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無に帰す。

「がっ……?!」


 地面を転がされ、途方もない衝撃が全身に伝わってくる。

 立ち上がって来たバルドが何も言わずに、俺の鳩尾を蹴り飛ばした。


「ほら、エテルノ。立ち上がれよ。この程度で満足するわけ無いだろう?」


 何度も、何度も蹴られ続けている状態で立ち上がれる訳がない。

 俺に出来るのはただただうずくまり、少しでも攻撃の衝撃を和らげるだけだった。


「バルド、大丈夫?!怪我してたらすぐ治すから見せて!」


 ネーベルが駆け寄ってきてバルドが俺から離れる。ネーベルは泥で汚れたバルドの顔を自身の服で拭き取っているようだ。

 

 その隙をついて俺は何とか立ち上がる。ネーベルには聞かなくてはいけないことがあった。


「……ネーベル、さ、さっきの魔法はお前がやったんだよな……?」


 先ほど俺の動きを止めた魔法。あの場であんなことができるのはネーベルしか……


「うん、そうだよ?」

「な、なんで……!」


 あれさえなければ今頃こんなことにもならずにバルドに追撃を叩き込めていた。追い詰められていたかもしれないのに。

 何故。どうしてなんだ。

 

 ボロボロになった体に走る痛みを無視し、俺は問いかけた。


「なんでって……そんなの決まってるよ。バルドに何かあったら困るでしょ?だから……」

「そうじゃないだろ!それならなんで俺がやられているときは何もしてくれなかった?!」

「大きい声出さないでよ……。私もそりゃ、エテルノ君が可哀そうだなとは思ったけど……」

「だったらなんで!?」


 どうして助けてくれなかった。どうして前みたいに俺を見てくれなかった。どうして邪魔をした。どうして--


「だって、エテルノ君がこんな人だと思わなかったから。人を傷つけてあんな、嬉しそうにする人だとは思ってなかったよ」

「は……?」


 おかしいだろ。なんで俺が悪いみたいなことを……いや、お、俺が悪いのか?どこが?何が駄目だった?また何かを間違って……


「そ、それじゃあバルドはどうなんだ?!バルドが俺に荷物持ちばかりさせて……!」

「それはエテルノ君のためにやってたことでしょ?なのにいっつも文句ばっかりで……」


 違う。ネーベルも、シュリも、バルドに騙されてるんだ。

 そうでもなきゃここまで一緒にやって来た俺をこんなに短時間で、こんな扱いをすることなんて--

 

「--最低だよエテルノ君。ほんと、もっと早めに気づければよかったのに」




 それから先は、覚えていない。


 ただ、気づいたときには俺はバルドの足元に転がされており、シュリからパーティーを出て行くように告げられていた。

 

「……あー……」


 一人森の中に残され、既に薄暗くなってきている夜空を見上げる。

 遠くに見え始めた一番星の瞬きが、今は何よりも憎らし気に思えた。


「……ぐ」


 歯を食いしばって、近くに落ちていた枝を杖代わりに立ち上がる。

 鈍い痛みが体の限界を告げていた。


「……ほんと、ふざけるなよ……」


 どうも俺が間違っていたらしい。俺がここまでやってきたことはバルドに一瞬で覆されてしまうようなものだったらしい。

 努力なんてものは、純粋な力ですぐに叩き潰されてしまうようなものだったらしい。


 シュリとネーベルは、もう俺なんてどうでもいいらしい。


「ッッ……ふざけるなよ……!」


 誰に対しての怒りでもない。俺の周囲には誰も居ないのだから、周囲にぶつけても仕方ない。


 あぁ、違うか。ここには俺が居るじゃないか。

 俺が弱いから負けた。俺が必要ない人間だったから追い出された。

 俺が嫌われていたから。


 誰も居ない森の奥、俺は叫んだ。




 荷物を取りに宿に帰ると、それまで泊っていた部屋の外に放り捨てられるように俺の荷物が置かれているのを見つけた。

 部屋の中には、もう入ろうとすら思えなかった。


 荷物を取り、そっとその場を後にする。

 

 逃げるように。避けるように。荷物を持つ手につい力が入り、自分の爪が食い込んだ手のひらから血が伝う。


 これからどうすればいいのだろうか。パーティーを追い出されて一人で冒険者を続けていけるだけの実力は無かった。


「……」


 ふと、ある女冒険者が思い浮かんだ。

 俺に時々剣や魔法を教えてくれていた冒険者。

 バルドのことを聞いたときに、また何かあったら相談しに来いと言ってくれた彼女。


 もうそれくらいしか頼れるものが無いのだ。

 俺は覚束ない足取りで夜の街へと歩き出した。


***


 夜遅く。痛む体を抱えるようにしながらもどうにか俺は酒場までたどりついた。

 足を引きずりながら歩いてきた道には点々と血が垂れている。が、それを道行く人間が気にする様子は無い。

 まぁ、慣れ切っているのだろう。冒険者が怪我をしていることなんてよくあることだ。


「……」


 ギルドの扉がやけに重く感じる。

 血が足りていないのだろうか。いや、そこまで血は流していないはずなんだが……


「すまん……邪魔して悪いんだがあいつは居ないか……?」


 俺が入ってきた途端、一瞬酒場が静まり返る。

 が、好奇の目線が向けられるだけだ。俺に手を貸そうとする奴はいないし、すぐに冒険者達の興味はテーブルの上の料理へと移ってしまった。


 とはいえ俺もそれでは終われない。もう一度声を掛けようとした時だった。


「あれ、エテルノ君だ。どうし……って酷い怪我じゃない?!」


 背後。丁度今酒場にやってきたところだったらしい、目当ての女冒険者と再会することができた。


「よかっ……」

「え、あ、ちょっと?!」


 安心してしまったからだろう。俺はそれまで自分を操っていた糸が切れてしまったかのようにその場に崩れ落ちたのだった。

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