追放の始まり
「ふざけるな!お前は取るに足らない雑魚だったはずだろう?!なんで俺がこんな目にッ……!」
俺の目の前にへたりこんだ男は皮膚が裂けるのではないかと思うほど激しく拳を地に打ち付けた。
俺をあんなに見くびっていた奴が、こんなにも無様に。
いくら憎しみを込めた目で俺を見ようとも決して俺に手は出せない。
あぁ、何度やってもこの瞬間が一番格別だ。
気を良くした俺は男の顔をのぞき込んで言う。
男の顔は、憤怒と泥で酷く醜く彩られていた。
「なんでか知りたいか?教えてやってもいいぞ?」
「っ……!どんな汚い手を使ったんだ!俺が追放してやったときのお前は下級悪魔にすら手こずる雑魚だったじゃないか?!」
「それはな、お前が俺を『追放したから』だよ」
「……は……?」
唖然とした顔でこちらを見ている男。
それもそうだ。こいつにとっては訳が分からないだろう。
この男は俺が以前所属していた冒険者パーティーのリーダーだったのだが、ある時俺が足手まといになっていると言い出して荷物一つすら持たせずパーティーから追い出した。
それからしばらく経ってつい先ほど、この男と遭遇した際に言いがかりをつけられたためしっかり『仕返し』してやったところである。
「お、お前がそんなに急に強くなれるもんか!まだあれから二か月も経ってないんだぞ?!」
男は今にも噛みついてきそうなほどの剣幕だ。
だが、心配はいらない。この男は今や俺の足元にも及ばない実力なのだから。
「あー、お前確か、剣士のスキル持ってたよな?それで自分はエリートだのなんだのって」
「そ、そうだ。俺は希少な『剣神』のスキルを持ってるんだ!それがなんでスキルを持ってないお前なんかに……!」
スキル、魔法とは違う特殊な力。一部の人間のみが目覚めるとされ、それを持つものはこいつのように思いあがることも少なくない。
こいつの『剣神』は剣の扱いがめちゃめちゃ上手くなる、みたいなものだったような覚えがある。
あぁ、だがこいつは一つ勘違いをしているな。
「俺も実は持ってるんだよな。発動条件は特殊なんだが、お前のよりもよほど強いスキルをさ」
「なっ……!」
驚いてるな。
ここまで予想通りの反応を返してくれるとは思わなかったが。
「勿体ぶることでもないし教えてやるが俺はな、『追放されるほど強くなれる』をスキルを持ってるんだよ。追放されたパーティーの中で一番強い相手を追い越すまで、成長度合いが大幅に伸びる。ま、お前に追いつくまでは二週間も掛からなかったんだがお前の地位を落とすのに案外時間がかかってな」
「ま、まさか最近依頼が来ないのも、全部お前の……!」
「ご名答。もちろん復讐はしっかりさせてもらったぞ。しょうがないよな?全部お前らの行いの結果なんだから」
この男のパーティーは他の冒険者にとっても害でしかなかった。
ギルド内でも鼻つまみ者で、駆け出し冒険者から金を巻き上げたり依頼を奪ったり。
だから裏から手をまわして排除する方針をとったのだ。復讐と言っても、周りに迷惑はかけていないのだから責められるいわれもない。むしろ助かった奴も多いんじゃないだろうか?
