外は大火事、中は洪水
「よし、そっち頼んだ!」
「分かったわ!」
トヘナが火炎を放ち冒険者達を分断する。
冒険者たちは、というよりも冒険者達の体を操っているスライムたちは、あまりの炎の熱さに悶えているように見えた。
冒険者がのたうち回り、口からヘドロのようなものを吐き出した。
「……スライム、か……?」
赤黒く染まるそれはべったりと地面に張り付き、動く気配がない。
俺はトヘナに叫ぶ。
「トヘナ!続けてくれ!」
「はいはい分かってるわよ……!これも大変なんだからね……!」
スライムが一匹、また一匹とダンジョンに転がっていき、俺はスライムを吐き出した人間を回収。回収した人間はスライムに襲われないよう炎の壁で包んで置いておく。
……まぁ火傷くらいはするかもしれないがそこは許してもらおう。
残念ながら俺にはこういう人助けは向いてないのだ。
と、その時だった。
スライムを吐き出して横たわった冒険者達の中からふらふらと起き上がる影があった。
「……は……?な、なんだよこれ……」
起き上がったのはバルド。その顔には今まで見たことが無いようなうろたえが透けて見えた。
「おい、な、なんでこれ……?!」
「バルド、大丈夫だから少し落ち着いてくれ」
「なん、なんなんだよお前!?皆をこんなにして、よ、よくも……!」
「おい、落ち着――」
怪訝な目でバルドを見つめた時だった。
バルドが剣を握り、こちらへと構える。
「エテルノ君?!大丈夫なの?!」
「……そういやバルドはこんな奴だったか……」
めんどくさい。バルドが今更俺に勝てる訳も無いのに。
「エテルノ、だな。覚えたぞ……!こんなことをしてただで済むと思ってるのか?!」
「トヘナ、とりあえずそっちに集中しててくれ。こっちは大丈夫だ」
「聞け!エテルノォ!」
バルドの方を向き直る。剣を握ってこちらを睨みつけるバルドは、今となっては酷く小さいものに思えた。
つか今、エテルノって名前を覚えるだとかほざいたか?
以前も同じパーティーだったというか、そもそも俺がこんなになった元凶はお前なんだが?
喉まで出かかった言葉を呑み込んで、俺はどうにか説得を試みる。
「あー……バルド、俺たちは味方だ。お前にも寄生していた、このスライムを倒そうとしてる。出来れば協力を--」
「あり得ない!」
「……」
「こんなスライムまで用意して皆を襲うだなんて、卑劣にもほどがあるだろ?!お前らはどこまでも……!」
あぁ、話聞いてないなこいつ。
バルドはトヘナの方を向いて言う。
「そっちの女はこないだのキチガイか!?道理であんなに訳の分からないことを言っていたわけだ!」
「ちょっと、なんですって?!ブチ殺--」
「落ち着け」
キチガイ呼ばわりされてご立腹なトヘナと一層煽っていくバルド。
頼むからスライムの相手の方に集中してくれ。
さて……ほんとにこいつ助ける必要あるのだろうか。
ちょっとやる気は無くなってきたが……。
「ま、しょうがない。バルド。助かりたいなら大人しくしててくれよ」
「っふざけるな!俺を馬鹿にしてるのか?!」
「いや、馬鹿にするも何も今状況だとお前はただの足手まといなんだが……」
実際バルドの実力はほぼほぼCランク冒険者のそれと同等。
ここで無駄に働かれる方が状況をかき乱すし、邪魔でしかない。
だからここで大人しくしてもらって--
「見ろ!他の奴が炎に巻かれてるじゃないか!?こんなことをしておいてよくも平気そうな顔をしていられるね?!」
「いや、それはしょうがな--」
スライム退治に炎は必須なのだ。ダンジョン内で炎を使うことのリスクや火傷を負うことになるであろうことまで理解したうえで俺たちは炎を用いている。
バルドが、倒れこんでいる冒険者に杖を向けた。
「--これだから、自己中心的な冒険者は嫌いなんだ」
「は、え?ま、待てバルド……!」
バルドが詠唱しているのは水の魔法。
しかも、広範囲に及ぶ魔法だ。
今そんなものを使われるのは非常にマズイーー
「息吹よ、生命の泉よ、ことごとくの涙を押し流せ!泉水仙遊!!」
水がほとばしり、炎がことごとく消し止められる。
トヘナが焦るようにこちらを見る。が、こうなってはどうすることもできない。
俺はすぐにスライムを吐き出した冒険者達を魔法で宙に浮かせ、トヘナに合図を送った。
言うまでも無い。撤退だ。
「おい待てお前ら!俺が逃がすと--」
ゴボリ、と水音が響いた。
「は?なん--」
バルドのすぐ背後には、赤黒く濁ったスライムが居た。
スライムの体はほぼすべてが水分で構成されているという。
だからじめじめした場所を好み、炎を嫌うのだが……こんな場所で水を撒いたら、そりゃそうなるよな。
幸い既にスライムを吐き出した冒険者達の中にはシュリやネーベルも含まれている。
バルドも目を覚ましていることだし、ついてきたければついてくればいい。
全員を救えなかったのは残念だが、少しでも救えただけで上々だ。
急いで逃げようとした、その時だった。
「待て!シュリ!ネーベル!」
バルドが叫ぶ。
宙に浮かぶネーベルが無理に身じろぎをし、俺の魔法を解除したのはその瞬間だった。
「ネーベル……?!」
「エテルノ君、駄目だって……!」
シュリも一歩遅れてバルドの元へと駆けだした。ネーベルが、シュリが、バルドをかばうように立ちふさがる。
が、スライムにそんなことは関係ない。
俺が火炎を放つのも一歩遅く、火炎がたどり着く前に三人はスライムの中に消えた。
うおぉ、ブクマが100件を超えました!ありがとうございます!
そんなにたくさんの方がこの作品を見守ってくださっているとは……。
好きなように書かせていただいている小説ですが、もっと頑張らなきゃな、と思いますね。
もっとエテルノに酷い目に合ってもらわなくては……。
今後も、自分の好きなように書いていくつもりではありますが、少しでも皆さんに楽しんで読んでいただけるように頑張りますので、引き続きエテルノ達の行く末を見守っていただけると嬉しいです!
夜恐でした!