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行き詰る地下通路

「さて、何の話ですっけか」

「町の人間を殺すのが救いになるのはどうしてだ、っていう話だったな。その前に一ついいか?」

「どうぞ?」

 

 実は俺にはもう一つ聞きたいことがあった。これは単なる疑問ではあるのだが……


「お前、死体に遭遇するのを避けてこっちに来ただろ。死体どもはお前が使役している訳じゃないって言う認識でいいのか?」

「……そうですね。死体を操っているのはあくまであの男。下手すると私も襲われかねないので困ってるんですよねぇ」

「あれ、仲間じゃなかったんですか?」

「えぇ。あくまでお互いに利用しあっているだけですからね」


 リリスの言葉を肯定するディアン。

 ふむ、こいつらの関係性が詳しく分かったのは都合がいいな。

 というのも、もし俺との取引の方に理があればディアンもこっち側につかせることができるからだ。

 上手く交渉すればフリオの元まで案内させることも可能かもしれない。


「じゃああのドラゴンを操ってたって話はどうなるのよ?」


 今度はグリスティアが質問する。グリスティアはディアンの動きを一つも見逃すまいと身構えているようだが……

 

 あぁ、こいつはディアンがフリオの命を狙ってるってことを知ってるんだもんな。

 おそらくフリオに好意を抱いているであろうグリスティアから見ればそりゃ疑いたくもなるか。

 

 だが、そんなグリスティアの様子を気にすることも無く平然とディアンは言い放つ。


「私があのドラゴンを操れるならあの場でフリオのことを噛み殺させてますとも。わざわざあの男を説き伏せて、エテルノをおびき寄せるおとりとしてフリオを攫うことを了解させたんですから……」

「あぁ、だからあの場でフリオを殺せなかったんだな」

「そうですよ。しかもあの男がフリオのことを監視するとか言い出しちゃいまして、おかげで殺す機会未だ無し、ですよ全く……」


 というか、だ。その男って誰なんだ結局。


「あー、俺には死霊術使ってる奴から恨まれる筋合いは無いと思うんだが……なんで恨んでるのかとか、そういうとこ知ってるか?」

「えーと、確か恋人の仇だとか……」

「恋人……?」


 となると、少なくとも知り合いではないのか……?

 俺が復讐した奴の彼氏、もしくは夫だった奴だと考えれば筋が通るが……。


「あぁ、そういえばその恋人の名前は『シュリ』だとか『ネーベル』だとか言ってましたね」


 その瞬間、時が止まったような錯覚にとらわれた。

 手が上がらなくなる。口が開かなくなる。だがそれにも関わらず、心臓は今までにないほどの速さで動いていた。


「え、恋人って二人いるんですか?」

「そんなこと言われても私の知ったことじゃないですね。どうでも良かったんで聞いてませんでしたし。そもそも一夫多妻な冒険者なんてその辺にもいるじゃないですか」


 なんでもない様に話を続けるリリスとディアン。

 それはそうだ。俺以外にそのことを知っている人間はいないはずなのだから。


 『シュリ』と『ネーベル』。

 それは俺と同じ村で生まれ、俺と共にパーティーを立ち上げた仲間たちの名前。


 そして何より、俺のスキルが目覚めるきっかけとなった出来事を引き起こし、その後俺が手に掛けた二人の女冒険者の名前だった。


***


「ねぇ、そんな話よりフリオの話に戻してもいいかしら?」

「えぇ、別に構いませんよ」


 私はそれまでだらだらと続いていた会話を断ち切って元通りの会話に戻そうと試みた。


 と言うのも先ほどまで喋っていたエテルノが黙り込んでしまったのだ。

 益の無い話を続けるわけにもいかないし、どうせならフリオについて詳しく知りたかった。


「で、貴方は結局何のために街の人間を殺そうとしたの?」

「そうですね、まずはフリオのスキルについて話さないといけないですかね」

「もったいぶってないでさっさと言ってくれる?私、そんなに気は長くないの」


 杖を突きつけてみるものの、ディアンはただただニヤニヤと笑うばかり。

 やっぱりこいつ、気に食わない。


「首が吹き飛ばされてしまう前に簡単に言うとですね、フリオのスキルは『フリオの存在が原因で死んだ人間の魂を使役する』という者なんです。意味、分かります?」

「……分かるわよ」

「例えば、フリオが人を殺したら、その人間は使役対象になります。他にもフリオと関わったせいで死んだ人間って言うのは全て。そう、全員が全員死後、フリオのせいで辱められることになるんですよ」


