ディアン(元副ギルマス)
「エテルノさん、ほんとに行くんですか?私としてはあんまりお勧めしたくないんですけど……」
「いや、悪いが行かなくちゃいけないんだ。ミニモもなんなら帰っても良いぞ。ここまでくれば後は魔法でどうにでもする」
「んんんー……でもしょうがないですから、最後まで付き合いますよ。エテルノさんがそこまで言うんだったらしょうがないです」
「悪いな。そうしてもらえると助かる」
怪我が治ってきてすぐの話だ。
俺は体の調子が戻ってきてすぐにミニモの助けを借りてディアンの元へと向かった。
ディアンは地下道から出てきてすぐに捕らえられ、今では幽閉されているというのだが……
「お、結構町も直って来たな」
「ですね。あそこまで壊されつくしたにしては相当早くて……皆さん、頑張ってるんでしょうね」
町並みを見渡すと、すでに活気が戻ってきているように思えた。
破壊された住居の跡地には即席ながらも魔法で作り上げた家が並び、子供たちが走り回っている。
少し前まで襲われていた町とは思えないほどの活気だ。
「……よし、ここだな」
たどり着いた場所は町の端の端。小さな物置小屋のような場所だ。
その扉の前に立っていた騎士に挨拶をして俺は中に入る。
「……む、エテルノじゃな。お主までここに来たのかの」
「え?」
ディアンは奥の壁に手かせ足かせをされて拘束されていた。
問題は、ディアンの前に居た少女--いや、少女ではない。サミエラだ。
幼女のような見た目のエルフ、トヘナの元仲間で孤児院の経営者。サミエラがそこに居た。
***
「なるほどのぅ、お主らもディアンの様子を見に来たか」
「まぁそれ以外にこんな場所まで来る理由も無いしな」
サミエラは少し嬉し気に頷きながら俺達の話を聞いていた。
聞けば彼女は、フリオとディアン、双方の育て親のようなところがあったらしい。
孤児院を出てもディアンとはこまめに連絡を取っていたのだとか。
そりゃディアンの様子を見に来るわ。どうせだったらサミエラと鉢合わせないように時間をずらすべきだった。
そんなことを思いつつ俺は言葉を続けた。
「なぁ、ディアンのこの後の処遇なんだが、どんなことになるかだけでも教えてくれないか。俺は少し外に出れてなかったから、今どういう状況だって言うのも分かりにくくて……」
「別に構わんが、それ本人の居る前で聞くかの?」
「……確かに」
自分の処罰の方法を事細かに目の前で話されてる、なんてことになったらディアンもたまったもんじゃないよな。
場所を変えるか。
小屋の中を飛び回る蠅を手で払いながら俺が小屋を出ようとしたその時だった。
「エテルノ、次来るときは、フリオを呼んできてくれないかな」
「……は?」
見ると、先ほどまではただ黙って拘束されていたディアンが顔を上げてこちらを見据えている。
「……なんでだよ。お前とフリオをわざわざ会わせてやってもいいことなんて--」
「違う。違うんだよ。謝らなきゃいけないんだ。フリオに謝らなきゃいけない。だからフリオをここに連れてきて欲しいんだ。……できれば、テミルも」
「えっと……ど、どういうことだ……?」
「そうなんじゃよなぁ、わしが来てからもずっとこの調子でのぉ……」
演技ではないように、思えた。ディアンは本気で言っている。そんな確信があるのだ。
でも、いったい何故?あれほどまでにフリオを目の敵にしていたディアンがここまで言うなんて何があったのか?
「……いや、ほんとにちょっとしたことなんだよ。気にしないで欲しい」
んんん……まぁ、気になるが、良いか。
テミルはともかくフリオだけなら声を掛けるだけかけてやっても良い。
「あれ、そういえばディアンさんはそこまで罪に問われないんじゃなかったでしたっけ?」
「そうなのか?」
「はい。なんか、町を壊した主犯は死霊術師ですし死人も出なかったので……」
「あー、確かに……」
町を壊したのはバルドの死体達だし、言われてみるとディアンがやっていたのなんて大したことな--
「え、今死者ゼロって言ったか?」
「言いましたよ?」
「……え、いや、それは良いことなんだけどそんなことあるか?」
「うーむ、まぁ奇跡的に誰も死ななかった、とかじゃないかのぉ」
いや、だとしても町一つ壊滅してるのに死者ゼロだなんてそんなこと……
「誰かが凄く頑張ったんじゃないですかねぇ」
ミニモは適当にそんなことを言っているが、だとしてもだ。
彼女が治癒魔法をかけるために街を奔走していたというのは聞いたが、だとしても死者ゼロ……
「……うーむ、まぁそれが本当なら良いこと……だな……?」
「エテルノさん、嬉しいですか?」
「まぁ……」
「良かったです」
いや、良かったですって言ってもなぁ……。
良いことではあるんだが拍子抜けというか何と言うか。
……まぁ良いか。考えてもしょうがない。
「あ、というかサミエラ、あとで暇あるか?」
「む、何かあるなら予定を開けはするけれども、なんじゃ?」
「いや、ちょっとな。明日でも何でも良いから暇なとき呼んでくれ」
「う、うむ、分かったぞ」
サミエラにも少し、トヘナの事とか話しておくとしよう。
トヘナもその方がきっと浮かばれるだろうからな。
「あー……じゃ、ミニモ、帰るか」
「はい!分かりました!」
ミニモに声を掛けて身支度を整える。
そうして、ミニモが俺を軽々と持ち上げた。
この状況に驚いたのはサミエラだ。
「なっ……?何やっておるんじゃ……?!」
「何って……エテルノさんを連れて帰ろうかと……」
「えっ、え?!お主はそれでいいのかの?!」
「慣れた」
今のところ俺は歩けないからな。基本はミニモに抱えてもらって移動になる。
大丈夫、恥ずかしいのは最初だけだ。今となってはどうということも無い。
「じゃ、またなサミエラ。ディアン」
「お主はそれでいいのかの……?」
「……良くは無いよな……」
良くは無いが、まぁ今だけは我慢しよう。
遠のいていく皆の視線を感じながら、俺はため息を吐いたのだった。