傾げた。
「あれ、グリスちゃん?エテルノさんを探してたんですけど……間違えましたかね?」
「さぁ……?ここには居ないと思うわよ?」
良いぞグリスティア。その調子でミニモを--
「エテルノさんはさっき透明になってたっすけどなんかあったんすか?」
ドーラの言葉に場が凍り付く。そんな中、ミニモの明るい言葉が響いた。
「あ、やっぱり!匂いがすると思ったんですよ!」
透明化しているにも関わらず俺の居場所を的確に当ててくるミニモを必死に避けつつ、俺は急いで店の出口へ--
「はい、捕まえましたよエテルノさん」
「っぐ……!」
見えないほどの速度でミニモに先回りされ、やはり捕まってしまう。
振りほどけないな、これ。
透明化を解いて、俺は笑顔で言った。
「……ドーラ、ちょっと良いか?」
「は、はい、なんすか?」
「お前、サラダと野菜ジュースどっちが好きだ?」
「……サ、サラダっす」
「じゃあ体洗って待っとけ」
「私の調理法の相談っすか?!」
ドーラ、許さない、絶対。
ドーラの方を睨みつけたまま俺はミニモに引きずられていくのだった。