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精霊王物語  作者: 水野 精
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7 心の変化

 俺は言われるがままに、先ほど骸骨戦士を倒したときの要領で、自分の体を風で包み込み、空中に浮かび上がる姿を思い描いた。すると、俺の体を緑色の光が包み始め、それと共に足が地面から離れ、次第に高く浮かび上がっていった。

「恐れることはありませぬ。思うがまま移動なさりませ」

サクヤは優雅に着物の袖や裾をなびかせながら、俺の周囲を飛び回った。俺はもう一度、心の中で鳥をなったイメージを思い描き、両手を広げて左前方へ意識を向けた。

「おお┅┅飛んでる、飛んでるよ┅┅あはは┅┅すげえ、すげえ┅┅」

 満天の星空を背景に、俺とサクヤはしばらくの間草原や森の上を飛び回った。これは、本当に現実なのだろうかという疑念が浮かぶ。すると、とたんに浮力を無くしたように、体が落下し始める。あわててイメージを描き直し、これは現実なんだ、俺は空を飛べるんだと心に念じると、再び体は軽くなり空中に舞い上がっていった。だが、これは人のいない所でしか使えない能力だ。


 俺たちはゆっくりとテントがある近くの草原に下りていった。

「いかがでござりましたか?ご自分がお持ちの力が、少しはお分かりになりましたか?」

「う、うん┅┅この三日間は驚きの連続だった┅┅でも、少しずつ自分の力や戦い方がわかってきたような気がする┅┅サクヤさんのおかげだ、ありがとう。あと十日、頑張るよ。これからもよろしく頼みます」

 俺は素直な気持ちでサクヤに頭を下げた。とたんに、何かとまどいと喜びが混ざったような感情の波が、サクヤから押し寄せてきたが、それは一瞬で消え、サクヤが改まった様子で頭を下げた。

「そ、そのような礼など┅┅我はそなた様に仕える使霊つかいだま、為すべき事を為すのみにござりまする。それに┅┅サクヤさんなどと┅┅いえ、これまで我がそなた様におこなった無礼の数々、お許しを願うのはこちらの方でござります」

 改まると、言葉がいっそう古文のようになってわかりにくいのがサクヤの癖だった。

「ああ、いや┅┅それはお互い様だし、ぜんぜん気にしてないよ┅┅じゃあ、また明日。おやすみ┅┅」

 俺はまだ頭を下げたままのサクヤにそう言って、テントの中に入っていった。


 サクヤが嫌々ながら役目を果たしているのは分かっている。だからこそ、今夜は素直にねぎらいの言葉をかけたつもりだった。しかし、まだお互いに、最初の頃のわだかまりが尾を引いているのは間違いなかった。

 俺は寝袋に入って、暗闇を見つめながらため息を吐いた。骸骨戦士との闘いや空を飛んだことなど、どれもゲームの世界の出来事のようで、未だに夢を見ている気分だった。体は疲れているはずなのに、少しも眠くない。俺は何気なく天井に向けて指を立て、小さなロウソクの炎を思い浮かべた。すると、指先が赤い光を放ち、その光が炎となって凝縮した。指がロウソクになったようだった。

(やっぱり夢じゃない┅┅でも、おかしいな┅┅空を飛んだり、魔法を使ったりするのは、小さい頃から何度も空想したことがあるのに、現実化したことなんて一度もないぞ。なぜ、今まで自分の力に気づかなかったんだろう?)


「能力が覚醒するには┅┅」

「わっ┅┅」

 突然横から聞こえてきた声に驚いて起き上がった。いつの間に来たのか、サクヤが俺の横に正座していた。

「┅┅使霊である精霊との接触が必要なのです」

「あ、ああ、そうだったのか┅┅スイッチが入ったってことか┅┅だから、どうしてもここに来る必要があったんだな┅┅」

 サクヤは頷いて、なおもじっと俺を見つめて座っていた。

「あの┅┅一つ訊いていいかな?」

「はい、なんなりと┅┅」

「俺は、その、何百年か何千年か前の、英雄の生まれ変わりと考えていいのかな?」

「はい┅┅あなた様は二千六百年前、このヤマトの国が、妲己という大陸からやって来た恐ろしい妖魔に襲われたとき、この国の精霊たちを率いて見事に退治なされた英雄、ヤマトタケルの生まれ変わり┅┅」


 俺はあまりのことに言葉を失った。ヤマトタケルについては、小学生の時漫画の歴史本で読んだことがあった。天皇の命令で日本中を旅し、朝廷に従わない異民族たちを討伐して従わせていった英雄だ。確か、最後は土着の神々に裏切られて焼き殺されるという悲惨な死に方だったように記憶している。彼がまさか妖魔とも対決していたとは┅┅いや、むしろそっちが本業で、朝廷は都合良く彼を利用していたのかも知れない。

 それにしても、ヤマトタケルが俺の前世だとは、まさにファンタジーゲームの世界に迷い込んだ気分だ。


 そのとき、何かもやもやとした不快、悲しみの感情が、霧のように俺の心に流れ込んでくるのを感じた。横に視線を向けると、サクヤがまだじっと俺を見つめているのに気づいた。そして、もやもやした感情の波が、彼女から発せられていることを知った。

「┅┅あの┅┅どうかしたのか?」

 サクヤははっと我に返ったように視線をそらし、うつむいた。

「い、いいえ、なんでもございません┅┅どうぞお休み下さい┅┅」

 サクヤはそう言うと、すーっと俺から離れて、テントの外へ出て行った。


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