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灰になった憎悪

 バルドに向けて魔法を撃ちこんでいる最中。ふと、おぼろげな声が蘇る。

 何度も何度も思い出しながらも年月と共に風化してきた記憶。


「ほらエテルノ!そっちに逃げたって罠にかかるだけだよ!アハハハハハッ!!」

「いや、罠は全部潰しておいたぞ」

「え、嘘?!」


 罠が仕掛けられているのは地下道に入った時点でもう分かっていた。


 途中までの罠がある場所は基本フィリミルが予測してくれたから何事も無くここまで来ることができたのだが、皆と別れてからは自分で解除して進むしかなかった。


 もちろん一人になれば、普段より探索も念入りになるというもの。

 魔法を使って地下道内をコーティングするように壁一面に土の壁をもう一枚重ねた。

 魔力はそこそこ使ったが罠に掛かるリスクは既に無いも同然である。


 そんな余裕を保ったままの俺を見てバルドは唇の端を苦々しく歪めた。


「ほんっとうにうざったいなぁ……!くそ、だからディアンにもっと罠を仕掛けておくように言ったのに……!」

「あぁ、やっぱり罠を用意したのはディアンだったんだな」


 なんとなく予想は出来ていたので、やはりディアンだったか、程度の感想しか浮かばない。


 そもそもこの男、バルドは罠を仕掛けられるほど頭は良くない。単純に自身に備わったスキルと力だけでどうにかしてきた男だ。

 煽られればすぐに冷静さを失うし、攻撃も一辺倒。一対一なら負けることなぞあり得ない。死霊術があると言っても微妙、という感じだな。


 そもそも、数の利を生かすためにはもっと広い場所にいるべきだったのだ。

 死霊術という強力な魔法を扱えるくせに一度に戦える人数が限られる地下道に潜伏している時点でたかが知れる。


「まぁ、俺には好都合なんだけどな……!」


 放った魔法が地下道の天井にぶつかってはじけた。

 

 火球が無数に降り注ぎ、地下道の中を埋め尽くしていく。


「熱っ……?!」


 飛び跳ねて自身の服に燃え移った火を消そうとしているバルド。

 そう。別に死体だけを相手取る必要はない。例えば火を使えば燃え広がった火に巻き込まれてバルドが焼け死ぬ可能性だって出てくるのだ。


「くそ、おいグズグズしてないで早く消せよ馬鹿ども!」


 バルドの言葉に周囲の死体達が動き出す。

 だが死体が何かしたところで更に燃え広がるだけだ。

 追い打ちにもう一度魔法を放ち、俺は一歩後ろに下がった。


 簡単に火を放ったが、実はこれは諸刃の刃でもある。

 狭い地下道の中で火を放てば、当たり前のことながら道全体に煙が充満する。

 グリスティア達ならどうにか出来ると見込んでのことだったが、このままここに居ると俺も危険なのだ。

 

 少しずつ罠を設置しながら、俺は一度バルド達と距離を取るのだった。


***


「っはぁ……」


 肺を満たしている汚れきった空気を絞り出すように俺はため息をついた。


 少し、息苦しい。が大丈夫だ。


 間違いなくバルドは罠を越えてくる。そもそも死体を肉壁にして進んできているのだしかかるはずがないのだから。

 だから仕掛けるとしたらこちらに顔を出したタイミング。


 それも、死体が俺に気づかずに通り過ぎて行ったタイミングで後ろからバルドを襲う必要がある。


 そのため、俺は通路の天井に穴をあけてそこに隠れていた。

 魔法を放ちやすい絶好の場所。急ごしらえではあるが、逃げ道も確保した。

 天井を掘りぬいて足場を確保することで、多少の攻撃にも耐えられるだろう。


「……まだ遠そうだな」


 探知魔法を使ってバルドの居場所を確認。やはり死んではいないようだ。少しずつだがこちらに進んできているようだな。

 進みが遅いのは俺の仕掛けた罠を多少は警戒しているからだろうか。


「あぁ、くそ、気持ち悪……」


 眩暈に襲われ、その場に座り込んでしまう。

 やはり思い出されるのはシュリ、ネーベル。俺がまだ駆け出しの冒険者の頃、スキルも持っていなかったときの話だった。


***


「エテルノ何やってんのよ!だらだらしてないで次の依頼行くわよ!」

「さ、流石にきついって……シュリお前もう少し落ち着いてだな……」

「何言ってんの!依頼が取られたらどうするのよ!」


 俺が冒険者になったのは今から十年ちょっと前。

 村に居た子供であるシュリとネーベルの二人とパーティーを組んでの活動が始まりだった。


「シュリちゃん、エテルノ君も困ってるでしょ?だから今日はもう終わりにしてゆっくり休も?」

「ネーベルまで何言ってんのよ!Sランク冒険者になるんだったらこんなところで止まってられないわよ!」

「えぇ……」


 後ろで縛ったシュリの髪が左右に揺れる。

 ギルドへとどんどん歩いて行ってしまうシュリを、俺とネーベルは追いかけた。

 

 今日こなした依頼は十二件。町の掃除だとか、魔獣に出会うことも無い簡単な依頼ばかりだがここまで数をこなすと流石に疲れる。

 既に俺は家に帰ることを考えていた。


「エテルノ君大丈夫?荷物持とうか……?」

「いや、気にしないで良いよ。余裕があるならシュリがどっかいかないか見張っておいてくれると助かるけどな」

「見てるのは良いけど、私止められないよ?」

「あいつは誰も止められないよ……」

「確かに……」


 パーティーのリーダーはシュリ。魔獣と戦う時は基本は彼女がパーティーの先頭に立っての戦いになる。


 ……まぁ討伐しに行ったことがある魔獣はスライムだけだから剣士も何も無いのだが。剣なんて使わなくても普通に倒せるのだから剣を使う必要は特になく、その時も三人でスライムを囲んで殴り倒した。


 シュリのもう一つの特徴として、行動力がありすぎるというものがある。

 やれる限りすべての依頼をこなしたがるし、なんにでも影響される。

 俺達が冒険者になったのだって、シュリが冒険者になりたいと言い出したのがきっかけだ。


「ほんと、もう少しこっちのことも考えてくれればいいんだけど……」

「んー、でもああいうところもシュリちゃんの良いところだと思うなぁ」

 

 そんな甘いことを言っているのはネーベル。

 彼女は少しだけ魔法を扱える。

 その魔法でパーティーの補助……が出来るようになる予定である。


 今のところ、マッチ程度の火を起こせたりコップ一杯の水を生み出せたりとか、そんなレベル。


 そんな三人で俺の冒険は幕を開ける。

 最初の俺は何もできなかった。

 

 多少の剣の心得はあれど人より秀でたものは何もない。

 情熱ではシュリに負けるし、頭を使うとなるとネーベルの方が強い。

 

 つまるところ、パーティーの数合わせのような存在だったのだと思う。

 二人にはそんな気は無かったかもしれないが、今となっては確かめようもない。

 何より、俺自身あの時はお荷物でしかなかったのだから。




 これは、何も才能の無かった俺が何かを捨て去った代わりに強くなっていく。

 そんなどうしようも無い話だ。

気づいたらPVが50000などという訳の分からない数字になっており、はしゃいでいます。


いつも読んでくださりありがとうございます!

ここまで自分の書きたいものを書けているのも、皆さんが読んでくださっているからです!

これからも何卒!エテルノと愉快な仲間たちを見守ってくださると嬉しいです!!

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