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再燃、再戦、拍手喝采

「舐めるなよクズが……!」

「うるせぇな……。というかバルド、お前もうちょい動けないわけ?仮にもAランク冒険者だろ?」

「っぐ……!」


 バルドが苦虫を噛みつぶしたような顔をしているが、そんな顔をしても実際バルドの実力は俺のはるか下なのだからしょうがない話だ。


 実はバルドの実力はAランク冒険者どころかBランクもギリギリ、といった風な実力しかない。


 派手な魔法を扱うだけならCランク冒険者でもできる。

 冒険者に必要なのは最低限の力で敵を倒す能力なのだから、バルドの魔法は見栄えが良いだけの飾りに過ぎないのだと今の俺は知っていた。


 そんなバルドがAランク冒険者としてやってこられたのは仲間が強かったから。

 俺の時がそうだったように、バルドは色々なパーティーに入りつつ寄生するような形で自分の冒険者ランクも上げてきた。

 

 これが判明したのは俺のスキルの詳細が明らかになってからだ。

 『俺を追放したパーティーの中で一番強い人間に追いつくまで成長速度が上がる』という俺のスキルの特性上、一時期はバルドに追いつくまで成長速度が上がっていたと予想できる。

 だが、実際に身に付いたのはAランクどころかCランク冒険者程度の実力。

 推測するに、バルド一人だけの実力はCランク冒険者程度だったという訳で……


「お前、そんなんでよくあんなにドヤ顔出来たよな……」

「何だと?!」


 怒っているのだろうか?……いや、怒ってるんだろうな。

 そのせいで愚直に俺に向かってくるバルドの攻撃は一向に当たらない。

 俺も今となってはSランク冒険者と釣り合うぐらいには強くなっているわけだからな。

 バルドだけにやられることなんてありえない。


 大振りの剣は簡単に受け流し、足払いをかけてやる。

 バランスを崩すバルドは隙だらけだ。

 すぐに蹴りを入れて距離をとってやった。


 ……とはいえ死霊術自体は脅威なので死体とは引き離したわけだが。

 あそこまで多くの死体達を相手取れるのはそれこそアニキぐらいの物だろう。こんなことなら連れてくるんだったな。


 そんなことを考えながらもバルドに魔法を撃ちこんではいるのだが……当たらない。

 シュリとネーベルが的確にバルドをかばっているからだ。

 ただの死体だと分かっていても攻撃しづらい。そのせいで俺からの手数は少なくなるし、バルドの攻撃は当たらない。


 要するに、膠着状態になっていた。


「おいおい、どうしたエテルノ!俺に全然攻撃が当たらないようだが?!」

「お前は攻撃しなくても自滅してくれそうだからな」

「はぁ?!殺す!降りてこいこの卑怯者!」

「ここで降りていくのはお前みたいな馬鹿だけだ」


 天井に張り付いた俺に石を投げつけるぐらいでしか対処できないバルド。

 やっぱりこいつは数が無いとただの雑魚だ。


「さて……そろそろちょっとずつ仕掛けるかな」


 地味な戦いこそ冒険者の本分だ。派手にやる必要はない。罠を仕掛けてバルドの自滅を待つ。


 今のところ頭に血が上ったバルドでは俺の仕掛けている罠に気づいた様子は無い。

 あとは、このまま耐えるだけで俺の勝ちだ。

 ……と、その時だ。


「--エテルノ!俺の勝ちだ!」

「は?」


 バルドが勝ち誇ったように言った。その真意は俺には理解できず、どうでもいいことのように受け流そうとした瞬間、背後から突き飛ばされるような衝撃が襲った。


「……?」


 焼けるような痛みを感じ、自分の足を見下ろす。


 無かった。無くなっていた。右足が太ももの辺りから強力な力で捻じきられたような跡を残して消滅していたのだ。


「っぐ……?!」


 事態を呑み込めないままに脱出経路に走る。無くなった足の代わりに土魔法を使って自分の体を吹き飛ばすようにして進む。

 もちろん、バルドがそんなことを許すわけが無かった。


「おいおい、どこ行くんだよエテルノ!逃がすわけ……無いだろっ!!」


 バルドの魔法で俺の行く手を炎の壁が塞ぐ。

 見栄えだけが派手な魔法。とはいえ流石にここに手負いで突っ込んで行けるほど俺も馬鹿ではない。


 バルドの背後には見慣れない巨大な影が見えた。


「……なんだ、それ」


 思わずそんな言葉が口をついた。

 バルドが従えていたのは魔獣だ。鋭い牙、爪、赤色に輝く眼。

 そのどれもが、俺の知っている魔獣には存在しえない特徴だった。


「死体ってのは別に新鮮じゃなくても良いんだよ」


 バルドが語る。


