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孤児院での生活

「……ん……」


 部屋に吹き込んでくる隙間風で目を覚ます。

 

 俺達が孤児院にやって来てから数週間、初めは慣れなかったこの暮らしにも既に慣れ始めていた。

 天井を這うムカデにも、部屋の隅に張った蜘蛛の素にも意識を向けることなく俺は体を起こした。


「ん、おはようフリオ。今日もいい天気だよ」

「まぁ部屋が雨漏りしてないからな。言われなくても分かる……」


 俺と相部屋になったディアンは既に身支度を済ませ、なにやら本を読んでいた。

 

 孤児院に入ってから分かったがディアンは寝起きの時間が相当に早い。よほどの用事が無ければ九時に就寝五時に起床、などと本人が語っていた。


 なお俺が起きるのは朝食の直前である。 


「今日は何の本を読んでるんだ?」

「ちょっとした魔導書をね。仲良くなった冒険者の人から譲ってもらったんだ」

「したたかな……」


 孤児院に本を買う余裕なんてない。ならば譲ってもらおう、ということでディアンは仲良くなった冒険者から本を貸して貰ったり古本を譲ってもらったりしていた。

 しかも、大概の本が魔法やら剣術やらの本なのだからディアンの勤勉さには恐れ入るというものだ。


「ほんっとうによくやるよな……」


 ディアンの横に積みあがった本は既にサミエラの身長は超えているかもしれない。

 ただでさえ分厚い魔導書を暇さえあれば読み漁っているのだから当然と言えば当然なのだろうが……


「うん、そりゃもう頑張らなきゃだからね。フリオにあっという間に追い抜かれちゃったから今度は僕が追いつく番だ」


 普段は冷静なディアンらしからぬ口調。

 少しだけディアンから漏れ出したその圧にたじろいだ俺を見て、ディアンは不思議そうな顔をした。


「ん、どうしたんだい?」

「ディアンってそんなこと言う奴だったっけかなぁと思ってな」

「僕だって負けたままは嫌だからね。スキルが目覚めないとしてもフリオに勝つ方法はあるはずだよ。剣が駄目なら魔法、魔法が駄目ならもっと別の方法を見つけるさ」

「お、おおう……」


 そんなことを言われてもなんとも反応できないが……だが、俺だってスキルを使わなければディアンには勝てないだろう。

 スキルを使わずとも勝てるように、俺も俺で頑張らなくてはな。


***


 午後。

 サミエラの孤児院では基本的に子供は自由に行動できるようになっているのだが、俺には大切な用事があった。


「……さて、ここも駄目……と」


 俺は手に持った地図の印を塗りつぶす。この地図はギルドに貰ったもの。印が表しているのは『父さんがいるかもしれない場所』だそうだ。

 それをしらみつぶしに歩いて回っているのだが、一向に手がかりがつかめない。


 俺はあくびをしながら話しかけた。


「暇だな……」

「え、あ、そ、そうですね!」


 あわあわしながらも俺の隣をついてきているテミルが俺の言葉に答える。テミルは両手いっぱいに荷物を抱えていた。


「あー、荷物持つぞ?」

「い、いえいえいえ!私の荷物なので大丈夫です!」

「そうは言ってもな……」


 女子に荷物を持たせて歩くのは体裁が悪いというか、俺が申し訳ない気持ちになる。


「あ、じゃあこうしよう」

「へ?」


 スキルで人影を呼び出し、荷物を預ける。こうすれば俺もテミルも荷物を持たないで済むのだからテミルが遠慮することも無いだろう。


「あ、ありがとうフリオ君」

「いや、俺が持ってるわけじゃないしな。気にすんなよ」


 だらだらとそんな会話を続けながら父さんを探す。

 それがここ何週間かの俺の日常だった。


***


 何軒目に訪ねた家だっただろうか。


「あぁ、そんな感じの人ならこの前までうちの店で働いてたよ」

「本当っすか?!」

「うん、急に連絡取れなくなっちゃったから何かあったのかと思ってたけど、そうか……村がそんなことになってたんだね……」


 恰幅の良い店主が、俺の父を雇っていたとそう証言して俺とテミルは思わず目を合わせた。

 

「こ、これでようやく少しでも前進できた、ってことですね……!」

「そうだな……ほんっとうに良かった……」


 ここまで歩いてきた疲れが出たのか、思わず俺たちはその場に座り込んでしまった。

 そんな様子を見てなのか、店主がちょっとした食べ物を持って来てくれた。


 だが、孤児院で世話になっている俺たちにとってはごちそうだ。礼を言って、すぐに平らげたのだった。


***


「いやー、良い人達だったな」

「ですねぇ。わざわざ似顔絵まで用意してくれるなんて!」


 そう。あの後、せっかくだからということで似顔絵を用意してくれたのだ。

 店で使っていたものだということで、中々特徴を捉えて描いてあるのではないだろうか。

 

 かく言う俺もこの絵を見て、『あぁ、そういえばこんな顔だったな』となったぐらいだ。

 これで明日からの探索がはかどること間違いなしだろう。


「そういえばフリオ君のお父さんってどんな人なんです?」

「そうだな……父さんは出稼ぎに出てばっかだったからそんなに話をしたことは無いんだよな……」

「あぁ、そういえば言ってましたね。私も村に居た時一回も見かけたことありませんでしたし……」


 何が記憶にあるかというとそうだな……。


「母さんのことを大切にしてたような気はしたな。母さんが手作りしたミサンガを付けてたんだが、そのミサンガって言うのが虫の魔獣から取った良い糸で出来ててな」

「虫の魔獣……って食べれるんですかね?」

「なんでお前は普通の魔獣を食おうとする前に虫の魔獣を食おうとするんだ」


 普通の魔獣を仕留められないから虫の魔獣、っていうなら分かるがテミルは直に虫の魔獣を食べようとする。そういうとこだぞ。


 と、そろそろ孤児院なのだが……


「人だかりができてるな」

「で、ですね……何かあったんでしょうか?」


 孤児院の入り口にいつにもまして人が集まっているようだ。俺たちは駆け足で孤児院に向かうのだった。

100話だから何かしようかとも思ったのですが、日常回です。

フリオ過去編のクライマックスまでもう少し。是非!お付き合いください!


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