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女子会(+マンドラゴラ)

「すいません、甘露スライムのケーキ一つ」

「かしこまりやしたぁ!」


 白い丸テーブルに着いて私はそう注文した。

 ここはアニキさんの経営するスイーツ店。町の中でも特に復興が早かった建物の一つで、再建に当たって私の元同級生たちがこぞってお金を出したらしい。気持ちは分かる。こんなに美味しいものを作るお店が潰れそうだなんてことになったら私だってお金出すもの。

 しかも随分お金が集まったらしく、前よりもお店が良い感じになっている。シェピアが随分頑張っていたらしい。


 ただ、従業員は相変わらずアニキさんの手下の人たちだ。お金があっても従業員を変える気は無かったらしい。


 アニキさんはエテルノの知り合いなだけあって、心の中に「芯」を持った人のように感じる。

 手下の世話をしっかりする、と決めているのもそうだ。シェピアが好きになっちゃったのも頷けるというものだろう。


 と、先ほど私が注文を伝えた店員の人が厨房に伝える声が耳に入った。


「スライム一つ入りやしたぁぁあ!!」

「……間違っては無いけどね」


 うん、間違ってはないけれどそういう注文の伝え方をするのは冒険者酒場とかだと思うんだ。スイーツ店でそういう伝え方をするのは違うと思うな、私。

 まぁ美味しいから良いんだけど。良いんだけども。

 ただ、店内が凄く綺麗になってしまったせいで更に違和感が際立っている。


 ……あとでシェピアに伝えておこう。


「す、凄いですねここ……」

「でも美味しいんですよー」


 私の目の前に座っている二人もなにやら面食らっている様子だ。そういえばこのメンバーで来たのは初めてかもしれない。


「リリスちゃんはたまに来てるから慣れてるだろうけど、テミルちゃんは初めてだったっけ?」

「ですね……正直何をすればいいのか分からないです……」


 今日私と一緒にいるのはリリスちゃんとテミルちゃん。リリスちゃんは駆け出し冒険者、テミルちゃんはフリオと同じ孤児院で育っていたという女の子だ。

 本当ならここにミニモも居たはずだったんだけど……でもしょうがない。ミニモは今日、なにやら用事があると言って朝早く宿を出て行ってしまったから誘えなかったのだ。


 そんなわけで今日は私とリリスちゃんとテミルちゃんの三人で女子会、と言うことになる。


「私もいるっすよ!」

「……?!だ、誰です?!」

「あ、そっか。テミルちゃんは初めてだよね」


 リリスちゃんのバッグから飛び出してきたのはマンドラゴラのドーラ。

 植物のはずなのに喋っていたり、リリスちゃんに懐いていたり、不思議なところの多い子だ。


「えっと……ドーラちゃんはダンジョンにいたんだっけ?」

「っすよー。ダンジョンのじめじめ感がちょうど良かったんすよねぇ」


 そういう問題なのだろうか。いや、植物なのだからそういう問題なのだろう。

 知らないけど。


「へぇ……。ほんとに植物なんですねぇ……」

「なんか捕食者の目をしてるっすけど?!」


 見ると、テミルちゃんの口元からはよだれが伝っていた。

 ……なんで?


「あ、す、すいません、おいしそうだったので……!」

「この人怖すぎないっすかね?!」

「テミルちゃん、少し落ち着いて……」


 テミルちゃんがゆっくりとドーラの方に手を伸ばし、リリスちゃんがそっとドーラを自分のバッグに戻す。

 そうして行き場を失ったテミルちゃんの手は空を切った。

 

「えっと……テミルちゃん、マンドラゴラ食べたことあるの……?」

「ありますよ!若いマンドラゴラはシャキシャキしてて美味しいですしそこそこ年月経ってるマンドラゴラは足先の部分が甘くてですね……!」

「へぇ、そうなんだ」


 テミルちゃんの話を聞いて、リリスちゃんがドーラのことをじっと見る。

 

「リ、リリスは私の事食べようとなんてしないっすよね……?」

「んんー……葉っぱの部分とかなら生え変わったりしない?」

「しますけど食べないで欲しいっすよ?!」


 今のところドーラを食べるか食べないかが三対一に分かれている感じだ。

 かくいう私もマンドラゴラを食べたことがあるので何も言えないのだけれど……。


「お待たせしまっしたァ!」


 ドン、と豪快にテーブルの上にケーキがおかれる。

 スライムでコーティングされたケーキはその衝撃でプルプルと震えた。


 うん、美味しそうだ。

 明らかに置き方が酒場でおつまみを頼んだノリだったのは置いといて、美味しそうだ。


「お、おぉ……流石新商品……豪華さが増してますね……」

「そうだねー。あ、このてっぺんの果物は何なんです?」


 私が店員さんに聞いてみると店員さんはこう答えた。


「トレントの果実でございやすお客様!」

「トレントって実をつけるのね……」


 初めて聞いたけどおいしそうだ。赤い実がスライムの青いケーキに良く映える。


「あ、そういえば姉御から、グリスティアさんが来た時にサービスでこれを渡すように言われてたんすよね」

「え、ほんと?」


 姉御……と言うとシェピアの事だろう。シェピアはそんなことを?


「それがこちらになりますね」


 またもや机の上に豪快に置かれたのは緑のケーキ。

 ……なんだろうこれ?

 色が結構毒々しい感じなんだけど……


 店員は言った。


「試作品なんすけど、美味しかったら教えてくれって話っすね。改善点とか後で教えてくださいっす」

「あ、分かりました。ちなみに材料は……?」

「マンドラゴラっすね」

「さっきから私への当てつけなんっすかねぇ?!」


 ドーラには悪いけれど、ちゃんといただこう。

 だって美味しそうだもの。


 それにさっきの話で久しぶりにマンドラゴラを食べたくなってきちゃったし。


「じゃ、いただきまーす!」

「無慈悲っすねぇ?!」

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