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魔獣食肉店

「……で、俺のところに来たのか?」

「そういうことだな」

「その袋の中身見たくねぇよ……」


 依頼から戻ってきて数時間、俺たちはアニキの店へとやって来ていた。

 今日はアニキがスイーツ店の方には居なかったので肉屋の方にやってきたのだが……


「お前、この店何があった?」

「いや……マジで分からねぇんだ……なんでこんなことになってんのか……」


 アニキの店。以前はそうだな、大通りには面していないだけあって裏路地の肉屋そのもの、と言った感じの外装だったし内装も酒場みたいだし柄の悪そうな子分たちが接客をしていたりとお世辞にも良い店とは言えなかったのだが……


「これだけの建物を作るだけの金はどこから出たんだよ……」


 見上げる先には一足先に店に駆け込んでいったミニモが店の二階の窓を開けてこちらに手を振っていた。


 店の見た目で言うならギルドと同等かそれ以上。外装で言うなら例えるなら高級服店。

 ……こいつ、今度は何をやらかしたらこんな金が入ったんだ?とアニキの方を疑いの目で見るとアニキは焦った様子で否定した。


「いやいやいや、違うからな?!基本シェピアのせいだからな?!」

「……まぁそれなら良いんだが……」

「良くねぇよ?!」


 シェピアは俺とは関係ないし……と、そんな風に思って帰ろうとした時だった。


「エテルノさんも見ましょうよ!中凄いですよ!」

「……」


 突然背後からミニモに手を掴まれた。

 手を引っ張ってみるが、ミニモの腕は微動だにしない。


「……あー……お前、さっきまで店の二階にいたよな?」

「はい!」

「……さては飛び降りてきたな?」

「はい!」

「はいじゃねぇよ」

「はい!すいません!」


 俺の手を掴んでいるミニモの指を一本一本引きはがそうと試みるが、やはりこちらも微動だにしない。

 思わずアニキの方を見ると、憐れむような目でこちらを見ていた。


「……まぁ……お互い頑張ろうや」

「一緒にしないでくれ……」


 シェピアと言い、ミニモと言い、こいつらはそろそろ常識を知って欲しいものだ。


***


「じゃあ店に入るにあたって邪魔だからこれをお前に託す」

「受け取りたくねぇー……」


 アニキに俺達が討伐した魔獣の死骸を渡しておく。俺が浮遊魔法を掛けて布で包んでいたためにそこそこの量があり、店の中では邪魔になってしまうだろうとの判断だ。


「ちなみに中身は……?」


 アニキの問いに答えたのはミニモだった。


「グレーターボア一匹、ゴブリン三十八匹です!」

「ゴブリン多くねぇか?!」

「群れに遭遇したから殲滅した。主にミニモが」

「殲滅しました」

「前にゴブリン持ってこられて困ったって言ったよね?!」


 あぁ、やっぱり困ってたんだな。

 ミニモの方を見るとキョトンとした顔をしていた。さては前、アニキの話を聞いてなかったなこいつ。


 アニキは頭を掻きながらぼやく。


「くっそ……ゴブリンは臭み抜きが大変なのにな……」

「あ、でも一応食うことには食うんだな」

「当たり前だろ?ゴブリンなんてどこにでもいる魔獣なのになんも使い道が見つかってないんだ。もしこいつを食えるような方法を見つけたら表彰物だぜ?今のところくそ不味いが研究しまくってやるさ」

「それは何と言うか……」


 なんというか、商魂たくましいな。

 元ギルマスだっただけあってアニキの頭は悪くない。きっとゴブリンの良い使い道を見つけてくれるだろう。


「あ、じゃあ良かったな。今ゴブリン大量発生してるぞ」

「え、まじ?」

「あぁ。今日も結構見かけたからな」


 おそらくだが、死霊術師バルドの操った死体達の攻撃やディアンの乗っていた死霊術ドラゴンの攻撃はそこそこの量の魔獣たちを掃討したのではないだろうか。

 そうして強力な魔獣も弱い魔獣も居なくなった土地に、繁殖力の強いゴブリン達が増えだした。

 ま、そんなところだろう。


「このまま放置してるのもまずいからな。復興途中の町だ、そうそう対策は出来ないかもしれないが放置していると女子供が攫われる事態になりかねない。お前のその研究がゴブリンの数を減らすきっかけになるかもしれんし、なんなら金を出してやろうか?」

「おぉ、良いのか?」

「まぁ金の使い道が今のところ無いからな。後でしっかり返してもらうからな?」

「おう、助かる」


 よし、後でアニキに金を持ってこよう。ついでにゴブリンも何匹か生け捕りにしてくるか。


「じゃあそんなわけで……」

「エテルノさん?だめですよ?」

「……ちっ」


 誤魔化してそっと帰ろうとしたのだがやはりミニモに捕まってしまい、そのまま俺はずるずると店内へと引きずられるのだった。


***


「エテルノさん、これこの前私がアニキさんに渡したゴブリンですよ?」

「さらし首みたいになってるな」


 店内入ってすぐ、テーブルに五つ、ゴブリンの首が並べられていた。

 赤のテーブルクロスに装飾皿が五枚。高級そうな燭台を並べたテーブルの上に、ゴブリンの首が五つ、更に並べられている。


「扱いに困ったって言うのがありありと伝わってくるな……」


 アニキの心情は分かる。ミニモに肉を取って来てくれと頼んだらゴブリンを何匹も持って帰ってきたりされ、食ってみたら不味く、ゴブリンの死体の扱いに困った。

 気持ちは分かる。あぁ。気持ちだけは分かるのだ。


 だが、だとしてもここに首を飾るなよ。衛生面とかどうなんだよ。

 というか店内入ってすぐゴブリンがさらし首ってなんだよ。怖いわ。


 と、俺と同じように思っていた店員が居たのかゴブリンの首を片付けようとしている女がいた。


 ……見覚えのある顔だな。俺は声を掛けた。


「おいシェピア、何やってるんだ?」

「何やってってそんなのこの首を片付けて--あら?エテルノとミニモちゃんじゃない、どうしたの?そんなところに突っ立ってないでお肉沢山買っていきなさいよ」

「仮にも客にそういう言葉遣いするか……?」

「お帰りはあちらになりますわお客様」

「帰らせようとするな」


 シェピア。グリスティアの古馴染みにしてSランク魔法使い。そんな彼女がエプロンをかけてせっせとゴブリンの首を箱に入れて片付けていた。何だこの光景。


 もう一度言う。何だこの光景。

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