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美味しいケーキを作る会

「マンドラゴラって美味しいんっすねぇ……」

「普通に食べてるわね」


 マンドラゴラケーキが運ばれてきて数分、ドーラはすっかりマンドラゴラケーキを食べるのに慣れ切っていた。

 この子、さっきまでマンドラゴラを食べるなとか言ってなかっただろうか。


「ドーラちゃん、マンドラゴラ食べていいの?」

「いや、よく考えてみたら私マンドラゴラじゃないんすよねぇ」

「え?」


 え、いや、どう見てもマンドラゴラだけれども……?

 と、私たちが困惑しているとドーラが急に焦った様子で言う。


「え、あ、いや、体はマンドラゴラっすけど心はマンドラゴラじゃないというかマンドラゴラの遥か上に存在する上位生物って言う気分でいる感じなんすけど……!」

「いや、植物同士だから共食いになっちゃうんじゃないんですか?」

「あー、確かに……。あ、でも人族も魔獣を食べてるっすよね?同じ動物なんだから共食いだ、って言われることがあるともちろんそんなこと無いわけっすし……」


 なるほど。……なるほど?


「でもまぁドーラちゃんが良いなら良いんじゃない?マンドラゴラが美味しいのは確かだしね」

「そうですねぇ。マンドラゴラは買うとお高いのでそうそう食べれないですけど、好き嫌いが無くなるのは良いことですし」

「あ、じゃあ今度野草でも食べに行きませ--」

「それは遠慮しとくわね」


 テミルちゃんの提案は食い気味で却下しておく。流石に野草は食べたくない。

 マンドラゴラならまだしも。


 私は咳ばらいをして場の空気を変えることにする。だってほら、マンドラゴラを食べる食べないの論争をやっててもしょうがないし。


「じゃあ試食させてもらいましたし、改善案とか出していきましょうか?」


 私達がお皿を置いたタイミングを見計らってリリスちゃんが言う。

 そうだ、そういえば何かそういう話になっていたんだった。


 お皿に残っているケーキはあと二切ほど。そろそろまとめていった方が良いのは確かだろう。


「んんー……じゃあ意見を皆で言っていきましょうか?テミルちゃんからどう?」

「そうですね……私はもう少し植物成分強めでも良かったんじゃないかなと思いますね。マンドラゴラをもう少し前面に押し出すと言いますか……」

「あー、確かに」


 言われてみると、甘味が強かったからかマンドラゴラの風味は少し薄かった気がする。

 なるほど。後でもう少し甘味を減らしたケーキも食べさせてもらおう。


「じゃあ次、リリスちゃん」

「そうですね……やっぱり色、ですかね。緑のケーキって少し面食らっちゃって……」


 リリスちゃんの指摘はもっともだ。深めの緑とかなら良いのだけれど、マンドラゴラの鮮やかな緑がケーキになってしまっているせいで食べるには少しだけ毒々しい。

 んー、でもこのままの方がインパクトがあって良いのかも……。難しい指摘だけど、伝えておこう。


「あ、次は私っすね」

「え、ドーラちゃんも言うの?」

「当たり前じゃないっすか!私はこんなんでも受けた恩は忘れないんすよ!」


 ふふん、と胸を張って言うドーラちゃん。テーブルの上でびし、とポーズを決めた瞬間ドーラちゃんの手が紅茶のティーカップに触れてこぼれた。


「熱ぅ?!」

「あーあー、ドーラったら……」


 こぼれた紅茶をふき取って、リリスがドーラをやんわりとたしなめる。

 対するドーラは未だに熱がっていたため私が水魔法で水をかけておく。


「ふへぇ……助かったっすよ……」

「どういたしまして。恩は忘れないんだったらいつか、この恩も返してくれる?」

「当たり前じゃないっすか!分割払いでお願いするっすよ!」


 冗談めかして言ったつもりだったが、ドーラちゃんは本気で受け取ってしまったらしい。

 いや、というか分割払いって。


「で、ドーラちゃんは何が必要だと思った?」

「そうっすねぇ……新鮮さっすかね。私としてはもっと新鮮な方が美味しいと思うっすよ」


 ドーラはおもむろに手を伸ばして、頭から伸びる葉っぱを一枚ちぎり取った。


「なんっ?!」

「んーやっぱ地産地消っすよねぇ」


 もぐもぐと自分の頭からちぎり取った葉っぱを頬張るドーラ。

 その顔はよほど美味しかったのかほころんでいる。


「うん、やっぱり収穫からすぐの方が三倍ぐらい美味しいっす。これだったら、この店でマンドラゴラを栽培してもいいかもしれないっすね。なんなら私が教えるっすよ。日の光の当て方から水の上げ方までお手の物っす」

「想像以上に具体的なアドバイスね……」

「やっぱり本人だからこそ分かる何かがあるんでしょうか……」


 ドーラも何気に頭は悪くないのだと思う。

 なんか基準が人とずれてる感じはあるけれど、おそらくそれはマンドラゴラだから、と言うだけだ。

 エテルノとかミニモとかもそうだけど、少し変わってる人って言うのはやっぱりどこか良いところがある。

 やっぱりこんな風な人、羨ましいな。


「あ、皆さんも食べます?美味しいっすよ?」

「え、良いの?」

「もちろんっすよ。あ、でも若葉は摘まないで貰えると助かるっす」


 そう言われたのでドーラの頭から各々一枚ずつ葉っぱを貰って、口に運んでみる。


 最初に来たのはほんのりと香る苦みと、爽やかな草の味。

 と、噛むうちに口の中で甘味が広がり思わず笑みがこぼれた。


「美味しいですね!この感じの方がケーキ人気出ますよ!」

「そうね!とりあえずドーラはアニキさんと会ってみたら?」

「あの男っすかぁ。ダンジョン以来っすけど、案外気が合いそうだったんで会ってやってもいいっすかねぇ」


「あー、どういう状況なんだこれ……?」


 そう声が掛かって、店の入り口を見ると


「あっ……エテルノ……」

「あ、いや、そのだな……。じゃ、邪魔したな……」


 す……っと店を出ようとするエテルノを見て気づく。

 いま私たちは葉っぱを手に持っていて、テーブルの中心には葉っぱをむしられて座り込んでいるドーラちゃん。

 あっ……


「ちょ、待って待って待ってエテルノ!」


 急いで私はエテルノを呼び止めるのだった。

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