44 東京の闇
「┅┅着きました。ここからは歩いて十分掛からないくらいです」
俺たちは少女とともに駅を出て、真夜中の街を歩いて行った。
「東京って、ほんと、どこもかしこも迷える霊でいっぱいなんだね┅┅」
メイリーが近寄ってくる浮遊霊たちを追い払いながらため息を吐いた。
「ああ、だがこれはちょっと多すぎるな┅┅妙な感じだ┅┅」
「ええ┅┅実はさっきから、とても嫌な┅┅視線のようなものを感じています」
俺は頷いて、少女を呼び止めた。
「ねえ、君、ちょっと止まってくれないか┅┅」
「えっ?┅┅でも、アパートはもうすぐそこですが┅┅」
「うん┅┅すまないが、どうやらさっき言ったことは取り消さないといけないようだ┅┅君や君の彼氏には悪霊は取り憑いていない、それは間違いないけど┅┅この辺り一帯がどうやら悪い奴のなわばりになっているみたいなんだ┅┅」
「わ、悪い奴?」
「ああ┅┅といっても、人間じゃないよ┅┅んん┅┅悪霊の気でもないんだよな┅┅」
俺は、集中して辺りの気の流れを探りながら言った。
サクヤとメイリーは少女を守るように自分たちの背後に隠しながら、真剣な表情で周囲をじっと見回している。
「うん、どうやらこの先のビルのようだな┅┅俺が先に行くから、お前たちはその子をしっかり守ってくれ」
「「承知しました」」
俺はいつでも攻撃に対応できる準備をして、横道に入っていった。目指すビルは、裏通りの一角にあって、若者たちが集まる店が立ち並んでいる区域にあった。深夜の一時を回っている今でも、通りには奇声を上げて騒ぐ若者たちが溢れ、あちこちの店からはけたたましい音楽が流れ出していた。
俺たちはそんな喧噪の横を通り過ぎ、目指すビルの側まで来ていた。ところが、ビルの入り口には数人のガラの悪い男たちが、まるで番人のように缶ビールや酎ハイを飲みながらたむろしていた。
「ん?何だ、このガキ┅┅」
「へへへ┅┅いい女連れてるじゃねえか┅┅薬でも欲しくなったか?」
「うん┅┅ここの地下で間違いないようだ┅┅ねえ、お兄さんたち、ここの地下にはどんなお店があるの?」
俺の問いに、男たちの顔色がさっと変わった。そして、おもむろに立ち上がると、それぞれが服のポケットからナイフやチェーンなどの武器を取り出した。
「てめえ、射矢王とかいう奴か?」
「あれ?俺のことを知ってるの?┅┅ということは、ここの地下にいるのは┅┅」
「やっぱりそうか┅┅お頭の予想が当たったな┅┅おい、ケン、お頭に知らせてこい┅┅この先には行かせねえ┅┅」
〝サクヤ、メイリー、その子を頼む。襲ってきたら、殺さない程度にやっていいぞ〟
〝わーい、久々の獲物だぁ、楽しみぃ〟
〝分かりました┅┅修一様、お頭というのは┅┅〟
〝うん┅┅たぶん、あいつだよ┅┅〟
〝えっ、何、何?兄様と姉様が知ってる奴なの?〟
〝あとで、話すから┅┅ほら、油断しないで、来るわよ〟
サクヤの言葉が終わらないうちに、男たちが一斉に襲いかかってきた。
「きゃあああ┅┅」
少女は恐怖に叫んで道路にしゃがみ込んだが、彼女を人質に取ろうと襲いかかってきた二人の男たちは、なぜか突然崩れ落ちた地面に落ち込み、その後何発かの打撃を加えられて気を失ってしまった。
一方、俺の方もほとんど戦いらしいことは起こらず、三人の男たちは鎖で体を縛られ、電柱にくくりつけられた。
「よし、じゃあ行こうか┅┅ああ、君、名前は?」
「は、はい┅┅平野優花です┅┅」
「うん、じゃあユウカちゃんでいいかな?ええっと、君は危険だから、ここで待っていてくれ。相棒の一人を置いていくから心配しないで┅┅五分経ったら、警察を呼んでこいつ等を引き渡してくれ」
「わ、分かりました┅┅」
少女は不安を隠しきれない様子で、仕方なく頷いた。
「というわけで、メイリー、ここで彼女を守っていてくれ」
「ええっ?そんなあ┅┅私ももっと暴れたいよぉ」
「ああ、暴れる機会はこれからどんどん増えるぞ。それに、護衛も大切な仕事だ、いいな?」
「はあい┅┅じゃあ、そのかわり、帰ったらいっぱいなでなでしてね」
「あ、ああ、わかった┅┅すり減るくらいやってやるよ」
優花という少女は、空中に向かってしゃべる俺を奇異の目で見ながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
俺とサクヤは、ビルの入り口から入り、突き当たりにある地下への階段へ向かった。男たちが言っていた〝お頭〟というのが、俺とサクヤが思い浮かべた人物ならば油断はできない。途中に手下を潜ませたり、ワナ仕掛けたり、卑怯な手段も平気でやってくるはずだ。
俺たちは地面に仕掛けられたワナを警戒して空中に浮かび、サクヤが前を行く体勢で地下への階段を下りていった。
〝修一様、ここに二人┅┅ナイフと鉄のパイプを持っています〟
人間には姿が見えないサクヤは、潜んでいる敵の位置を俺に教えながら、先へ進んでいく。
「おい、隠れても無駄だぞ」
俺の声に、二人の男たちが柱の陰から出てくる。動きや構えから見て、どちらもかなりの実戦経験を持つ手練れのようだった。しかし、こんな所で時間を食うわけにはいかない。俺は火気の精霊を使って、二人の持っている武器を一気に熱した。
「うわあああっ」
二人は一瞬にして真っ赤になった鉄に手を焼かれ、武器を放りだした。
「く、くそったれええっ」
男たちは怒り狂って素手で向かってきたが、俺は鉄の鎖で男たちを縛り上げ、柱にくくりつけた。
〝修一様、能力者です┅┅かなりの力を持っています〟
〝分かった、俺が行くまで隠れていろ┅┅〟
〝承知しました〟




