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旅の始まりは未だ遠く

「……ん……」

「あら、起きた?血だらけでベッドに寝かせるわけにもいかないし、悪いけど服とか代えさせてもらったわよ」


 目を覚ました俺にすぐに声が掛かった。


 寝かせられていたベッドから体を起こして周囲を見渡してみる。どこかの宿のようだが……。

 と、自分の来ている服に目がついてため息が出る。


「女物じゃねぇか……」

「あら、駄目だった?」

「駄目だったもなにも無いけどもう少しマシなのなかったのかよ……」


 なんか下がスースーすると思ったんだ。さすがにこんな訳の分からない状況で女装する羽目になるとは思わなかった。


「それしかなかったんだからしょうがないでしょ?流石の私も男物の服なんて持って無かったのよ」

「……そういえばそうだったな。無理言って悪い」


 よく見ると体のあちこちに包帯が巻かれている。薬が塗られた跡だったり、あちこちに手当をされた痕跡もあるのだ。文句は何も言えない。

 痛みも相当マシになっている。

 ベッドから出ると俺は礼を言った。


「……世話になりました。大分マシになったんで……」

「あぁ、いいのいいのもう敬語とか。ちょくちょくため口だったし、そんな変わんないでしょ」

「いや、でもさすがに年上に対してぐらい……」

「ほんと気にしないで。私からしたら皆年下みたいなもんだし」

「……じゃあ言葉に甘えさせてもらおう」


 無駄なところで張り合ってもしょうがない。今大事なのはどちらかというと……

 バルドのことを思いだし、つい俺は顔をこわばらせた。


 と、そんな俺に女冒険者が言う。


「ねぇエテルノ君、真面目な顔しないでくれる?」

「え?どういうことだ?」

「あ、も、もうだめだって……アハハハハ!!恰好面白すぎでしょそれ!」

「ふざけんなこの服用意したのお前だろうが」


 俺の顔を見た途端吹き出されてしまった。いや、面白いのは分かるがな。

 俺は今から真面目な話をしようと……


「じゃあはい、毛布あるからこっち使って。その恰好は流石に目に悪いわ」

「最初からそっちで良かっただろ?!」


 女冒険者から差し出された毛布を見て、さすがの俺も受けた恩義のことを忘れてツッコミを入れてしまうのだった。


***


「え、ほんとに追い出されたの?比喩とかじゃなく?」

「……そうだ」


 女冒険者、いや、さすがにもう女冒険者などと呼ぶのは他人行儀か。

 トヘナ。こいつの名前はトヘナだ。かなりの古参冒険者であり、Aランク冒険者に近いほどの力を持つ女冒険者。

 あちこちで男を漁っていたりする以外はかなり信用できる性格である。


 そんなトヘナは俺の話を聞いて目を丸くしていた。


「え、えっと……そのバルドって奴が来てから半年ぐらいでパーティーを追い出されて、しかもシュリちゃんもネーベルちゃんもエテルノ君を相手にしなくなった、ってことでいいのよね?」

「あぁ。そうだ」

「そ、それはさすがになんかおかしいんじゃないの……?」

「……」


 トヘナの疑問はもっともなのだが、そんなことを言われても俺が疑問に答えられるわけでは無い。

 俺がただ黙っていると、トヘナは気を遣うように言った。


「あ、え、えっと……ごめんね。エテルノ君もつらかっただろうし、こういうこと聞くのは間違ってたわ」

「いや、大丈夫だ。むしろあのパーティーに戻る気は無いからな。どこかのパーティーを斡旋してくれないかと思ってお前を探してたんだ」

「……あら、やっぱり戻らないの?」

「あぁ。シュリもネーベルも俺には会いたくないだろうし。あいつらが幸せならそれでいいさ」


 自分で言いながらもなんとなく違和感を覚える。もちろん、あいつらに迷惑をかけたくないという気持ちはある。あるのだがそれよりも、拒絶されるのが怖かったのだ。これ以上あいつらに近寄って行ってさらに拒絶されるのが怖い。


 最低な、自己保身からくる言葉だった。


「じゃあせっかくだし、私の旅についてくる?私も会いに行きたい知り合いがいるのよね」

「……は?」


 トヘナが自身の長く伸びた髪を弄りながら言う。

 俺には言っている意味が分からなかった。


「えっと……どういう意味で言ってるんだそれ……?」

「ああ、いや、この町出るんだったら途中まで私の旅についてくる?ってことよ。別に嫌ならいいんだけど……」

「……い、いや、行かせてもらう!ついて行かせてくれ!」


 願っても無い話だ。今は一刻でも早くこの町を出てしまいたかった。

 そんな俺がこの誘いを断るわけがない。


「じゃ、さっそく行きましょうか。荷物もまとまってることだし」

「は?」


 ちょっと待て。そんな短期間で荷物をまとめられるわけが……

 

 ふと、違和感に気づく。外の空に昇った日が落ちてきているのだ。

 明らかに夕焼け。

 だが俺がトヘナと出会ったのは夜だった訳で……

 しかも、よく考えてみるとそんな短時間で俺の受けた傷の痛みが和らぐはずがない。


「……俺が倒れてからどれくらい経った?」

「そうね……丸二日は寝てたかしら?」

「なっ……?!」


 丸二日あったということは……


「もちろんその間に貴方のパーティーで何があったのかは調べたわよ?さっきエテルノ君に聞いたのは調査の裏付けをするため。なんか騙したみたいで悪かったわね?」

「……」


 それは……それは荷物をまとめる時間もあったわけだ。俺の考えが読まれていたとしてもおかしくない。

 というか。


「性格悪っ!!」

「あら、酷いわね?事前調査は冒険者の基本でしょ?」


 そうなのだが。そうなのだがそうじゃないだろ。

 俺は早速、こいつの旅について行くことにしてしまったのを後悔することになるのだった。

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