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モンスターハウス攻略依頼

 モンスターハウス攻略当日。

 この依頼のために何人もの冒険者が集まり、ギルドはこれ以上ないほどに人で溢れかえっていた。


「……」


 そんな中、俺は周囲を見渡す。

 目的はもちろんバルドとシュリ、ネーベル達を見つけるためだが……


「……居ないな」


 と、そこにトヘナが戻ってくる。彼女はギルドで受付をしてきてくれていたのだ。

 なにやら受付で渡されたらしい書類を俺に差し出しながらトヘナは言った。


「あっちではシュリちゃんとかネーベルちゃんは見かけなかったわよ。だからそんなにきょろきょろするのはやめなさい?向こうにも気づかれるわよ?」

「……そうだな。控えておくか」

 

 どうせこの後ダンジョンに潜るのだ。探す機会なんていくらでもある。

 そう考えると確かに今焦って探す必要は無いように思えた。


「じゃ、行くか」

「そうねぇ。モンスターハウス……って言うと何か必要なものってあるかしら?」

「いや、俺らの仕事はあくまで仕留めきれなかった魔獣の始末だからな。がっつり戦うってことは無いと思うぞ。受付でもこの程度の説明はあったと思うが……」

「ほへぇ、まぁ装備は整えていかなきゃかしらねぇ」

「なんだその声」


 さては良く聞いてなかったなこいつ。……いや、まぁ良いけど。

 俺はトヘナとパーティーを組ませてもらっている立場な訳だからな。文句はほどほどにしておかなければなるまい。


 それに、トヘナとパーティーを組んでみて、色々と新鮮に感じたこともある。

 例えば色々雑務をやってくれるところとか。俺が今までいたパーティーでは中々ない経験だった。基本雑用は俺だけだったからな。


 ……そう言えば以前はネーベルが手伝ってくれてたりすることもあったな。

 今となってはどうでもいいことではあるのだが。


「あ、エテルノ君、ちょっと先に行っててくれる?」

「別に良いけど……どうした?」

「ちょっと可愛い子がいたから声かけてくるわ!」

「聞くんじゃなかったわ」


 手を振って離れていくトヘナを黙って見送る。とりあえずあいつは……まぁ大丈夫だろう。慣れてるだろうし。


 トヘナが帰ってくるまで時間を潰そうと、俺は魔法の指導書を読み始めたのだった。


***


「全然戻ってこねぇ……」


 ダンジョンに入るほんの数分前、俺は未だにトヘナの帰りを待っていた。


「嘘だろあいつ……」


 時間は守るタイプだと思ったんだが……。

 さて、どうしようかな。もうギルド長の説明が始まりそうなのだが……


 と、そんなことを考えていた時遠くから困り顔のトヘナが歩いてきているのが見えた。

 隣には男がいる。なるほど、ちょっとこれは許せないな。ふざけた理由で遅れやがって。

 まぁ何はともあれ連れ戻さなければ。


 さっさと立ち上がってトヘナのところまで近づいていく。


「……は?」


 そして、近づいて行ってようやく気づいた。

 トヘナの隣の男には興味は無かったが、ちらりと顔が見えて思わず見つめてしまう。


 男は、不機嫌そうに言った。


「……なんだお前。何か用か?」


 見覚えのある顔。一度たりとも忘れることは無い、復讐の対象。


 --バルドだ。ここまでどこを探しても見当たらなかったバルドがここにきてトヘナと一緒にやって来ていた。


***


「……なんだお前。何か用か?」

 

 バルドの言葉に思わず硬直する。

 まずい。俺が居ることに気づかれ--


「……あれ?」


 バルドはただ不機嫌そうにしているだけで何も言ってこない。

 ……なんだお前、って今言ってたよな?

 もしかしなくてもこれ、俺の事忘れてるのでは……?


 とりあえず、かまをかけてみる。


「……は、初めまして」

「あぁ、うん。初めまして。で、何なの?さっきからじろじろ見てこられててうっとおしいんだけど」

「いや、俺の連れが迷惑をかけたみたいだったから……」

 

 なるほど、これは完璧に忘れられてるな。

 好都合と言えば好都合なのだが何か複雑な気分になる。

 

 状況に頭がついてかないがとりあえずトヘナだけでも回収しなければ。


「ほらトヘナ、何やってんだお前……」

「へぇ、君トヘナちゃんって言うんだ。いい名前だね?」

「っ……!」


 しまった、俺としたことがバルドの前で名前を言うなんて迂闊な真似を……!


 トヘナはのぞき込んでくるバルドから視線を外し、若干涙目になっている。

 どうすればいい。力でどうにかするという訳にもいかないし--


 その時。


「--それでは本日お集まりの冒険者の皆さま!依頼の最終確認を--」

「……残念、また来るよ。じゃあねトヘナちゃん」


 ギルド長の説明が始まり、バルドがそれまで掴んでいたトヘナの手首を離して人混みの中に消えていく。


 依頼開始前の、薄暗い早朝の話だった。


***


「は、はぁああああ……怖かった……」

「……で、何があったらバルドに絡まれることになるのか教えてもらおうか?」


 ギルド長の説明が終わってバルドに遭遇しないように急いで宿まで帰ってくる。

 またあいつに絡まれるのはごめんだからな。


 ようやくトヘナも緊張が解けたのか近くの椅子にもたれかかって言う。


「彼、私が三人目の子に声かけてるところに急に割り込んできてね……」

「三人も迷惑かけたのか」

「で、私って彼と実際に会ったことは無かったじゃない?エテルノ君の想像でしか聞いてなかったわけだし」

「そう言えばそうだな」


 バルドの話は散々したが、そう言えばトヘナはバルドと会ったことが無いのだった。

 ……それで、知らなかったからナンパにほいほいついて行った、と。


 俺が怪訝な目を向けているとトヘナが疲れ果てたような声で言う。


「何を考えてるのか何となくわかるけど、違うわよ。あんな男こっちから願い下げだわ」

「じゃあなんで一緒に居たんだよ」

「だから向こうがついてきたんだって!」


 うーむ……まぁトヘナはバルドに対して否定的な見方をしているし、やはりトヘナの言う通り単純に絡まれていた、とかか……?


「で、会ってみて初めて分かったわ。彼最悪ね。シュリちゃんとかネーベルちゃんとかも貴方と同じ被害者よ多分」

「……ん?待て、どういうことだ?」


 深刻そうに言う態度に違和感を覚え、俺は質問を投げかける。

 トヘナは答えた。


「魔法なのかスキルなのかは分からないけど多分彼、人を『魅了』する系統の力を持ってるわ。それも飛び切り強力なやつね」

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