「く、くそ野郎が……!」
「それをお前が言うのか?」
冷静さを失ったのか、逆上した男が再び剣を手にしてかかってくる。
が、この男をとっくに超えた俺には通用するわけも無く、
「面倒だな。自分の過ちはさっさと認めたほうが良いぞ」
「なんで、なんで通用しない!俺のスキルが……!」
「だからさっき言っただろう。俺は、『パーティーの中で一番強い奴を追い越した』んだ。具体的に言えば、お前を超えた。だからこういうこともできるんだよ」
剣を振るって、男を吹き飛ばしてやる。
本来の俺なら出来るわけも無い技だが--
「そ、それは『剣神』の……!」
「そうそう。お前はスキルを持ってたからな。俺もお前を追い越すために、スキルを手に入れたってわけだ」
「そんなことできるわけ無いだろう?!だってスキルは努力じゃどうしようも……!」
「はいはい。もう分かったからお前それ以上喋んな」
何度言っても聞く気はないようだな。
……反省するようなら見逃してやっても良かったのだが、しょうがない。
男の剣を弾き飛ばし、手首を切断してやる。
本来なら首を狙っても良いのだが、この程度で済ませてやっているだけで感謝してほしいものだ。
一瞬呆然とした様子を見せたかと思うと、男は苦痛に顔を歪める。
「っがぁあああ?!」
「ま、手を無くしちまえばお前のスキルは使えない。悪さもそうそう出来なくなるだろ。じゃあな」
スキル『剣神』はあくまで剣の扱いが非常にうまくなるスキルだ。
で、あれば腕を切り落としてしまえば剣が握れなくなり、結果的にスキルが二度と使えなくなる。
そうなればこいつが調子に乗ることはない。
これから冒険者をすることは難しくなるだろうが……まぁしょうがないだろう。どうしようもないことだからな。
うずくまる男を乗り越えて俺は大通りへ出る。さて、次はどこのパーティーに入ろうか。
俺も十分に強くなったから、どこだろうとまぁ入れてもらえるだろう。
最初はスライムすら倒せなかった俺がここまで成長したかと思うと感慨深いものがあるな。
あぁ、もしかすると次の追放では冒険者の中でも最強であるSランク冒険者にまでなれるかもしれない。
楽しみだ。
と、そんなことを考えて思わず笑みを浮かべていた俺の耳に、大通りの端の方でたむろしている冒険者たちの話し声が聞こえてきた。
「聞いたか?例のSランクパーティー、仲間集めしてるらしいぞ?」
「まじ?でもあんなパーティーに入りたがる奴なんていねぇだろ」
「いやそもそもお前じゃ入れる実力も無いっての」
ビンゴ。こういう大通りでは噂話が絶えない。
例えばそう、素行は悪いが実力はあるパーティーの噂。
俺が入りたいのはそういうパーティーだ。善人のパーティーに入ると追放してくれないからな。
俺にとっては悪人しかいないようなパーティーの方が都合が良い。
俺は冒険者たちの間に割って入った。警戒されないように、出来るだけ人の良い笑顔を浮かべて。
「ちょっとすいません、そのお話、詳しく伺っても?」
よし、次はそのパーティーに餌食になってもらおうじゃないか。
***
それから数日経った日のことだ。俺は冒険者ギルドへとやってきて、Sランクパーティーに入るための面接を受けていた。
俺と向かいあわせで座っている男はぱっと見、二十代前半といったところだろうか、
高身長でどことなく爽やかな印象であり、物腰も柔らかい。
窓から入った日の光が男の金の髪に反射して光った。
男が資料に目をやりながら言う。
「--それで、君には何ができるんだい?」
「俺は『剣神』のスキル持ちにも勝ったことがある。他にも一つ一つでは他の冒険者に及ばずとも、全ての属性の魔法を扱えるぞ」
「へぇ、それはすごいね」
魔法には属性がある。全属性を扱うことは非常に難しいのだが、俺の場合はスキルによってこれが可能となっていた。ま、追放してくれた奴らには感謝だな。
奴らが使っていた魔法を『追放された』ことによって身に着けられるようになったのだから。
***
その後も色々と聞かれたが全て当たり障りなく、かといってそこそこの実力はあるように見せきることに成功した。
完璧な実力があるように見せると追放されにくくなるから、実はここの調節が大事だったりする。
全ての質問を終えて、男はこちらに手を差し出した。握手のつもりだろう。俺も笑顔で握り返してやることにした。
「よし、今日から君は僕たちの仲間だ。名前を聞いても?」
名前か。いいだろう。教えてやろうじゃないか。
「俺の名前はエテルノ・バルヘント。これからよろしく頼む!」
「エテルノ、いい名前だね。僕の名前はフリオ。よろしく頼むよ」
「あぁ、よろしく頼んだぞ」
俺がこのパーティーを追放されるまでの間、だけだけどな。俺は心の中でほくそ笑んだのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。作者の夜恐です!
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