ダンジョンの中の町
8話 町のゴロツキ(元ギルド長)参照です
「ちょ、ま――」
シェピアさんが魔法を放ち、凄まじい閃光が晴れるとそこにはあったはずの宝箱が消滅していました。
「あの、シェピアさん、なんか今エテルノさんの声がしませんでした?」
「いや、聞こえなかったわよ?」
「そうですかね?あとこんな強い魔法使っちゃったら中に入ってた宝物まで消えちゃったんじゃ……」
「大丈夫よ。私が使ったのは生物だけを分解する魔法なの。ほら、宝箱の金具は残ってるでしょ?」
「あ、ほんとですね」
確かに宝箱のあった場所には、金具が転がっています。
それなら宝箱の中身は生き物だったってわけで、魔獣が擬態してたんでしょうね。
「あーあ、もうやることもないし先に帰ってるわね」
「はい、ありがとうございました!」
シェピアさんがキャンプ地へと伸びをしながら帰っていき、グリスちゃんも帰ってしまいその場には私だけが残される。
んーでもなにか引っかかるような?
***
あ、危なかった。シェピアの一撃を食らっていたらいくら俺でも死んでいただろう。
そんな風に考えて、俺は一息ついた。
何故俺が生き残れたか?そんなの、あの一瞬で逃げていたからに決まっている。
咄嗟に地面に向けて魔法を放ち、宝箱の底面を破壊して地面に開けた穴に滑り込んだのだ。
咄嗟のことではあったがこの判断は正解だった。俺が地中に入ったわずかコンマ数秒後に魔法が炸裂したのだから。
「……やれやれ、今回も失敗か。なかなかうまくいかないものだな……」
頭上に覆いかぶさった土を魔法で吹き飛ばし、再び外に出る。
手を穴の縁にかけ、体を持ち上げ――
「あっ」
穴の外にいたミニモと目が合った。ちょ、ちょっと待て。この状況はどう言い訳すれば……
「……宝箱の中身って第一発見者の人の物なんですよね?」
「ふざけてるのか?」
少し焦ったがやはりミニモはミニモであった。
***
「お帰りエテルノ。ってあれ、なんでそんなに泥だらけなんだい?」
「フリオか。すまない、少しいろいろあってな」
「ですねぇ。なんであんなところにいたんです?」
「……調査だ」
「あ、そうだったんですね」
キャンプ地に戻って早々、夕飯を用意しているフリオと遭遇した。
ミニモは先ほどのことは何とも思っていないようだが……自分で言っておいてなんだが、なんでこいつはこんな嘘で騙されるのか。訳が分からないな。
フリオは愛想よく笑って言った。
「よく分からないけど何か調べてきてくれたんだね。ありがとう」
「気にするな。俺の方の都合だからな。次に進む方向は決まったのか?」
「うん、それなんだけどね。明日から進む方ではダンジョンの見た目ががらりと変わっているみたいなんだ」
ダンジョンの見た目がダンジョンの下層に降りるほど大きく変わるのはよくある話だ。
だがそれを知らないフリオではない。にも関わらずこいつがそんなことを言うということは、相当な変貌を見せるのだろう。
「しかしそうなってくると……このダンジョンには思いのほか強力なダンジョンマスターがいるのかもしれないな」
「そうだね……ちゃんと気を引き締めて行かないと」
今のところ罠にもほぼかからずにここまで降りてこられている。
それは良いことなのだが未だにダンジョンの終わりは見えず、元々聞いていた情報とも違うものもいくつか出てきているのだ。
本当にこれが最近できたダンジョンだというのか、少々疑問が残る。
「さ、今日はいったん今まで来た道を戻って物資を補給するつもりだよ」
「なんだ?また地上の町まで戻るのか?」
確かに物資が必要なのは分かるが、わざわざ戻るのはめんどくさいな。
せっかくA班B班C班に分かれて探索しているのだからC班あたりが物資を補給してくるべきなのではないか?
俺がそう言うと、フリオは笑った。
「いやいや、そんなことは無いよ。大丈夫。ダンジョンの中で物資を補給するんだからさ!」
……ふむ?どういうことだ?
***
「おぉ!凄いです!」
「これは……確かに凄いな」
「でしょ?皆なら喜んでくれると思ったんだ」
ダンジョンを戻ること数十分。
そこには広大な空間と、粗雑ながらも街並みと呼べるような景色が広がっていた。
ここはダンジョン内部だというのにも関わらず、だ。
思わず俺も感心させられてしまった。
「でも、私達がここを通ってから三日も通ってませんよね?ましてやダンジョンに町なんて……」
「うん、A班は探索、B班はA班の後に道を広げるのが役割なんだけどね、C班の役割は何だと思う?」
「……なるほど、そういうことか。普通調査後のダンジョン内には休憩所があるのが不思議だったが、このタイミングでできていたというわけだな」
「そう、C班の役割はダンジョンへの人の誘致。ダンジョンの調査隊に物を売るのはいい商売になるらしくてね、商人たちの希望で町を作るのが通例になってるんだよ」
町にある建物の材質は石。ふむ、魔法でダンジョンの岩壁を利用して作ったというところか。
C班の実力もなかなか確かな物らしい。
「若干物価は高いけど、お金はギルド持ちだからね。物資はここで揃えることになるよ」
「あぁ、分かった。ありがたく使わせてもらおうじゃないか。ミニモ、行くぞ」
「はい!」
こうして俺たちは、ダンジョンの中の町へと繰り出した。
お供がミニモ、というのは不安要素が残るがまぁこの程度なら大丈夫だろう。
……多分な。
***
「よし、後は食料か。何か希望はあるか?」
「そうですねぇ、やっぱりお肉は外せないですよね」
「良いだろう。肉屋は――っと」
そこそこ物資を揃え、俺はミニモに聞いた。
俺と同じように大き目のバッグを持ち、大量に物を買いこんでいるミニモの希望は、肉か。
俺も肉は嫌いじゃない。丁度いいな。
そんなわけで、目に入った肉屋に向かって歩く。
店頭で肉の塊を焼いており、なかなか食欲をそそる匂いが周囲を満たしている。
試食などさせてもらえないだろうか。
俺は店員に声を掛けた。
「すまない、肉を塊で欲しいのだが……」
「あいよお客さ……ってヒイッ?!」
「どうかしたか……?」
「お、お前が何でここに?!」
む、なにやらどこかで見た顔だな。
俺は見覚えのある店員の顔をのぞき込む。この髭面、いかつい顔……あ。
そこにいたのは以前、俺が逃してしまったゴロツキの一味だった。