6 力の目覚め 2
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「新しき射矢王襲名の儀まで、あと十日。さらに厳しき鍛錬となります。修一様、お覚悟はできておられますか?」
三日目の夜、テントの外でサクヤが問うた。
「ああ、大丈夫だ。やろう!」
サクヤは頷くと、俺を草原の奥の方へ誘っていった。
「今宵より、心術を次の段階へと進めます。谷渡りの基本を思い出し、精霊の力を信じて戦って下さりませ」
そこには一本の木があり、そのてっぺん辺りから地上へ、一本の細いロープが張ってあった。微かな星明かりしかない中で、そのロープはいかにも頼りなげに風に揺れている。
「修一様、これを┅┅」
そう言ってサクヤが差し出したのは、一振りの太刀だった。いかにも古代の剣といった形で、根元は太く、そこから緩やかに細くなっていき、先の方はまた緩やかに膨らんでいる。青銅製だろうか、緑色のサビが所々に付いていた。
「では、これより心術試練の二、心眼開化の闘技を始めまする。いざ、いでよ、戦に敗れし古の戦士、怨霊の宿りし髑髏よ、この細き糸の道をたどりて、救いの扉を開け!」
サクヤが両手を広げて声高に唱えると、ロープの上の方に古代の鎧をまとった骸骨の戦士が現れた。その体から発せられる禍々しい怨念は、俺にも感じられるほどだった。
「さあ、修一様、糸の上に乗り、かの怨霊と戦い、見事に討ち果たされませ!」
「ま、まじかよ┅┅こんな細いロープに乗れって┅┅」
俺は覚悟は決めたものの、どう戦えばいいのか途方に暮れるばかりだった。しかし、もう試練は始まったのだ。とにかく、ロープに片足をかけて思い切りジャンプしてみた。すると、最初の崖と崖の間を歩いたときと同じように、小さな精霊たちが俺の足を支えてくれるのが分かった。
(なるほど┅┅精霊の力を信じるとはこういうことか┅┅よし、あとは、体術で習った剣技であいつを倒せばいいんだな)
俺はようやく冷静さを取り戻して、剣を構えた。
「修一様、止まっていてはなりませぬ。この糸は相手が最後まで渡りきれば、相手の勝ちとなりますゆえ┅┅」
「ええっ?そうなの?早く言ってくれよ」
俺は慌ててロープを登り始める。相手の骸骨戦士もゆっくりとロープを伝って下りてくる。ともすれば足下に目がいって、思わずよろけて落ちそうになる。お互いが動くたびに、ロープは揺れて、体のバランスが崩れる錯覚に陥る。本当は精霊たちが体を支えてくれるので落ちることはないのだ。
俺と骸骨戦士は、いよいよロープの中ほどの所で対峙した。近くで見ると、なおさら相手の不気味さと体から発せられる吐き気を催すほどの怨念が感じられて、俺は恐怖に体がすくむのを感じた。
「!」
そいつは俺の心の動揺を見透かしたかのように、剣を振り下ろしてきた。思わず腰が砕けて、後ろに下がる。それに乗じて、相手が詰め寄ってくる。
俺はそのまま叫び声を上げて、逃げ出したい衝動に駆られた。
〝修一様!〟
サクヤの心の声が頭の中に響き渡った。
(そうだ、俺はサクヤと約束した。ここで逃げ出すわけにはいかない)
俺は素早く立ち上がり、迫ってきていた骸骨戦士に逆に踏み込んでいった。相手は虚を突かれて、半歩後ろへ下がった。そこへ真っ直ぐに剣を突き出した。だが、相手も戦場で鍛えた戦士だ。身軽に後ろに飛んで突きをかわすと、低い姿勢でそのまま走ってきて、俺が防御の構えをとったとたん、大きくジャンプした。そして真っ向から俺の頭上に剣を振り下ろしてきた。
剣で受け止め、何とか致命的な一撃は外したが、相手はロープに降り立つやいなや猛烈な早さで剣を縦横に振ってきた。習った体術でどうにかかわしていったが、二歩、三歩と後退を余儀なくされた。このままでは、いずれ相手の一撃を受けて倒れるか、押し切られてロープを渡られてしまうか、だ。
俺は必死に考えた。この三日間学んできた中に、何か現状を打破するヒントはなかったか。精霊、命、力、変換、信じる┅┅集中、心を細くして┅┅思い描く┅┅集中して、心を細くし、そこに思い描く┅┅。
「でやあああっ!」
俺は骸骨戦士に強い風をぶつけるイメージを持って、左手を前に突き出した。すると、左手が緑色の光に包まれ、次の瞬間、その光がエネルギーに変わり、風となって骸骨戦士を包み込んだのだった。
骸骨はとっさにロープを掴んで飛ばされまいとしたが、俺はその隙を見逃さなかった。前に走って思い切り剣を突き出す。骸骨は避けることができず、俺の剣は、骸骨の眉間を打ち砕いて、後頭部へ突き抜けた。
「勝負あり!」
サクヤの声と共に、骸骨戦士は黒い光となって消えていった。
俺は大きく息を吐きながら、後ろを振り返った。
サクヤはわずかに微笑みを浮かべて俺を見つめていたが、彼女のほっとした思いと、かなり強い喜びの感情は、隠すことができずに伝わってきていた。
「お見事でございました」
「う、うん┅┅ちょっと卑怯な手を使ったかな?まともに戦っていたら、きっと俺は負けていたよ┅┅ありがとう、精霊たち┅┅」
俺はロープを歩いて下りていき、地面に降り立つと、精霊たちに感謝した。
「いいえ、あれで良いのです。心眼開化は、精霊の力を己の体に取り込み、それを様々な形に変えて使えるようになること。闘いの場合は、修一様が為されたように、火、水、雷、金、土のそれぞれの中で、己が得意なものを相手にぶつけるという形になることが多い。じゃが、他にもいろいろと使い道はありまする┅┅」
サクヤはそう言うと、自分の特性である土気を使って、心眼の使い方の一端を示した。いきなり地響きがしたかと思うと、草原の一部が盛り上がり、そこに階段ができていく。地面の動きが止まると、サクヤは俺を促して階段を上っていく。
「行く手を塞がれたときなど、土気の使い手がおれば、このようにして先へ進むこともできまする。また、修一様のように木の気が強い者がおれば┅┅」
高さ三メートルほどに盛り上がった地面の上に立ったサクヤは、俺の手を取って続けた。
「さあ、風を己が身にまとい、思うがままに飛び回ることを心に強く描きなされ┅┅」