表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/297

今に続く物語

「ただいま」

「ッ?!フリオお主、その血はどうしたんじゃ?!」


 帰って早々、俺の姿を見たサミエラがそれまで持っていた洗濯物を取り落として駆け寄ってくる。


 当然と言えば当然のことだ。俺の体は冒険者達の返り血で汚れてしまっている。

 こんなことなら、俺が離れた後で人影達に始末させれば良かった。


 ……いや、もうあんなスキル、見たくもない。もう二度と使うことも無いだろう。


「心配しないで良い。俺は怪我してないから」

「そうは言うがな……ほれ、せめて風呂にでも--」

「っうるさいな!ほっといてくれよ!」


 サミエラに掴まれた手を振り払い、つい突き飛ばしてしまう。

 すぐに我に返り、俺は謝った。


「い、いや、ごめん。体は今洗ってくる。迷惑をかける訳にもいかないしな」


 サミエラに頭を下げて横を通り抜けようとした時だった。

 サミエラに服のすそを掴まれる。


「……ほんとに悪いって思ってるよ。もっと謝った方が良かったか?」

「違う。フリオ、お主何か言うことがあるじゃろ」


 ……サミエラは時々、凄く察しが良い。

 話したほうが良いのだろうか。


 少なくとも、父が既に死んでいたことは言わなければいけないだろう。

 俺は孤児院に父が見つかるまで世話になる、という立場だったからな。

 今後世話になるのなら伝えておくのは礼儀というものだ。


「サミエラ、あのな--」


 俺がうつむいていた顔を上げ、どうにか今日起きたことを彼女に伝えようとした時だった。

 目の前に見えたのは、サミエラの平手。


 パチン、といい音を立てて頬を叩かれる。


 サミエラは頬を抑えて唖然とする俺を見て毅然と言い放った。


「フリオ!男なら拳で語るんじゃ!」


 なんて?

