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四者四様+α

「んー、この先に誰かいるっぽいんだけど……」


 探知魔法を使いながら私は呟く。エテルノに向けて言ったのだが……反応は帰ってこない。


 さっきから何も喋らないけれど、お腹でも痛いんだろうか。まぁ元々あまり喋らないような気もするのだけれど。


「……あれ?」

「どうしました?グリスティアさん」

「いや、ちょっと……」


 探知魔法をもう一度使う。


 私の向かう方向に二人。これは間違いなく、フリオと死霊術師とみて良いだろう。

 そして、後方にはディアンがいるから一人分の反応がある。

 それと、地下道の入り口辺りに四人。

 ギルドから派遣された冒険者だろうか。入り口辺りをゆっくりと進んでいる。


 ここまでは良い。フリオの居場所は分かっているのだからこのまま進むだけだ。 


 問題は、ここから。私は見つけてしまった。

 私でも何となくそこにいる理由を想像できる反応以外に、地下を縦横無尽に動き回る反応が一つ。

 本来地下道は一本道。たまに分かれ道がある程度だから動きは必ず直線的になるはずなのに、なぜかこの反応はあっちに行ったりこっちに行ったり。

 地下を掘り進んでいる、としか考えられない反応だ。


 こんな時には探知魔法の不便さが恨めしい。生き物がいる方向は分かるものの、人間と魔獣の反応を区別することが難しい。

 相手との距離は分かるのに、相手がどんな姿なのかもよく分からない。


 地下を掘り進む反応は、少しずつフリオ達の方へ向かっていくように思えた。


「エテルノ、ちょっと良い?」

「……あ、おう。なんだ?」


 少し間は空いたものの、エテルノは返事を返してくれた。良かった。これでこの、謎の反応について相談できる。


 エテルノも私より規模こそ小さいものの探知魔法を扱えると聞いた。私の言いたいこともしっかり理解してくれるだろう。


「ちょっと、おかしな反応があるんだけど……」


***


「……ふむ、速度的には?」

「多分このまま行くと、私達の方が少し早いぐらいだから鉢合わせることは無いんじゃないかなとは思うんだけど……」

「……分かった。それならフリオだけ回収して、すぐ逃げる方向で行こう」


 エテルノは言う。従うことに異論はないのだが、私には気になることがあった。


「でも、地下をそんなに動き回る生き物なんているの?虫とかモグラにしたってこの速度は早すぎると思うんだけど……」

「分からないな。魔獣の可能性が高いだろうが、町の地下を動き回る魔獣なんて聞いたことも無い。……遭遇は避けつつ、その魔獣と死霊術師の男が鉢合わせるように仕組めるのが最良だと思う」

「分かった。でもこの感じだと……あれ?なんかフリオ達が移動してるっぽいんだけど……?」


 二つ並んだ、この先にある生命反応の一つが徐々に移動してこちらへと向かって来ていた。この状況で動くということは……


 私はリリスちゃん達に声を掛けた。


「死霊術師の男が離れたみたいよ。フリオはこの先の行き止まりのところに一人で残されてるみたい」

「おぉ、チャンスじゃないですか。行きますか?」

「……そうしたいんだけど、このまま行くと死霊術師にぶつかっちゃうと思う。だから一旦戻って……」

「いや、その必要はない。俺がおとりになろう」


 エテルノの口調ははっきりとしたものだった。

 だけどエテルノの口から自分をおとりにしろだなんて言葉が出るとは思っていなかったから、思わず質問してしまった。


「え、エテルノがおとりに?……大丈夫なの?」


 死霊術師はたくさん死体を連れて歩いているはずだ。いくら戦い慣れしているエテルノでも、流石にそれは……


「大丈夫だ」

「でも、やっぱり危ないんじゃ……」

「……すまん、やらせて欲しいんだ。俺があいつを引き付けている間に、お前らはフリオを助けて合流してくれればそれでいい。幸い地下通路の中なら一度にそんなに大量の死体を相手にする必要もないしな」


 エテルノは、おとりをやりたい理由を口にしようとはしなかった。

 その代わりにどんな風におとりをするつもりかを順序だてて説明していく。


 彼は狭い地下通路を生かして、逃げつつ戦えば死霊術の利点である『数の脅威』は無くなるという。

 というのも、狭い場所では少しずつしか死体が追ってこられない。

 いくらやっても死なないとはいえ、逃げつつの戦いであればエテルノが負けることは無いと、そう言った。


 そして、エテルノがそう言うのであれば私のやることは一つだ。


「……分かった。任せるわ。私が考えるよりエテルノがやりたいようにやった方がいい感じになると思うし」

「あぁ。多少なりとも時間は稼ぐ。安心してくれ」

「じゃあこの先の分かれ道で分かれましょ。多分だけどそこからなら、誰にも邪魔されないでフリオのところへも行けると思うの」

「あぁ、分かった」


 エテルノなら今まで通り、なんだかんだ言っても良い結果にしてくれるだろう。そんな確信はあるのだが一つ心配があった。


「……エテルノ、ほんとに大丈夫なのよね?」

「何がだ?見ての通り元気なんだが……」

「そうじゃなくて、さっきから様子がおかしいって言うか……」


 前々からエテルノのことをずっと見ていたわけでは無いからよく分からないけれど、そんな私でも分かるくらい明らかにエテルノの様子がおかしかった。

 こんな時、ミニモとかフリオとかがいればエテルノがどんなことを考えているのか分かったかもしれないのに。

 そんなことを言っても、事実二人はいないのだ。


「あぁ、そういうことか。それについては心配しなくていい。もう終わったことだからな」

「終わったって何が--」

「っと、もう分かれ道だ。じゃあな。フリオの救出、頑張れよ」


 エテルノの言葉で我に返る。

 いつの間にか私たちは分かれ道へとたどり着いてしまっていたらしい。


「あ、ちょっと待ってって……行っちゃった……」


 エテルノは振り返ることなく、私達を置いて暗い通路の向こうに消えていったのだった。

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