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英雄の真実

 おかしくなったのはどこからだったのだろう。


「いやぁ、本当にお前のスキルは凄ぇな!ゴロツキ共をなぎ倒したんだろ?っかぁ〜、俺にも強ぇスキルが目覚めたらなぁ〜」

「まぁな。めっちゃいいって訳じゃねぇけど便利だよ」


 ギルド。冒険者達を撃退してまたもや噂の種となった俺は再びギルドにやって来ていた。

 

 冒険者達は基本何が起こっても宴会を開こうとする。

 例えばそれは魔獣を討伐した記念だったりするし、死んでしまった仲間を弔うためだったりする。

 何でもかんでも宴会の話題にする。冒険者というのは基本そういう生き物なのだ。


 そう。お察しの通り、俺も今回の件で、またもや話題にされていた。


「なぁなぁ、そのスキルってやつ、前は俺見逃しちまってさ、良かったら見してくれないか?」

「あぁ、いいぞ」


 冒険者の頼みを快諾し、俺はスキルを使う。

 

 出てきたのはいつも通り真っ黒な人影。

 感情があるのか無いのか分からないような姿でぼんやりと立ち尽くしている。


「おぉ、すげぇ!しかもこんなのを何体も出せるんだろ?」

「そうだな。えぇと……」


 褒められた事に少しだけ気を良くし、せっかくだからと更に呼び出してみる。


 人影がずらりとギルドに並ぶ姿は壮観だった。

 その異様な光景に、思わず冒険者達は息を飲む。


「……やべぇなこれ……。勝てる気がしねぇよ」

「あぁ。手を出すのはオススメしないな。なんてったってこいつらは不死。倒されても蘇る不死身の兵士だからな!」

「フリオ、あんまり調子に乗るのは良くないと思うよ」

「別にいいじゃねぇか?ホントのことなんだし」


 ディアンのやんわりとした忠告に適当に返してみる。

 とはいえ慢心する気も更々無いがな。スキルだけに頼りきってろくな冒険者にならなかった大人の話なんてどこにでもある。

 ディアンレベルとまでは行かなくとも、努力は欠かさないようにしなくてはいけない。


「ん?不死ってことは、あー、この片腕の奴はなんなんだ?」

「え、片腕?」


 冒険者の一人が唐突にそんなことを言い出す。

 そいつが指さす先には確かに、片腕の人影があった。


 肘のあたりから欠損しているその人影は断面すらも黒で塗りつぶされているようだが……


「……どういう事だ?こんなやつ見たこと無かったぞ…?」


 少なくとも以前見た時はこんな奴居なかったはずなのだ。


 ……そういえば、影達の数が少し増えている気もする。

 あの冒険者達を撃退したから増えた?

 俺が少し経験を積んだからか?


 ふと、嫌な予感を覚えた。


「ディアン、この影達の中で体の欠損があるやつが何人いるか探してくれるか?すまん、暇な奴も手伝ってくれると嬉しい!」

「え、ちょっとフリオ?!」

「あぁ?なんだなんだぁ?」


 そこら辺にいる酔っ払いも交えて、場の雰囲気が変わったことを感じとった冒険者達が影達を手分けして数え始める。


 欠損のある影。先程発見した片腕の影は女の形に見えた。


「まさか……な」


 身震いを押さえつけてギルドの職員の元に走る。

 目的はそう、俺が殺した冒険者の人数を確認するためだ。


「すまん、ちょっと書類見せてくれ!」

「え、あ、ちょっと?!なんなんです?!」


 ギルドの職員の言葉を無視して必死にページをめくる。

 

 俺が孤児院で殺した、殺してしまった奴らのページを確認していく。


「おーい、フリオ、片目が無さそうなやつも数に入れていいのかー?」

「あぁ!それも数えてくれ!」

「じゃあ多分11人だ。で、これがどうか--」


 ページをめくる手が止まり、視界がぐらつく。

 

 11人。それが俺が殺した冒険者達の人数。

 11人。それはいつの間にか増えた人影の数。


 俺が。俺のせいで死ぬことになった、俺の罪の数だったのだ。


***


 最初に人影の数が増えたのはいつだったろう。

 そうだ。村が襲われて、山賊共を撃退した時だ。

 山賊を殺して、俺が、殺したから、人影が増えた……?


 視界が、ぐらつく。


 なんで、いや、そんなことどうでもいい。

 俺が殺したのは怪我をしたことによって普通の冒険者稼業が出来なくなり、人に手を出し始めたゴロツキどもだ。

 

 あんな奴ら、殺したからと言って俺が悪いはずもない。

 そいつらが、死んだ後も影として俺のスキルになった。いや、取り込まれた……?

