そして皆が元に戻って
「エテルノ、体の調子はどうだい?」
「大丈夫そうだな。無理はしないようにするが依頼をこなす分には問題無いだろう」
バルドの対決から数週間。俺は順調に回復して既に色々な依頼を受けられるまでに回復していた。
宿屋の一階に集合して、俺たちが朝食を取っているときのことである。
「あ、そういえばエテルノさん、Sランクのお祝いはいつになったんです?」
今日の依頼で使うであろう道具の買い出しに行かなければ、などと思っていた俺にミニモが聞く。
「……祝い?そんなものがあるのか?」
「あ、エテルノってもしかしてSランク冒険者になりたての人とかと会ったこと無い?」
「無いが……」
そもそもSランク冒険者に出会うことの方が稀な世界だ。俺達のパーティーのようにSランクが四人も集まっているパーティーなんて聞いたことが無いほどだった。
ましてや、Sランクになりたての人間なんて普通に考えて会えるわけが無いだろう。
そんなわけで皆の言葉を不思議に思っていると、グリスティアが言った。
「普通はSランク冒険者になった人ってしばらくしたら町を上げて大々的にお祝いしてもらえるらしいのよね。私とフリオの時もそうだったんだけど、ミニモもよね?」
「えーと、私も似た感じ、ですかね?みんながお祝いしてくれた覚えがあります」
「やっぱりそうよね!多分エテルノも祝ってもらえると思うんだけど……ギルド長から何も聞いてない?」
「あぁ、あの猫人族の事か」
なにやら不可解なところの多かった猫人族。ギルド長として働いており、ディアンの元上司。
あの毛並みを思い出しているとフリオがこんなことを言った。
「イギルさんのことだね。彼が何も言ってないんだったら僕は何も言えないけど……」
「……いや、思い返してみた感じ何も言ってなかったような気がするな」
イギル、というのかあの猫は。そこそこ話したと思うのだが名前すら知らなかったぞ。
なんとなく釈然としない気持ちを呑み込んで俺は言う。
「まぁ、祝いと言っても町がまだ復興できてないからな。こんな状況で祝いなんぞ出来る訳もないだろう」
「いやいや、こんな状況だからこそお祝いするんですよ!気分がパーッと明るくなるじゃないですか!」
「そうだよエテルノ。なんなら僕たちだけでも知り合いをたくさん呼んでお祝いしよう!」
「……まぁほどほどにな」
こいつらについては止めても無駄だということを俺は知っている。
だから、こいつらが暴走しそうになったら止めよう。それまでは好きに--
「じゃあ早速エテルノさんの銅像から造りましょう!」
「こんなすぐに止めることになるとは思わなかったが?」
「え、なんですか?」
「やめろって言ってんだよ馬鹿」
そうして、今まで通りの日々が戻って来た。
以前と変わったところなんて一切ない日常。
……まぁミニモにはもう少し成長していて欲しかった気持ちはあるけどな。
***
「エテルノ!そっちは頼んだよ!」
「分かった、任せろ!」
フリオの指示を受けて俺が地面から溢れ出した魔獣の群れを叩き切る。
今日の依頼は蟻の魔獣の討伐。
一匹一匹は大したことは無いのだがいかんせん数が多い。下手に動くと危ないだろう。
何匹かは捌けても、群れに突っ込みすぎるとその巨大な顎の餌食だ。
だからここでとる作戦は、一撃を入れて離脱。
「とはいえ、一匹一匹潰すのは面倒だしな。グリスティア!用意が出来たら教えろ!」
「分かったわ!」
ミニモに守られてグリスティアが魔法の詠唱を続ける。
今回の俺とフリオの仕事は、蟻が何か所にも散らばらないようにおとりの役目をこなすこと。
とどめはグリスティアに任せるだけなので気楽だ。
一撃を入れて魔獣の気を引いて離れていく。
そして、フリオと合流した時だった。
グリスティアから合図が送られる。
「……よし、フリオ、離脱するぞ」
「分かった。じゃあお願いするね」
「あぁ、魔法がかけにくいから下手に動くなよ」
フリオと俺は蟻の群れに囲まれていた。おとりとして動いていた時、何となくそんな気はしていたが蟻たちは俺達を包囲するような動きをしていたのだ。
ま、それがどうという障害になることは無い。
フリオに浮遊魔法を掛けてやり、空に舞い上がった。
「よし、グリス、取り逃さないように頼んだよ!」
「任せといて!」
躊躇なく蟻たちに放たれる豪炎、森に魔獣の断末魔がこだました。
***
「いやぁ、やっぱり久々に大魔法を使うとスカッとするわね!」
「なんかシェピアみたいなこと言ってるな」
「まぁでも、ここまでずっと狭いところで戦ってたせいで大魔法は使えてなかったもんね」
フリオの言葉にグリスティアが頷く。ミニモの異常な行動で隠れてはいるが、グリスティアも割と好戦的だよな。
それでも常識的な範囲に収まっているだけ良いが。ミニモに至っては狂人の域と言うか……
さて、どうやらその狂人が居ないようだが……?
ふと見ると、ミニモが焼け焦げた蟻の死体を漁っていた。
「お前はまた何をやってるんだ?」
ため息をついて聞く。ミニモの答えはこうだった。
「いえ、蟻は食べられるそうですから……」
「何言ってんだお前。蟻を食うとかいよいよもって見損なったぞ」
「蟻なんか食べませんよ!全然美味しくないんですもん!」
「さっきの言ってたセリフを思い出して欲しいのと、もうすでに一回食べたことあるのがたったいま分かったぞ」
しかし、ミニモの話を聞くとどうやらミニモが食べるわけでは無いようだった。
町に持ち帰って、アニキへのお土産にするらしい。
と、それを聞いて思ったことは俺と一緒だったのかフリオが言う。
「ミニモ、ほんと申し訳ないんだけどアニキさんも迷惑だろうから……」
「いえ、食べられそうな魔獣を倒したら死体で良いから持って帰って来てくれって言われてるんですよ」
「あぁ、あいつ魔獣食屋をやってるもんな」
デザートを作ったり、肉を切り売りしたり。魔獣を材料にしているにも関わらず中々美味いと評判の店なのだ。
「あぁ、そういえばこないだもやけに依頼こなした後に魔獣の死骸を漁ってるなと思ったらそういう……」
グリスティアがやけに納得したように言う。
ミニモにしてはまともな理由があって安心した、と言った感じだな。
「ちなみに今までどんな魔獣を持って行ったんだ?」
「ゴブリンと巨大ミミズとトレントですね」
「前半ゲテモノが多すぎるしトレントに至ってはもはや木じゃねぇか?!」
「でも魔獣なんて大半がゲテモノですよ」
「……ミニモに正論言われると腹立つな」
うーむ、しかしこのままだと若干アニキに申し訳ないな。
……あぁ、いい案があるじゃないか。
「フリオ、帰るのは少し遅れると思うんだが他にも魔獣を倒していいか?」
「いいけどどうしたんだい?」
「何、アニキに肉を渡してやろうと思ってな」
冒険者復帰がてら、これだけじゃ物足りなかったところだ。
土産を持って行ってやるとしようじゃないか。
こうして俺は再び剣を構えた。
さて、体の調子を戻すついでに魔獣狩りといこう!