ギルドからの呼び出し
「エテルノ、ちょっといいかい?」
「ん?」
怪我もそこそこ癒えて、ミニモに担いでもらわなくてもなんとか歩けるようになったある日のことだ。
俺を残念そうな目で見つめるミニモを牽制していると、フリオから声が掛かった。
「どうした?今少し忙しいんだが……」
「そこまでしなくてもミニモだってエテルノが治ったこと、喜んでるよ?」
「喜んではいるんだろうが、こいつはもう一回俺に怪我させればまだ担いでいられるとか言い出しかねないから怖いんだよ!」
「あ、確かにそうですね」
「確かにって言ったか?!」
よし、分かった。ミニモはもう俺に近寄るな。
更に身構える俺に苦笑すると、フリオは言った。
「ミニモ、次にエテルノが怪我したら僕がエテルノのことを担ぐんだからね」
「とりあえず俺がこれから怪我する前提で話すのやめてもらえないか?」
と、フリオが咳ばらいをして何かを取り出した。
……紙のようだな。なにやら署名が--
「……ギルドの署名?」
「そ。エテルノにお呼び出しがかかったからね。今は怪我してるから駄目だよ、って言ったんだけど結構しつこく呼ばれるから、エテルノにも伝えるだけ伝えておこうかと思って」
「え、そんなにたくさん俺悪いことしてないと思うんだが」
「少しは心当たりがあるんだね……」
まぁそりゃあ、悪人だったとはいえ副ギルマスでもあったディアンを殴り倒して地下道もバルドを倒すために改造したりしたし、そもそも俺自体ギルドに迷惑をかけてるからな。
今になってお呼び出しがかかってしまうことも無理はないことだが……
「よし、逃げるか」
「ちょ、ちょっとエテルノ?!まだ何の用事で呼ばれてるのかも分からないのにそんなこと……」
「ミニモ、頼んだ」
「!分かりました!地獄までお供します!」
「地獄までついてくるのはやめて欲しいところだけどな」
ミニモに合図を送ると、すぐに俺の体をミニモが担ぎ上げる。
まぁ、怪我が治ってきていると言っても元は死んでもおかしくなかったほどの傷だ。
治癒魔法を掛けてもらったと言ってもすぐに治るレベルではないし、素早く動くというのも難しい。
……要するに、いつものだな。
「よし、行くぞミニモ!」
「はいさー!」
こうして、俺とミニモは町へと繰り出したのだった。
***
「よし、ミニモ、ここらへんで良いから下ろしてくれ」
「もうですか?」
「もう結構走っただろ……。さすがに人目に付きすぎるのも良くないからな。下ろしてくれ」
「むむむ……しょうがないですね。私としてはもう少し休んでてもらいたいところではあるんですが……」
そんなことを言われてもミニモに担がれているのが町の皆に知れ渡るというのは嫌だからな。諦めてもらおう。
「しかし……ミニモには世話になりっぱなしだな。何かお前にも礼をしてやらなくちゃいけないんだが……」
「エテルノさん頭怪我しました?」
「怪我はしたけど別に頭おかしくなってはいねぇよ」
俺らしくない、と言外に言ってくるミニモにツッコミを入れる。
少し前のことだ。俺はトヘナのことを思いだして、世話になった相手にはしっかりとお礼をしておこうと思い立ったのだ。
例えばアニキだったり、フリオだったり。そして、俺が一番世話になったのが誰かと言えば……
「腹立たしいことではあるが、ミニモなんだよなぁ……」
ダンジョンの時も、今回だって、間違いなくミニモが居なければ俺は死んでいただろう。
要するに命の恩人なわけだ。気に食わないが。
こいつにはそこそこ迷惑をかけられているが受けた恩の方が大きいからな。返さなければならないだろう。誠に遺憾ではあるが。
「ってわけで、今日はミニモに恩を返す日にしようと思うが何かリクエストあるか?」
「え、何でも良いんですか?!」
「駄目に決まってんだろ。良識的な物だけにしろよ」
さて、ミニモが喜びそうなこととなると……そうだな、何となく分かるぞ。要するにミニモが喜びそうなものを渡せばいいわけだ。
「よし、干し肉専門店で良いよな?」
「駄目に決まってるじゃないですか」
「冗談だ。となるとやっぱり甘い物でも食べに行くか……」
「甘い物ってなると……そうですね、今日はグリスちゃんがシェピアちゃん達と行ってたはずですよ」
む、鉢合わせするのは良くないか。
案外難しいなこれ。嫌がらせだけなら無限に考えつくんだが……
と、ミニモがやけに笑顔で言った。
「あ、じゃあちょっと行きたいところあるんですけど良いですかね?」
「おう、良いぞ」
まぁ何かやばそうだったら逃げるが……
と、ミニモが俺のことを担ぎ上げた。
「え」
「さ、行きますよー」
「え、あ、ちょっと待てお前!お前ぇええええ!!!」
***
「あー……エテルノ・バルヘントさんであってるんですよね……?」
「……そうだ」
カウンターに座った短髪の女性が俺を見上げながら困惑した声で言う。
俺が何も言えずにいるとミニモが自慢げに言った。
「そうです!エテルノさんはエテルノさんです!」
「もう少し言うことあっただろ」
「え、えっと……なんで担がれてるんですか……?」
「怪我を……してるので……」
周囲の冒険者の視線を感じながら、俺は顔を隠しながらも受け答えをする。
やってきたのはギルド。それも冒険者たちがそこそこ集まっている真昼のギルドだ。
そんな場所に俺は、ミニモに担ぎ上げられたまま運び込まれていた。
「ミニモ、お前後で覚えとけよ……」
「わ、私はどうすればいいんですかね……」
ほら見ろ、受付をしている人が困惑しているじゃないか。
俺は彼女に言った。出来るだけ必死そうな顔で。
いや、実際に必死なのだが。
「とりあえず助けてください」
「エテルノさん、このままギルド長のところにまで行きますよ」
「マジでやめろ」
……ん?ギルド長?
「あ、はい。ギルド長がエテルノさんをお呼びです。えっと……ご、ご案内いたします……」
「……よろしく頼みます」
何なのか分からないがとりあえず怒られるような感じでは無くて良かった。
ミニモに担がれたままで俺はギルド長の元へと向かうのだった。
ところでこれ、いつ下ろしてくれるんだろう。