 ……よく分からないけれど、分かったことにしよう。


「で、だからってなんで町の人を殺すのよ?」

「フリオに殺される前に先んじて殺しておけば、スキルのせいで死後も縛られることはないでしょう?」

「いや、でもそれは間接的でも『フリオのせいで死んだ』ってことになるんじゃ……」

「さぁ?実際やったのは私じゃなくてあの男ですから、フリオが居なくても起こったことだと思いますよ。エテルノの住んでいるところが分かった瞬間爆弾を送り付けるように指示してくる男ですから。フリオに関係ない原因で死んでいるので、スキルに囚われる前に死ぬことができる。人によっては救いになると思うんですけどね」


 ディアンにはふざけている様子が無い。本気で言っているのだ。

 本気で、自分は正しいと思っているし正しいことをしたと思っている。


 そして、フリオは悪だとそう断じた。


 『私の英雄』を悪だと、そう言ったのだ。


「……言いたいことはそれだけ?」

「いやいや、まだありますよ。貴方たち、フリオと関わっているといつか死んだときに損しますよ。私の父のようになって、人影として命令に従うだけの人生を送りたくないなら今すぐ縁を切るべきです。だって--」

「もういいわよ。黙ってて」

「っぐ……?!」


 杖を振るう。ディアンを殺そうと放った一撃だったが--受け止められてしまった。


「ちょ、ちょっとグリスティアさん?!」

「少しでも対話できる相手だと思ったことが間違ってたわ。悪いけど、ここで死んでもらう」

「……まぁ戦うならそれでも構いませんが……私も多少魔法には自信がありますよ?」


 その言葉もきっと、嘘ではないのだろう。事実ディアンはスキルを持っていない分だけ魔法や剣の練習に打ち込んで副ギルド長まで上り詰めた人間だ。

 だが。ディアンは既に致命的な間違いを犯していた。


「貴方、人と戦ったことないでしょ?」

「なにを--」


 風魔法を使ってディアンを吹き飛ばす。

 もちろんそれで怪我をさせられるような相手ではない。十メートルほど距離を取って、ディアンはただただこちらを見ていた。


「少しフェアじゃない戦い方だけど……ま、文句を言いたければ後でじっくり聞いてあげるわ!」


 間髪を入れずに土魔法を使う。


地下通路を地形ごと変形させるような規模の魔法でディアンの姿はすぐに土壁の向こうに消えていった。


「グリスティアさん、な、何を……?」

「ディアンを閉じ込めたのよ。これでじっくりフリオを探せるわね」

「いや、でも、それだとすぐに脱出されちゃうんじゃ……」

「大丈夫、援軍が来てるみたいだから」

「援軍……?」


 私たちは地下通路の更に先の方へ向かう方角に立っていた。

 ということは必然的にディアンがいる方向は元々来ていた方向となるわけで……


「ま、いくらあいつでも流石に不死の魔獣の相手は苦労するでしょうね」


 そう、私達を追って来ていた不死の魔物たちをディアンに押し付けたのだ。

 道は塞いだから、ディアンが私達を追ってくるためには通路を掘り返す必要がある。

 ただ、それと同時に魔物たちの相手を出来るかというと不可能に近い。


 本来私はこういう戦い方をするのは好んでいなかったのだが、エテルノとの模擬戦でこんな戦い方を多用され、その度に私は負かされていた。

 エテルノの戦い方は悪く言えば小手先の、せこい戦い方だ。

 でも、相手が格上だったりめんどくさい相手だったりする時には凄く有用。


 せこい戦い方だって、使いどころによっては何よりも最善な手となりうるのはエテルノのおかげで良く知っていた。


 通路の先へ続く暗闇を見据えて、私は言う。

 ディアンの方ではもう戦いが始まったのか、魔法を撃つ音がした。


「さ、行くわよ皆。フリオが待ってるわ!」

「は、はい!先に危険があったら僕が探知します!」

「で、おとりは私の魔獣がやればいいですね!」


 二人はこんな状況でも元気に言う。

 本当にフィリミルとリリスがいてくれて助かった。

 最初はどこにでもいるような駆け出し冒険者だったのに、エテルノが声を掛けてからというもの二人は--


「あれ、エテルノ、大丈夫?」


 明かりで照られたエテルノの顔色は、酷く悪い様に見えた。


「……大丈夫だ。気にするな。フリオを探すならそうだな、お前の生命探知が使えるだろうが、生命探知では死体どもの居場所は分からないから気を付けろよ?」

「う、うん……」


 エテルノの口調はいつも通り。

 顔色が悪い様に見えるのも、もしかしたら地下通路が暗いからかもしれない。

 そう思いなおすと、私は再び通路の奥を見据えた。


 こうして少しの不安を残しながらも、私たちはフリオを探しに出発したのだった。

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