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遺されたのは

「--とまぁこんな感じだな。トヘナに頼まれて俺はこの町に来たんだが、今まで何も言えなくてすまなかった」


 トヘナと出会ったきっかけや、俺の過去に何があったのか。そして、トヘナはどんな最後を迎えたのか。

 もちろん俺のスキルについての話は省略し、バルドのパーティーを追放された後に行く当てが無くなった俺をトヘナが拾ってくれたというだけの話にはしたが、サミエラに知る権利があると思ったことはことごとくを白状した。


 全て言い終えて、俺は頭を下げた。本来なら俺はこの町に来てすぐにサミエラにこのことを話しておくべきだったのだ。薄情だと思われても仕方がない。


 ……正直、この町に来てからサミエラのことを探そうとしたことは無かった。会うのが怖かったからだ。

 だからフリオにサミエラのことを紹介されたときは本当に驚いた。

 幼女だと思っていたら、その幼女はエルフで。サミエラと言う名前で。

 ……しかも孤児院を経営していると来たのだから。


 思わずトヘナにしていたような接し方をしてしまったり、孤児院に連れてこられてもすぐに宿に帰ろうと出て行こうとしてしまったりと色々な失礼な事をした覚えがある。


 それからはどうしてもサミエラの様子が気になってしまい、ちょくちょく孤児院に顔を出したりしていたわけだが……フリオに出会っていなかったらこんな風にサミエラと話すことも無かっただろうな。

 そう思うと何やら複雑な気持ちになる。


「うむ、頭を上げるんじゃな」


 サミエラが呟く。が、俺は顔を上げない。


「……無理だ。合わせる顔が無いとまでは言わないが、それでもこの話の後で顔を上げられるほど俺は恥知らずでもない」

「……」


 サミエラが返す言葉は無い。子供たちのはしゃぎ声が遠くから聞こえた。


「……」

「……」


 俺の意思をくみ取ったのか、彼女は言った。

 俺は綿のような柔らかさを、太陽のような温かさを、彼女の言葉の端々から感じていた。


「トヘナについてはじゃな、まぁいつかこうなるじゃろうと思っておったし後悔はしておらんよ。最期に誰かの役に立てたならあの子も本望じゃっただろうしの」


 サミエラの声は寂しげだが、思いつめる様子は無い。

 それでも顔は上げられずにいると、サミエラが再び言葉を継いだ。


「ま、一つだけどうしても聞きたいこともあるがの。言いたくなければ言わんでも良いが……」

「……なんでも聞いてくれ」


 なんであろうと俺には答える義務がある。


 そんな風に身構えていた俺に、思わぬ質問が飛んできた。


「……じゃあ聞きたいんじゃが……トヘナには襲われんかったかの?その、性的な意味で」

「どう考えてもこの流れで聞く話じゃないが?!」


 思わず顔を上げてしまった俺を見てサミエラがにこりと笑った。


***


「いやぁ、すまんの。気になったんじゃよ」

「だとしてもそんなこと聞くんじゃねぇよ……襲われてねぇよ……」

「でもそれ以外に男を連れて旅をする理由なんぞあの子には無いじゃろうと思っての……」

「……まぁそれは確かに……」


 トヘナは相当に男遊びが酷かったからな。サミエラにとってもそこは共通認識だったか。


「流石に身内が迷惑をかけたんではわしも何かしら詫びをせねばならんからのぉ……」

「いや、本当にトヘナのおかげで俺はここまでこれたんだ。感謝こそすれど、文句を言いたいことなんて……まぁあるが……」


 あるにはもちろんあるのだが、感謝の方が多いのは確かだ。それについてはもう文句を言う気も無い。

 ……文句を言う相手ももういないんだがな。


「む、ということはこの後アリシアにも会いに行くのかの?」

「……ドリット=アリシアか……」


 ふと気づいたようにサミエラが出した名前には聞き覚えがあった。サミエラと、トヘナとあともう一人。パーティーメンバーだった元凄腕魔術師の名前だ。

 今は確か、魔法学校かどこかで教師をしているということだったが……


「アリシアに関してはの、今は連絡が取れないんじゃよ。フリオも気にしておったんじゃが中々のぉ……」

「俺も少しだけではあるが調べてあるからな。もし見つかったら連絡する」

「うむ、助かる。わしももっと動き回れる立場なら良いんじゃがの……」

「ま、孤児院だと色々大変だよな」


 この孤児院は基本、サミエラ以外の職員を見ることが無い。

 フリオやらディアンやらの出身者が手伝いに来てくれていたからだというのだが……だとしてもサミエラ一人だけでこれだけの人数を世話しているというのは実際驚くべきことだろう。


