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袋孤児-ふくろこうじ-

「す、すいませーん!通してくださーい!」


 テミルが先んじて人混みに飛び込んだ。目的はもちろん孤児院で何が起こったのか確認することである。


 野次馬たちをかき分けて進んでいった先に現れたのは大勢の冒険者に取り囲まれたサミエラの姿だった。


「おいサミエラ、どういう状況なんだこれ!」


 人混みの中から現れた俺達を見て、サミエラを取り囲んでいる冒険者たちが口を開く。


「おぉいおい、ようやくお帰りかよ。しかも女まで連れて!」

「あ?」


 ゲラゲラと笑う冒険者たち。

 中には俺の肩をバシバシ叩く冒険者だって居る。


 それともう一つ。体の一部を欠損している冒険者が多いようだ。

 右手が無かったり、顔に大きな火傷の跡があったり。


「あー、フリオ、こやつらは放っておいてもう孤児院に入っておればいいぞ」

「いやそうもいかないだろ……」


 サミエラは何でもないような顔をしているが、冒険者たちは俺らよりもよほど大きい体なだけあって圧が凄い。この場を離れてサミエラだけ残していくというのも……。


「おらガキ。ガタガタ言ってねぇでさっさと金出せっつってんだよ。俺らだってそんなに優しくしてやれねぇぞ?」

「誰がガキじゃ。少しは年配者を敬うことを覚えんか」

「あー、はいはいおっけーおっけー。金出さねぇんなら金を用意するまで痛めつけるだけだからよォ」


 兄貴分と思しき冒険者が言った直後。

 突如、サミエラに一番近かった冒険者が拳を振るう。

 少し離れたところに居た俺たちはその拳を止めることもできず、サミエラの顔に命中する--


 --かのように、見えた。


「なっ……?!」


 驚きに目を見開く冒険者。

 まさかサミエラが自身の拳を避けられるとは思っていなかったのだろう。俺もテミルもそうだ。

 サミエラが戦うことができるだなんて、思わなかった。


「す、すごいですねサミエラさん……」

「だな……」


 サミエラは何か反撃するでもなく冒険者が繰り出す攻撃を避け切っている。

 いや、これは多分攻撃を見極めているというより……


「こ、こんのクソガキが……!」

「ガキではないと言っておるじゃろうが全く……」


 冒険者の攻撃は完璧に回避されているようだ。というより、予測されている。

 サミエラのスキル『未来視』の応用。

 攻撃の先が読まれているのでは、サミエラの体力が尽きない限りは攻撃が当たることはないだろうな。


「そりゃSランク冒険者にもなるわ……」

「え、サミエラさんがですか?」

「そうそう。元Sランク冒険者だったらしいんだよな」


 そういえばテミルはあの場には居なかったか。

 サミエラがSランク冒険者だったのだと初めて知ったテミルは目を丸くした。


「わわわ私Sランクの人に育ててもらって……?!」

「気にする必要無いだろ。Sランクだろうがサミエラはサミエラだしな」

「し、しかも私Sランクの人にバッタなんてものを食べさせて……!」

「そこは本当に反省しような」


 その時だった。


「馬鹿!そっちのガキが駄目ならこっちを狙えばいいんだよ!」

「へ?」


 隻腕の女冒険者がテミルを羽交い絞めにする。

 その様子を見て、サミエラの動きが止まった。


「おいお前ら!動くんじゃねぇ!そこで手を挙げて立ち止まれ!」

「……」


 テミルの首元にナイフが突きつけられてしまい、俺たちは黙って言うことに従わされる。

 隻腕なせいか動きがぎこちないとはいえ、少し手を動かすだけでテミルが危ないのは事実。

 ここはとりあえず従っておくのが得策というもの。


 黙って両手を上にあげるサミエラから視線を逸らした先で、冒険者の一人が野次馬を追い払っているのが見えた。


「ったく、手こずらせやがって……!おらお前!動くんじゃねぇ!」

「ぐっ……ぬぅ……」


 冒険者の一人がサミエラの胸ぐらをつかんで持ち上げる。

 サミエラが苦しそうにうめく声が耳に入り、俺は手を高く挙げた。


「あぁ?なんだガキ。有名な英雄様だろうがてめぇに構ってる暇は無いんだよ」

「いや、ちょっと気になってさ。お前らギルドに来て俺と会ったりはしなかったのか?」

「ギルドぉ?そんなとこに今更顔出せるわけ無いだろうが。なぁ?」

「あ、そうなんだ?」


 なるほど。やはりこいつらは落ちこぼれたタイプの冒険者か。

 それなら、問題ないだろう。


「なっ?!や、やめるんじゃフリオ……!」

「あ?おいお前何急に騒いでんだ?」


 俺の行動を察知したサミエラが俺を制止するが、冒険者に黙らされる。

 それを無視してそっと、俺はスキルを使った。


「な、なんだこの化け物?!」

「え、……ッ?!な、なんだお前!?」


 冒険者の間にざわめきが広がる。

 突如として人影が現れたらそりゃそんな反応にもなるか。


 人影を呼び出したのが俺だとは気づかず、テミルを人質に取るのもやめて人影と応戦しだす冒険者たち。

 だが数は圧倒的に人影たちが上だ。冒険者たちが勝てるはずも無く、徐々に数を減らしていく。


 血飛沫が舞って悲鳴を上げるのは落ちこぼれた冒険者だけだ。

 だって、俺が召喚した人影達は死なないのだから。


「フリオお主……!」

「さ、今のうちに逃げようぜ。別にここで待ってても良いけどさ……ってどうしたんだよ?」


 サミエラの顔は真っ青になっていた。唇を震わせ、叫ぶ。


「殺す必要は無かったじゃろう!お主何を考えておるんじゃ?!」

「え、いや、だってこっちを脅迫してきたわけだし……」


 そもそもこんなことどこでだってあることだ。

 山賊が襲って来て村が壊滅する。盗賊に襲われて返り討ちにする。

 今回は、たまたま敵の数が多いだけ。

 

 サミエラの方が、世間の常識的に考えてもずれていると言えた。




 数分の後に、崩れ冒険者たちは死ぬか逃げたかどちらかして、孤児院を荒らす人間は誰一人としていなくなっていたのだった。


***


 ディアンが孤児院を出ていくまで、あと三日。

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