 何にせよ、黙っているわけにもいかなかった。


「……ディアン」


 カチカチと音を立てて震える歯を食いしばって、ディアンの方に向かう。

 そうだ。ディアンなら何か分かるはずだ。この影達についてだってきっと。

 だが、そんな俺の期待は見事に裏切られる。




 --ディアンは、人影の手を取って涙を流していた。




「ディアン……?」


 ディアンは影の人数を数えていてくれたはずだ。

 それが、何をしているのか。


「お、おいディアン。どうし--っがァ?!」


 ディアンを振り返らせようとディアンの肩を掴んだ時だった。

 振り返りざまにディアンの拳が飛んできて、俺はギルドの床に転がされる。


 そのまま馬乗りになって、ディアンは何度も俺を殴りつけてきた。


「っ殺す!殺す殺す殺す殺すッ!」

「お、おいどうしたんだよディアン!離れろ!おい、フリオも何をして--」


 ディアンを止めに来た冒険者が何か言っているが、言葉が入ってこない。

 どういう、ことだ。


 なんで俺が責められているんだ。

 なんで。


 口の中いっぱいに血の味が広がった。


「ふざけるな!あれは僕の父さんだ!なんで、なんでこんなことをした?!何なんだよ?!フリオ!答えろよ!」


 父さん。ディアンの?


 ディアンが見つめていた人影に視線を向ける。

 確かに、俺が覚えている村長の姿に似ている気がした。


 そもそもディアンが、あの人影は村長だというのならきっとそうに違いない。

 近くで毎日村長のことを見てきたディアンの言うことだ。あれは村長で間違いない。


 ディアンが制止する冒険者に魔法を放ち、その手を振り払う。

 そのままディアンが俺の胸ぐらを掴み、彼に無理やり立ちあがらせられた。


「っふざけるな!全部分かってたのか?!」


 ディアンの問いに答えるだけの余裕を俺は持っていなかった。

 何故、村長までもが俺のスキルに取り込まれたのか。


 もし。もし俺のスキルに取り込まれる人間の条件が『俺の殺した人間』ではなく、『俺のせいで死んだ人間』だとしたら。

 

 俺の勝手な予測ではあったが、村に攻め込んできた山賊はおそらく誰かにけしかけられた奴らだ。

 例えば、『蘇生魔法』を回収しに来た奴らとかに。


 それなら俺が居なければ蘇生魔法は使われなかったかもしれないわけで。そうしたら村は襲われなかったわけで。

 俺のせいで村人が死んだのだとしたら、それは俺のスキルで影として蘇るのに十分な条件なのではないだろうか。


「答えろよフリオォ!」


 ギルドの壁に頭を思い切り打ち付けられる。

 ディアンのが聞きたいのはきっと、これについて分かっていたのか、知っていたのか、ということだ。


 俺の答えなんて一つしかない。


「……知らなかった」


 本当のことだ。けれど、それで納得させられるようなディアンでは無い。

 明らかに普段と違うその剣幕には俺がどんな言葉を放ったところで通じはしないだろう。


「何を……何をしてたのか分かってるのか?!」


 そうだ。今気づいた。そしてそれなら、今すぐ村長たちの『影』は解放するべきだということも分かっている。

 だが、


「……当たり前だろ。ただ、こいつらがどうすれば消えてくれるのかなんて俺にも分からないんだ」


 ディアンは何も言わなかった。

 何かを言う代わりに俺の首を強く締め付ける。


「っぐ……」


 体内の空気を全て吐き出したのではないかと思うほど息を吐きだす。

 息が苦しい。そんなことよりも俺の脳内は別の考えで支配されていた。


「殺す……殺す殺す殺すっ……!」


 悪人を殺すのなら耐えられた。

 悪人が死ぬのは、当然の報いだから。


 周囲の人間が死ぬのなら耐えられた。

 よくあることだ。気にする暇はない。いつかその死を悼めばいいと自分に言い聞かせていられたから。


 だが、だが他ならぬ自分自身が、死を貶めていた。


 薄れていく意識の片隅で、何かが壊れた気がする。


 このまま目覚めなければいいのに。そんな思考を最後に、俺の意識は闇に呑まれた。




 --あぁ、やっぱり俺は英雄なんかじゃなかった。

フリオのスキル:

『フリオのせいで死んだ人間』を人影として蘇らせ、使役することができる。

人影に意思があるのかは、誰にも分からない。

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