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いつか花咲く小さな畑

「む、また来たのかのお主」


 俺が顔を出して早々、サミエラはめんどくさそうにこちらを見つめて言った。

 彼女はスコップを持ち、孤児院の子供達と何やら土を弄っているようだ。

 

 近くに走り寄って来た子供の額をサミエラが自身の服の裾で拭った。 


「あー、何をやってるんだ?」

「簡単に言うと畑づくりじゃな。この前の襲撃で孤児院も多少なりとも被害を受けての、育てていた作物も台無しじゃよ」


 襲撃、というのはこの前のバルドの一件だな。

 そうか、ここも被害を受けていたか。


「まぁ子供達はあの……アニキ?とか呼ばれておった奴のおかげで皆無事じゃ。そう文句も言える立場でも無し、こうやって畑を作り直しておるんじゃ」

「ふむ……。分かった。俺も手伝っていいんだな?」

「む、それは助かるんじゃが良いのかの?」

「多少なりとも恩返しをしようと思ってここに来たわけだしな」


 ギルド長にSランク冒険者への昇格を告げられた翌日、俺はサミエラに礼を言うことを目的として孤児院にまで足を運んでいた。

 今日はミニモを置いてきているので時間はかかってしまったが。


「よし、ガキども、少し離れてろ!離れてなかった奴は畑に埋まることになるからな!」

「あ、エテルノの兄ちゃんだ!今日も目つき悪いな兄ちゃん!」 

「よっぽどスイカの隣に頭を並べる羽目になりたいらしいな」


 離れろと言ったのに俺にわらわらと群がってくるガキどもを押しのけ、俺はバッグからチョークを取り出した。


 チョークを使って荒れた地面に魔法陣を描いていく。それを見た途端、騒いでいた子供が静まり返る。


「……なんだ?気味が悪いな……」

「この子たちは魔法なんてほぼほぼ見たことが無いような子達じゃからの。魔法陣が興味深いんじゃろうよ」

「……そうか」


 バッグから追加のチョークを取り出して、子供達に配っていく。

 全員に配り終え、俺は言った。


「お前らも描きたければ後で教えてやる。だから今はそれで落書でもしてろ。俺の魔法陣に被ったら許さないからな」


 っと、こんなことをしている暇は無いのだ。魔法陣を描き終えて、今度は魔法陣の中に魔力を浸透させ--


「発動、っと」


 描いたのは土壌を肥沃にする土系統の魔法やらなにやらと、畑を作るために柵代わりの土壁を隆起させる魔法だったりを組み合わせた魔法陣。


 そうして完成した畑は、自分のことながらも中々うまくいっているように見えた。


「ほらよ、これでいいか?」

「おぉお……やるのぉ……」

「ま、実戦で使うには時間がかかりすぎるから滅多に魔法陣なんて使わないんだがな。役に立てたようなら何よりだ」

「うむ、助かった!……おっと、エテルノ、せっかくじゃし茶でも飲んでいくかの?」

「あー……そうだな。今日はそうしよう」


 孤児院の子供たちの方に目をやると、もうすでにチョーク遊びに飽きたのか庭を走り回ったりしている始末。

 まったく、子供は扱いづらくて困る。


「……ま、思ってたほど悪くも無いかもな」

「ん?何か言ったかの?」

「いや別に」


 思っていたよりも自身が変化してきているのを感じる。

 子供は何を考えているのか分からない。だから、いつ俺に害を成すか知れない。

 その結果出来る限り避ける対象になっていたのだが……


「あ、おいサミエーー」


 そんなことを考えつつサミエラの方を向いたときだった。


 急に俺の顔をめがけて飛んできた泥の塊が目に入る。

 物理的にも視覚的にも、がっつり目に入った。


 悶絶して地面を転げまわり、体が泥だらけになったのはその直後の話。


***


「あー、大丈夫かの?目がおかしくなったりしておらんかの……?」

「大丈夫だと思うならお前の目の方がおかしい」


 水魔法で顔を洗い流しながら俺は言う。

 先ほどの泥団子は子供たちのお手製だ。わざわざ俺を標的にしていたらしい。


 まんまと攻撃を食らい、文字通り顔に泥を塗られた俺は再び子供への認識を新たにしていた。

 やはり奴らは話の通じない魔獣のような奴らだ。関わらないに限る、と。


「すまんの、あの子たちもお主を気に入っておるんじゃよ」

「だからって泥を投げてくるんじゃねぇよ……」

「フリオもこのあいだ落とし穴に埋められておったしミニモに至っては激辛の料理を食べさせられておったのぉ」

「あいつらいたずら以外で愛情表現できないのか?」


 サミエラも孤児院を経営しているというのならもう少し躾をしっかりとしておいて欲しいものだ。


「で、なんじゃったかの?さっきも見てもらった通りわしもやることが多くての。急ぎでないなら後回しにさせてもらいたいんじゃが……」

「あぁ、要件って言ってもすぐ終わるから大丈夫だ。まずはそうだな、俺をSランク冒険者に推してくれたそうだから礼を言わせてほしくてな」


 Sランク冒険者になるというのは俺の悲願でもあった。それを推薦してくれたというサミエラには感謝を伝えても伝えきれない。

 それでさっきも畑づくりを手伝ったりしたわけだが、この程度で返せる恩だとも思わないからな。今日は色々と手伝いをさせてもらおう。


「あぁ、そのことかの。わしとしても色々世話になったしの、Sランクとして十分に力があるのに放っておくのも良くないと思ったんじゃよ」

「……ほんとにありがとな。まぁ今後、Sランクにふさわしい冒険者になれるように頑張るさ」

「Sランクは大変じゃからのぉ。まぁ頑張るんじゃな」


 サミエラも元Sランクの冒険者だ。だからか、その言葉には小さな体の何倍もの威厳があるように感じられた。

 普段はそんなことは無いのに、時々年の功的なものを感じさせられるのが彼女の不思議なところだ。


「……実は、もう一つあるんだが良いか?」

「ん、なんじゃ?」


 今日俺がやって来たもう一つの理由。それは--


「--トヘナについてだ。お前にも話しておくべきだと思って俺はここに来た」

「なんっ……?な、なんじゃ?今トヘナと言ったかの?」

「あぁ。知り合いだろ?」

「そうじゃがなんでお主が……?」

「気に食わないことではあるが、トヘナは俺の恩人なんだよ」


 そうして、俺はようやくサミエラにトヘナの顛末を語り始めた。

 俺の知る限りのことを、彼女が仲間に遺したかったであろうすべての事を。

 今までずっと俺がサミエラに伝えたかったことのすべてを。

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