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底なし沼での落とし物

 その後は色々な街を巡った。

 俺の驚異的な成長速度のおかげで冒険者ランクも上がり、色々なパーティーに入ることもできた。

 やがて成長は止まったとはいえ、とてつもない幸運があったものだ、などと考えていたものだ。

 ……まぁ、真面目に俺を受け入れてくれるパーティーを探したのは最初の一回だけだったが。


 なんだかんだあって、シュリ達と別れて初めて所属したパーティーも結局は追放されることになった。

 これは全くの偶然だったのだが、結果として良い偶然だったと言えるだろう。

 

 俺が追放されるほど強くなるというスキルを持っていることを知ったのもこの時である。


***


 二つ目のパーティーも追放され、俺はトヘナの元へと戻って来ていた。

 とはいえそこまで思い入れも無いパーティーを追い出されただけの話。

 悲しさというよりは俺を追放した奴らへの怒りが勝っていた。


 拳を握って怒りをこらえる俺にトヘナが話しかける。


「エテルノ君、ちょっとコツ教えるからこれ、やってみてもらっていい?」

「なんだよ?」


 トヘナが渡してきたのはちょっとした戦斧の入門書。

 とはいえ俺は戦斧を使ったことは無いのだが……


「……少し癪に障るな」


 俺を追放したパーティーのリーダーの武器が戦斧だった。

 戦斧を振るう奴の姿がちらつき、トヘナを睨みつける。


「こんなのに何の意味があるんだよ。第一こんなことをしたところで--」

「いいからやってみなさいよ。年上の言うことは聞いておいた方が得よ?」

「……」


 ページをめくって手ごろな技を見つける。

 動きを図解で説明しているようだ。


 あぁ、この動きは少し剣を扱うのに似ているな。

 とするならば……


「こうか?」


 戦斧代わりに木剣を振るう。違和感があった。


「足の向きが悪いみたいだな。それならもっと踏み込みを深く……!」


 次に振るった剣からは確かな手ごたえがあった。

 トヘナの拍手が耳に入る。


「なんだよ?」

「今の技、完璧に経験者のそれだったわよ?ほんとに戦斧は初めてなのよね?」

「そのはずだが……」


 よく考えてみると、こんなにすぐに理解できるようなものでもないのは確かだ。

 この妙な感覚には覚えがあった。


「前にエテルノ君が追放されたときも、こんな感じで呑み込みが早かったわよね?」

「……そうだな」

 

 俺の考えていたままのことをトヘナが言う。

 確かにあの時も片っ端からいろいろな技術を身に着けることができた。

 呑み込みが異様に早い、とでもいうべきなのだろうか。追放後は成長速度が明らかに早すぎるのだ。


「エテルノ君、せっかくだしもっかい追放されてみてくれない?」

「は?」

「なんかそう言う、悪い子たちが作ってるパーティーなら一カ月ぐらいで追放してくれると思うのよね。どうかしら?」

「い、いや、ちょっとそれは……」


 追放されるというのは案外心に来るものだ。それを何度もというのは……想像するだけで寒気がする。


「大丈夫よ。悪い冒険者の集まるパーティーに協力してもらうだけなんだから、後でやり返ししたければすればいいじゃない?誰にも迷惑は掛からないわ?」

「そうじゃなくてだな……」


 そんなことより、俺のこの成長速度の謎をもう少し……


「エテルノ君は強くなりたいんじゃなかったかしら?」


 畳みかけるようなトヘナの言葉に俺は口をつぐんだ。

 シュリ達に追放されてからというもの、俺の目標は『強くなること』だけになっていた。

 バルドを倒そうとした時に手段は選ばないと誓ったことを思いだす。


 であれば。


「そうだな。この成長速度の謎が『追放されること』にあるとしたらもっと詳しく調べないといけないかもしれないよな」

「でしょ?ま、私の情報網はちょっとしたものだから泥船に乗った気でいなさい!」

「泥船は沈むだろ」


 ま、トヘナの諜報能力は相当なものだというのは俺も知っている。悪徳パーティーに入って追放される。

 追放されたら成長し、復讐。


 ……悪くない気がしてきたな。悪人を懲らしめる、と考えればいいのか。


「分かった。頼めるか?」

「もちろん。いやぁ、長く生きてきてこんなこと初めてよ!ワクワクしてきたわ!」

「……ほどほどにな?」


***


 その後俺は一人で特訓、トヘナは情報収集と分担しながらいろいろなことを知った。


 俺のスキルはまだ分かっていないこともあるが、おかげでここまで辿り着けたことは間違いない。感謝しても感謝しきれないな。


「さて……」


 溢れ出てきていた思い出を断ち切り地面を踏みしめる。

 眼下ではバルドがこちらに向かって歩いてきていた。


 地下通路の天井をくりぬいてその中に俺は隠れている。

 バルドがそれに気づいている様子は無い。


 ただ、息をひそめてその時を待った。


「……シュリ、ネーベル」


 バルドの横を二人、いや、二人というのはおかしいか。シュリとネーベルの死体が歩いていた。

 彼女達を殺したのは俺だ。


 そんな彼女達を蘇らせ……いや、これも違うな。あの死体に魂は宿っていない。

 彼女たちの死体を侮辱し、死を辱めたバルドのことは許せなかった。本来ならバルドも死んだはずだったのだが--


 まぁ良い。バルドがちょうど俺の足元に踏み込んだ瞬間、魔法を炸裂させた。

 地割れが地下通路内を走る。


「な、なんだ?!」

「--こっちだバルド!」


 粉塵に紛れて、とてつもない揺れによろめいたバルドに近づく。


 振るった剣には残念ながら手ごたえは無かった。


「ッッ!エテルノ!相変わらずやることが卑怯だな!だけど無駄だ!その程度で俺を殺せると--」

「ん?思ってないけど?」


 そもそもこれだけ死体が周りをうろついてるのにバルドに攻撃を当てられるわけ無いだろう。

 つまり、おとりだ。俺がわざわざバルドを切りつけて注意を引いたのには理由があった。


「なっ……?!」


 バルドの体が宙に打ち上げられる。否。打ち上げたのだ。


「ほんと古典的な魔法に引っかかるよなぁ」


 簡単に言ってしまえば浮遊魔法。一瞬でもバルドが宙に持ち上がれば占めたものだ。


「連続で畳みかける……!」


 張り巡らせるように地下道内に壁を作る。目的はもちろん分断。圧倒的な数の死体と別れたバルドは必死に両手を伸ばした。


「シュリ!ネーベル!」


 シュリとネーベルがバルドの求めに応じるかのように手を伸ばし、バルドが二人の手を掴む。

 その光景が酷く俺の胸を痛めつけた。


「生命よ!原初の荒れ狂う海神よ!すべてを押し流すが良い!!汚濁帰海戦塵流!!」


 詠唱。天井から流れ落ちる圧倒的な汚泥で死体達を押し流し、はるか彼方へ隔離する。


 残念ながらシュリとネーベルの死体が残ってしまったが、これでバルドとの一騎打ちが成立するわけだ。

 死霊術を使ったところで操れて二人。そしてバルド本人。


 望み道理の状況だ。物量が無いバルドなぞ、今の俺には恐れる必要すら無かった。


「エテルノお前……!いくら俺の邪魔をしたら気が済むんだこの外道が……!」


 悔しそうにこちらを睨みつけるバルドを見て微笑む。

 愉快。痛快だ。

 俺は言い放つ。


「さ、復讐の時間だ。自分の罪を償う準備は良いか?」


 演者は揃った。さぁ、泥まみれの復讐劇の幕引きと行こうじゃないか。

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