 困惑する俺のことなぞ何も分かっていなそうなドヤ顔でサミエラはふんぞり返るのだった。


***


「……で?俺がディアンとどう接するか迷っているんだと勘違いしたと?」

「そ、そうじゃ……面目ない……」


 しょぼん、とうなだれるサミエラ。

 なるほど、俺にディアンと喧嘩しろと言っている。そういう訳だな。


「で、なんで俺を殴ったんだ?」

「やっぱり実践したほうが良いんじゃないかと……」

「拳というか平手だったよな」

「ぬ、ぬぬぬ……」


 サミエラのせいで一気に毒気が抜けた。


 とりあえずサミエラに殴られた後、俺はさっさと風呂に入って来た。

 血を落として服を変え、出てくるとサミエラが土下座していたと。そんな状態。


 サミエラ曰く、俺がディアンとの喧嘩で悩んでおり、ディアンの元に謝りに行こうにも行けない。とそんな悩みを抱えているように思ったのだという。


 だとしても殴り合いして和解、だなんて選択肢は勧めちゃダメだろ。


「とりあえず言うとしたらあれだな。父さんの行方が分かった」

「そ、そうなんじゃな。となるとフリオとももうお別れ--」

「死んでたよ。だから今後もここでお世話になりたい」


 サミエラが口をつぐむ。


「ディアンについても、もう放っておこうと思う。思った以上にさ、死んだ家族が人影にされて操られてるのってきついんだよ」


 これは父さんが人影になっていると分かった時点で、理解できた気持ちだ。

 母さんは人影になっていなかった。やはり、母さんの死は『自業自得』のようなところがあるからだろう。

 だからなんとも思っていなかったのだが、父さんが人影になっていると分かった時点でディアンの気持ちを理解した。


 今更、謝ったところで許されることは無い。


 自分の憧れともいえるような人間が人影にされた。

 自分が少なからず感謝している人間が、物言わぬ黒塗りの人形として使役されている。

 許せることではない。

 俺ですらそう思ったのだ。ディアンならなおさら許してもらえるわけがない。


 だから、これ以上傷つけないように関わらないようにする。それが最善なのだと俺は判断していた。


「うむ、分かった。わしは育てるのが仕事じゃからな。いくらでもこの孤児院に居るといいとも」

「恩は返すよ。Sランク冒険者になったら絶対に、その稼ぎは全部この孤児院に持ってくる」

「ふん、やれるものならやってみると良いわい。Sランク冒険者になるのはそうそう易くないんじゃからな!」


 サミエラは何故か、ディアンのことについては何も言わない。

 代わりに彼女は俺の口調について小言を挟んだ。


「……まぁさすがに言葉遣いは直すべきじゃろうな。そんな言葉遣いじゃあ他の冒険者に絡まれるばっかりじゃからの」

「そんなことは……無くは、ないか」


 結構悪い印象は与えてそうだからな。

 と言っても話し方で参考に出来るのなんてディアンぐらいだ。


 それならディアンのように喋ってみる、というのもいいかもしれない。


「分かった。今度から気を付けるよサミエラ」

「フリオがそんな喋り方すると気持ち悪いのぉ」

「酷くね?」


 ばっさりと切り捨てられたが、そうだな。


 俺のスキルは少なからず他人を傷つけて成り立つものだ。

 だから胸を張ることはできないけれど、少しでもこのスキルについて理解して少しでも早く俺のスキルの犠牲になった人たちを解放できるように。


「じゃあもう寝るから。サミエラも、今後よろしく。なんか口調に違和感があったら教えてくれ」


 明日からもやることが多そうだ。

 さっさと自室に戻ろうとした俺だったが、またもや呼び止められる。


「なんだよ。さすがにそろそろ眠いんだけど」

「口調はどうしたんじゃ」

「……そろそろ眠いから、解放してくれると嬉しいな」

「ううううむ違和感じゃな!」

「じゃあ口調直させるんじゃねぇよ……」


 サミエラは、そんなに大したことが言いたいわけでは無いんじゃが……と前置きして、こう締めくくった。


「フリオが出来れば。出来るようになったなら。もう一度ディアンと話してやってくれんか」


 俺はその言葉に答えずに自室に帰った。


 


 それからずっと経った今でも、俺は。いや、僕は。

 ……ディアンにしっかりと謝罪できないままでいる。


***


「そんなわけで僕の話はおしまい。面白かったかい?」


 長い話を終え、僕は死霊術師の男に話しかけた。

 彼は分かったような分かっていないような顔をしている。


「あー、それな。要するにディアンの奴が悪いって話だろ?」

「いや、そう言うわけでは無いんだけど……」


 困った。何も伝わっていないようだ。

 まぁ時間稼ぎは出来たし良いのかな。これはこれで。

 おそらくエテルノ達はすぐそこまで来ているはずだ。僕の方でも何か備えておこう。


 と、死霊術師の男は言った。


「なぁフリオ、お前エテルノ倒した後で俺のパーティーメンバーに入れてやってもいいぞ?」

「え、それは……」

「相性もいいと思うんだよな。聞いた感じだとお前のは死人の『魂』を取り込んで使役する感じだろ?俺のは死体だけあればいいんだし、普通に考えて数が二倍!めっちゃ強くないか?!」


 ……やっぱり、この人とは分かりあえそうにない。

 この人は話が伝わらないというよりは、他人の気持ちを想像しないような人なのだろう。だから僕の話を聞いていたのに平然とこういうことを言える。


 同類。同類だと思って話をした僕が間違っていたみたいだ。

 もしかしたら分かりあえるかもと、そう思っていたけれど。


「どうしたんだよフリオ。間違いなく強いと思うぞ?で、ディアンも殺しちまおう。そうすれば何も考えなくてよくなる。そうだろ?」

「あぁ、うん。そうかもしれないね」


 いや、分かりあえないと思ったけれど僕もこういう人間になる道があったのかもしれない。

 違いはそうだな、やっぱりテミルやサミエラが僕の傍にいてくれていたのが大きいのだろうか。


 今はそんなこと考えても意味ないんだけど。


 と、地下通路全体に重い衝撃が響いた。

 天井から埃が落ちてきて死霊術師の男は天井を見上げた。


「あぁ?まじでディアンは何やってんだよ。なんかあったならさっさと報告しに来いよなぁ」

「……見に行ってみたらどうだい?ここは僕に任せておいてよ」

「いいのか?!助かる!」


 そう言うと死霊術師の男はさっさと通路の奥に消えていく。


 うん、この人、やっぱりどうかしてる。


 僕はため息を一つつくと脱出経路を探し始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