「……俺も手伝いに来たいところではあるんだが……」

「冒険者は忙しいしの。わし一人でもなんとかなるんじゃから大丈夫じゃぞ」

「そうもいかない。俺は受けた恩はしっかり返す主義なんだ。恩を返さないとしっかりいたずらもできないだろう?」

「いたずらは止めないつもりなのかの?!」


 当たり前だ。今日もムカデにそっくりな模型を持って来たのだ。今日は恩を返し終わらなかったのでいたずらはしないが、サミエラにいたずらを仕掛けるのは面白いからな。

 恩返しもするし、いたずらもする。それが今後の俺の方針だ。


「さて、となると誰か助っ人を呼べばいいのか……?」

「助っ人……お主、友達とかおるのかの?」

「いや、居ないが?」

「えっ」

「その顔をやめろ」


 別にいないわけでは無いが、フリオだったりフィリミルだったりと暇そうな奴が少ないだけだ。

 友達ぐらいいる。おそらく。


「暇そうな奴は……誰かいたかな……?」


***


「……で、それで俺が呼ばれたわけか?」

「そうだ。暇そうな上にそこそこいろいろできる、しかもおまけで扱いやすいからな」

「俺を何だと思ってるんですかねぇお前は?!」

「良いじゃない別に。サミエラさんのところで働けるのって名誉なことよ?」


 俺が呼んだのはアニキとシェピア。暇そうにしていた二人である。


「シェピア、俺をSランクに推薦してくれたらしいな。感謝する」

「良いのよ別に。パーティーにSランクじゃない人がいるとグリスティアも不便な思いするじゃない?」

「だとしても恩は返す。今度何かあったら言ってくれ」

「……じゃあ今度、少し手伝ってもらいたいことがあるわ」

「分かった。承ろう」


 さて、まぁこいつらなら基本子供の世話ぐらい出来ると思うのだが……

 アニキはやけに不満げだ。


「エテルノ、俺も忙しいんだよ。店の経営とか色々あってだな……」

「あぁ。だからお前の子分にこの孤児院を手伝ってもらえないか聞こうと思って呼んだんだ。お前もサミエラみたいに捨て子を保護したりしてたよな?」

「……保護っつぅかまぁ仲間にする、って感じだな。路地裏をうろついてたらどんな目に遭うか分かりゃしねぇ。だからその前に俺の仲間に引き入れちまうんだよ」


 アニキ自身は謙遜しており言い方が悪くなっているが、要するに彼がやっているのも保護活動だ。

 だから保護された子分たちはアニキのことを慕っているし、サミエラとの相性もいいはずだというのが俺の予測だった。


「んんん……やってくれないか聞いては見るが、分からねぇぞ……?」

「あぁ、それで構わない。感謝する」

「おう、まぁあいつらにとっても他人の世話するのは良い経験になるしな」


 アニキが快く提案を受け入れてくれたことに俺はほっとしていた。こいつ案外人間が出来てるんだよな。


 と、その時だった。


「エテルノさんやっと見つけましたよ!そんな怪我でまた勝手に動き回って!!」


 大きな音を立てて、孤児院のドアが開かれる。

 その先に居たのはミニモ。


「やっべ……」

「エテルノ、お主何かしたのかの?」

「ミニモに黙って宿を出てきたからな……」


 ミニモはどうしても俺を動かしたくないようだ。俺のした怪我がよほど酷かったらしい。

 未だにリハビリだとかなんだとかで動き回るのは禁止されている。


「過保護なんだよあいつ。アニキ、ちょっとスキルで匿ってくれ」

「俺のスキルを便利な避難所扱いしないでくれるか?本来これは物を収納するのが本来の使い道であってだな……」


 ぶつくさ言いつつもアニキは俺を収納してくれたのであった。


***


 その後、アニキはミニモに脅迫されたらしく簡単に俺を引き渡しやがったのだがそれは別の話。

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