「例えばそれが、ギルドが努力の末になんとか討伐した魔獣の死骸だったとしても構わない。蘇らせれば俺の戦力になる。呼び出しが間に合ってほんと良かったよ」

「……」


 動かない。というより動けない。

 声も上げられないほどの痛みが襲い、既に俺は立ち上がれないほどになっていた。


 とはいえ--


「俺もこの程度で諦めるほど落ちぶれちゃいないんでな!!」


 少し早いが、まぁ良い。

 魔力を全て使い切ってでも、どんな手を使ってでも、倒す。倒さなければならないのだ。

 俺の魔力は炎に代わり、地下通路内を埋め尽くす。

 バルドの魔法なぞ比べるまでも無く、通路の壁を炎が走り抜ける。


 先ほど仕掛けていたのはこの炎が走るための目印だ。

 出来るだけ効率的に、隙間が無い様に、通路を炎で覆いつくす。


 本来なら使うべきではない魔法だ。だが、これでいい。


「あっっつ……?!エテルノお前……!まだ何か仕掛けて……!」

「ははは!全体魔法ならやっぱり生き残れそうにないか?!ここで焼け死ね!」

 

 ……ま、割とこの状況は俺もピンチなんだけどな。

 狭い場所で炎魔法を使ってしまうと呼吸が危うい。


 さて、ここからはどうなるか運次第だ。

 俺はそれまで持っていた剣を近くの炎で熱し、自分の傷跡を焼いた。


「っぐ……が……!」


 痛い。分かっていたけれどめっちゃ痛い。

 だが止血を先にしておかないとこれからの作戦も危ういからな。

 多少は魔法で痛みも麻痺させておこう。


 あぁ、ミニモが居ればこんなことにはならなかっただろうに。あいつが居ないのがここまで惜しいと思う日が来るとは思わなかったな。


 ……とはいえ、ミニモがいたとしても俺の復讐には巻き込みたくなかったからな。これで良かったのだろう。


「バルド、悪いがこの通路は封鎖させてもらった。後はここで死ぬのを待つだけだ。俺も、お前もな」

「なっ……?!」


 グリスティアには悪いことをしたが、これでいい。

 本当ならもうちょい何とかなりそうな気はしてたから差し違える必要も無いかと思ったんだが……。

 

 心残りがあるとしたら……シュリとの約束を果たせなかったことぐらいか。 

 まぁ、その約束についてはもう時効だろう。さて、どうするかな……


「……ま、足を引っ張るのは得意なんだ。嫌な長所ではあるが頑張らせてもらう」

「エテルノお前……!僕を舐めるなよ……!」


 バルドが合図を送り、死体達が俺をバラバラにしようと向かってくる。

 猛火の中、俺はただ不敵に笑った。


***


「おいシェピア、これどうするんだ?」

「どうするって、普通に魔法で突破するわよ」

「そういうことじゃなくてだな……」


 通路に入ってから数十分、俺たちは通路を塞ぐ土の壁に遭遇していた。


「多分グリスティアあたりが作ったんでしょこれ。突破するのに不便は無いわよ?」

「グリスティアが作ったんなら壊さない方が良いんじゃねぇのか……?」

「む、それはそうじゃがここを進まんでどうやってフリオの元へたどり着くんじゃ?」

「そうは言うけどよ……」


 サミエラはそんなことを言っているが、俺としては複雑な心境だ。エテルノやらグリスティアやらミニモやら、あいつらが関わったことに首を突っ込むとろくなことが無い。


 と、テミルが言った。


「アニキさん、わ、私はこの先に進みたい、です。フリオ君もディアン君もいると思うので……」

「ほら、多数決よ!多数決で先に進むことに決定!」

「また雑な……」


 俺に有無を言わせぬシェピアの口調に反論しようと思ったのだが……ま、良いか。

 身を守ることに関しては俺のスキルがあれば問題ないのだから。


 と、爆音が鳴り響いて土壁に大穴が開いた。


「はい、行くわよ」

「穴開ける前に何か言えよ」


 そして、薄暗い穴の向こうからはわらわらと死体達が--


「やっぱりこうなったな?!」

「分かってたんなら言いなさいよ馬鹿!」

「言いましたけど?!」


 理不尽な叱責をスルーしてスキルを使いまくる。


 収納、収納。

 溢れ出した死体をどんどん収納していく。と、倒れる人影が見えた。


「……おい、あれディアンじゃねぇか?」


 見覚えのある人影だった。端正な顔立ちは傷だらけ、青い長髪は血に濡れて面影はないが、確かに副ギルマスのディアンだ。


「ディアン君!?大丈夫ですか?!」


 その姿を見てすぐにテミルが駆けだし、俺たちはその後を追うのだった。

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